第36話

 病室の外に出て立ち止まったチョコはその声を聞いていた。バニラがすぐに追いつき駆け寄る。



「なぁ……自首するって……本当か?」

「……俺、ジャンボのこと、あと少しで殺すところだったんだ。こんなにずっと一緒にいたのに、なにも信じられなくなった。こんなヤツ、野放しにしちゃダメだろ」



 チョコは笑ったがバニラが即座に殴り倒した。

驚くチョコにバニラは言う。



「お前、ジャンボの話ちゃんと聞いてなかったのかよ」



 バニラの静かな声にチョコは動揺した。

その姿を見てバニラはため息をつく。



「この一連の犯人、誰だったと思う?」



 バニラは言った。

そして誰もが明言を避けている一言を、ハッキリと伝えた。



「この『国』だよ」



 苦しげな顔をするチョコを立たせ、バニラはため息混じりに言った。



「ま……ひとまずは目の前のことから片付けよう。

お前は切りつけたことを謝る。

俺は蹴飛ばしたことを謝る。

ジャンボはあの腕章を捨てる。

それで最初からまたやり直そうぜ」

「……最初から?」

「そう。今日俺達はまた初めて会った。そういうことにしよう」



 バニラはそういうと、あーあとため息をつき、廊下の長椅子に座った。

チョコもその隣に静かに座る。



「ふふ……初めてかぁ……あの時のジャンボめちゃくちゃ怖かったよな」

「なー。俺絶対殺されると思ったよ。内臓全部とオサラバだと思った」

「でも、ごはんは美味しかった」

「たまに大失敗もあったけどな」



 チョコは溢れる涙を止められなくなった。



「また、三人で暮らせるかな……?俺、ジャンボとバニラと一緒にいてもいいのかな……?」



 バニラは隣に座るチョコの肩に手を回し、力強く抱きしめた。



「当たり前だろ。ジャンボだって同じこと言うよ。絶対に」



 チョコはかすかな声で「ありがとう」と告げた。

もうチョコは5才までの記憶を全て取り戻していた。

その時に出せなかった涙も流すように、ずっと静かに泣き続けた。

バニラはその隣からずっと離れなかった。

きっと、ジャンボの心も。

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