第7接種「ムダイ!突貫す!」
「デルナモ、久しぶり!」
「おう! エンちん! 久々じゃねーか! 今まで何やってたんだ?」
あっさりとマグマの中から復活したチオ、そして獄炎王デルナモはお互いに笑い合いながら
チオのことを彼女はエンちんと呼んだ。
「ちょっと色々あって、数百年くらい封印されちゃってた……デルナモは変わりないみたいね! あ、そうそう、紹介するわ。こちら、私を復活させてくれた、ムダイ!」
「どうも……ムダイです」
突然彼女に切り刻まれたこともあり、俺はこの獄炎王のことは警戒している。力があるのは身に染みて分かったが、危険すぎる思考の持ち主であることはたしかだ。
「あー、このボウズ、さっき切っちゃったんだわ、すまん。エンちんの仲間だと分かっていれば切らなかったんだけどよ」
――ってか切っても死ななかったんだけど、これ人間なのか?
溶岩の中に居を構えている人間に言われたくないと思った俺だったが、そこは黙っていた。
「うーん、私もよく分からない。違う世界からやってきたみたい」
――だよね? ムダイ。
「俺は、注射を打って死んで、もう一回注射を打って……」
俺が少し言葉に詰まっている様子を見兼ねた獄炎王が、遮って言った。
「細かいことはまあ、どうでもいいか。あーしのところに来たってことは、用があるってことだろ? エンちん」
「そうね。デルナモ、あなたの刀鍛冶としての能力を見込んでのことなんだけど……」
――ムダイに刀を作ってやってくれない?
「……はい?」
この獄炎王は刀鍛冶だったのか? しかも、俺の刀?
「ちょっと待ってくれ、チオ。俺の刀って……そんなこと聞いてないぞ」
「だって言ってないもん。魔王ギルレアと戦うんだし、上等の武器は必要になるし……」
勇者の
「なるほど……そーゆーことか。いいだろう……ムダイ、あーしと勝負だ」
――あーしに勝てたら、刀を作ってやる。
「で、どうだ? エンちん?」
「何も問題ないわ。ムダイは絶対に勝つから」
どこからそんな自信がでてくるんだとツッコミを入れたくなったが、ようやく、バトル展開が始まったのだ!
俺が夢見た破鬱無大の大いなる冒険譚の幕開けだ!
「……ぐえ」
秒で負けるとはこのことだった。獄炎王と俺とでは圧倒的に経験の差が違った。幾度となく死線を潜り抜けたであろう、獄炎王の動きはしなやかで柔軟性に富んでいた。首に刃を突き立てられ、あっという間に切り刻まれた。
【自動回復付与】の効果がなければ、即死だ。それほど鋭い剣先、獄炎王が刀を一振りするだけでその空間ごと断絶される。全ての
「拍子抜けするよなー。ただの切っても死なない生き物だったなんて……」
――な!
喉を掻き切られる痛み、だが、それもすぐになくなる。俺、もしかして死ねないただのゾンビになっただけなんじゃないのか……?
「受け身のムダイから変わるんだよ!!」
チオが俺に向かって叫んだ。俺は言われるがまま、全て受けてきたんだ。依頼だって、仕事だってワクチンだって……
だから、俺は死んだ。受動的な性格を越えなければならない。己を磨き上げて、己を鍛え、高みへと昇り詰める。そんな修行僧のような崇高な生き方をすべきなんだろう。
困難に打ち勝つために、自分を塗り替える、自分を偽る、自分を騙す。それが変わるということだ。
「だったら、俺……変わらなくていい!」
覚悟が決まった。変わるためじゃない、強くなるために、俺は変わらないことを選んだ。
【引力操作】
脳に文字列が浮かび上がる、あの感覚だ。新たな能力に目覚めた、ということなのだろう。俺は全身に力を込めた。
「ちょ、ボウズ、何やって!」
ワクチン接種をすると磁石がひっつくなんて言われていた。何もかもが俺のところに集まってくるのだ。俺が重力の中心、引力を
「ってめー許さねーからなコラ! エロガキ!」
両手の中に柔らかい感覚、握ると程よい手ごたえを感じる。人肌の温もり、手の動きに呼応して、デルナモの甘い吐息がやけに近くに感じられる……
「あーしの胸を揉むなってんだろ!」
俺とデルナモはぴったりと体を寄せ合っていた!
「あー暑苦しいんだっての! さっさと離せよ!」
「いや、これ、まだ操作が難しくって……」
意図せずに、俺はデルナモを押し倒す。いやこれ、ラブコメとかでよくあるやつじゃん……
「刀、作ってやるから! 離せってー!」
「まったく、ムダイはいつだって予想しない方法で解決しちゃうんだから……」
チオが苦笑いをしているように見えた。いや、俺だってほんとは正々堂々戦って勝ちたかったさ……
俺は新たな能力の覚醒を喜ぶよりも、望んだようにことが運ばなかったことに対する落胆の気持ちが大きかった。
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