第7話
食堂を出たあともぐずり続けるバニラを抱え、ジャンボは家へと歩き出す。
その横をとぼとぼとチョコもついてきた。
「俺はてっきり、チョコの方が駆け込んできたのかと思ったよ」
だとしたら、標的は自分だっただろう。
幸いチョコもバニラも外にいて、二人の会話は聞いていなかったようだ。
もし聞かれていたらと思うと、あの低い声を思い出して、少し恐ろしくなる。
チョコはかなり気まずそうに、少しうつむいてジャンボに答えた。
「バニラはずっと俺に声をかけてくれてたんだけど……俺が答えないから『そんなに気になるなら食堂へ見に行こう』って言ってくれたんだ……」
バニラはまだぐずぐず泣いている。
あまりに大泣きしたせいか、鼻水も酷いし眠気もやってきているようだ。
チョコはその様子を伺いながら、控えめな声で続けた。
「バニラが俺の手を引いてくれて、食堂の前まで来て、ガラス戸の外からこっそり見てた。
俺はなんだかもう、ジャンボも普通に話してるし、落ち着いてたんだ。
でも、バニラがなんにも喋らなくなっていって」
彼女に引き止められてジャンボが立ち止まった時、子供ながらにバニラはなにかを感じ取ったらしい。
「止める暇もなかった。俺も驚いてて、バニラがなんで飛び込んでいったのかも分からなかったから、思わず叫んで……でも!ここに来たのも俺のためなんだ!そうしなかったらこんなこと……たぶん……」
チョコは少し語気を強め、そして弱々しくうつむいた。
ジャンボはため息をひとつつき、もうほとんど寝ているバニラを右腕だけで抱えなおす。
そして、チョコの前にしゃがみ、左腕を伸ばして頭をなでた。
「俺は、お前らと暮らすのが一番楽しいよ」
チョコはみるみる内に涙目になって、サッとぶかぶかの帽子を両手で引っ張り、顔を隠した。
そんなチョコの背中に左腕を回し、そのまま抱き上げる。
「お前たちも心配症だな。俺があんな綺麗な人と付き合えるわけないだろ」
「それは俺も思ったけど……」
「あ?」
ジャンボは人相の悪い顔で、チョコを睨んだ。
チョコは一瞬だけその顔を見て、またサッと帽子で顔を覆う。
けれど、次の瞬間にはジャンボは笑っていた。
「冗談だよ。お前の言う通りだ」
チョコはジャンボが笑っているのは分かったが、もう顔は上げなかった。
それに気を張りすぎたせいか眠たくて、隣のバニラの寝息にもつられて、たった数分の道のりの間にウトウトしてしまう。
ジャンボはその様子を見て、もう声はかけなかったが、二人をしっかり抱きかかえた。
いつか彼らが成長したら、抱いて帰ることもなくなるのだろう。
それまでずっと、三人でいよう。
ジャンボは少しだけ食堂での会話を思い出していた。
優しい笑顔をしていたと、もっと素敵な顔で笑いながら話す彼女のことも。
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