第37話

 それから数日、意識が戻ったジャンボの元にチョコとバニラは必ず二人で見舞いに来るようになった。

バニラはその間に、自分の気持ちも二人に告げた。



「今でも、もしあのまま森で待ってたら、本当に親が迎えに来てくれたんじゃないかって、ずっと思ってるんだ。

親を殺してやる、なんて言ってるのに情けないよな。

……ずっと弱い自分が憎くて隠してた」



 そして悲しげな視線をチョコに向ける。



「俺のせいでお前が強盗を始めちまったこともずっと、申し訳ないと思ってる」



 ジャンボもチョコも戸惑ったが、バニラは強く意思がこもった声で二人に告げた。



「でもな、俺は3人で暮らせてめちゃくちゃ幸せだった。これからもずっとそうだ」



 バニラは照れながら笑った。ジャンボはつられて微笑んだが、少し自虐じみた声を出す。



「なんかお前が一番大人だな」

「もう17才なんだぜ」

「それなら俺は36才だよ」

「ジャンボはいいんだよ。特別枠」

「絶対バカにしてるだろそれ」



 不満そうな声にチョコは思わず吹き出した。

あの日以来、初めてちゃんと笑った気がした。



「ずるいよな、バニラもジャンボも。ぜんぜんいつも通りでさ」



 ジャンボはとぼけた声を出す。



「だって俺を襲ったの通り魔だし」



 チョコはぐっと息を飲み込んだ。



「……本当に悪かった。その上庇ってもらったのも知ってる。ごめん」



 深くチョコはジャンボに頭を下げた。

この事件についてはさすがに、それなりにニュースになったのだ。

そしてもちろん公安も動いた。ジャンボは一度だけ、彼らに聞かれていた。



「息子さんと似た背格好の少年が、青龍刀を買ったのを見たという、証言もあるのですが」

「いや……たぶん人違いだと思いますが……」



 戸惑っていたジャンボは「あっ」という顔をする。

そしてゆっくり額をおさえる。



「……私が刺されたの、青龍刀だったんでしたっけ?」



 公安は少し気まずそうに「ええ」と答えた。

ジャンボはしばらくの沈黙の後、攻撃の手を緩めず彼らに言った。



「アナタ方は私の息子を疑っているのですか」



 深い怒気の込められた声に彼らは怯み「一応お聞きしているだけです」と慌てて誤魔化した。

そしてそそくさと出て行き、もう現れることもなかった。


 「役者って便利だなぁ」と思いつつ彼らの後ろ姿を見送ったのは秘密である。


 同じ質問はチョコ達にもされたのだが、隣にいたバニラがブチ切れたので、結果はやはり似たようなものになり、事件はめでたく迷宮入りしたのだった。


 ジャンボはやっと動くようになった腕で、チョコの頭を撫でた。



「俺が望んだからそうしただけだよ。最初にお前らを引き止めたのだって、俺のワガママだった」



 チョコはいまだにかぶっている人民帽で顔を隠して、少し泣いた。

その横でバニラもジャンボに頭を下げる。



「俺も酷いこと言って、蹴飛ばして、本当にごめん」

「やだ」



 予想外の答えにバニラは口を開けて固まった。

ジャンボはその様子を見て楽しそうに笑う。



「ジョーダンだよ。お前があんまりにも大人だからからかいたくなった。

そんなことよりさ……二人とも、俺を許してくれてありがとうな」



 少し無理をしてバニラの頭も撫でた。

そうしたらバニラは無言で自分から近づいてきたので、わしわし撫でた。

髪型が爆発後のようになり、バニラは不満そうにする。

チョコは笑った。ジャンボも笑った。

バニラも少し遅れて、一緒に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る