第38話
数ヶ月後、ジャンボはまたリハビリも終えて退院した。
仕事に戻るのは1ヶ月だけ待ってもらった。
チョコとバニラが帰ってくるのを待って、三人で柔軟体操をして宙返りやらバク転やらの、立ち回りを少しずつやってみた。
いつの間にかカンフーの型もバッチリだ。
「お前ら、本当に成長したな」
二人の動きを見て、ジャンボは今まで思考から遠ざけていた思いを取り戻しかけていた。
腕章が消えたあの開かずの箱は、チョコが封を切ったのを機に、中身をひとつずつ整理して棚に並べた。
「見てもいい?」と聞かれて頷くと、二人はキラキラした目で京劇の台本や小道具などを見ていた。
もうすでにジャンボの心は固まっていたのかもしれない。
翌年の初夏、三人はまたあの校舎跡へと歩いていた。
どうしても去年のことを思い出し、神妙な顔になるチョコとバニラに、突然ジャンボは抱きついた。
「な、なんだよ!」
「あのな、愛してる」
「急にやめろよ!」
ジャンボはまたわしわし二人の頭を撫でた。
せっかく整えたのに台無しだ。
やっぱりジャンボの考えてる事は分からんと、そのまま歩き出したジャンボの背中を二人で見つめた。
ふと、小さい時はあんなに大きく見えた背中が、そこまで自分たちと変わらなくなったことに気がついた。
「おお!ジャンボ!お前本当に無事で良かったな!!」
校舎跡にはもう、仲間たちが数人集まっていた。
彼らも入院中にかわるがわるジャンボの見舞いに来てくれていたのだ。
そのせいで病室は花とフルーツに埋もれ、チョコとバニラに頼んで隣人に渡し、テキトーに配ってもらったことを思い出す。
すでに集まっていた一人に、去年京劇の事で言い合いになった、劇団員もいることに気がついた。
ジャンボは彼に近づき、控えめに声をかける。
「少し、二人で話せないか?」
ジャンボの静かな声に劇団員は頷き、二人はそっと賑やかな輪をぬけて表に出た。
「去年のこと、悪かった」
「いや……」
二人はなんとなく空を見上げたりしながら、ぎこちなく話す。
ついにジャンボは切り出した。
「俺の息子たち、本当に京劇の世界でやっていけると思うか?」
劇団員は驚きジャンボを見た。
ジャンボは真剣な眼差しで視線を返した。
「やっていけるどころか……すぐに人気俳優になると思う。お世辞じゃない。本気だ」
「そうか」とジャンボは答えた。
5月の風は優しかった。
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