第22話

 先生の命日については調べても記録も証言もなく、ただざっくりとした期間しか結局わからなかった。

だからジャンボやチョコとバニラは互いに用事を合わせ、無理せず行ける時に墓参りに行こうと決めた。

当日の天気は日中は晴れるが、夜は雨が降るらしい。

明るい内に行って帰ってこよう。そんな話を三人でしていた。


 手土産にはまず酒を選んだ。

稽古中ちょくちょく飲んでいた姿は覚えていたので、少しいい酒を買った。そしてグラスも二つ買った。

一つは酒を注いで墓に置き、一つは注いで自分で飲むためだ。

ビンで置いていってもいいのたが、きっと泥棒にとられてしまうだろう。

それなら先生を偲びながら、少しづつ飲めたらいい。


 ジャンボ達は花屋にも寄った。

先生の好きな花など分かるわけもないが、せめて色くらいなら思い出せないかと、頭をうならせる。



「なんだかいつも地味で無難な色のものばかり使っていた気がするんです……」

「ネクタイとかネクタイピンとか、傘の色とか、そういう物に好みの色が出たりしますよ」



 花屋の店員はちょうど他に客もいないので、ジャンボの相談になんとなく付き合っていた。



「そうだ……傘……」



 ジャンボが呟くと、バニラとチョコは身を乗り出した。



「なんか思い出したのか!?」

「先生の傘……葉っぱの柄だった」

「葉っぱかよ!!」



 チョコとバニラはガッカリしたが、ジャンボはまだ記憶の紐を辿っていた。



「そういえばガラにもなく香草なんて育ててたんだ……。俺たちはガキだったし、雑草との見分けもつかずに全部引っこ抜いちゃったんだけど、先生怒るっていうよりしょげてたんだよ。

そうだ、窓にあれがあった。

貰い物だって言って、水をあげてた……鉢植えの……冬に赤くなるやつ……花みたいな葉っぱの……」

「ポインセチアですか?」

「それだ!」



 ジャンボは記憶がつながり、一つの確信を得た。



「そうか……植物が好きだったんだ……」



 情けない笑みがこぼれる。

あれだけ同じ時を過ごしたのに、今更気がつくだなんて。

ため息をつくジャンボの横で、バニラは店員に控えめに聞いた。



「でも……葉っぱ中心の花束なんて出来るんですか?」



 店員は「もちろん」と心強い笑みを返した。

包みながら店員は花束の説明をしてくれた。グリーンブーケというのもあるのだと。

三人はジャンボのつたない記憶から引き出した緑色の花束を持って店を出た。


 いよいよ、初めての墓参りだ。ジャンボだけでなく、チョコとバニラもなんとなく緊張していた。

春から夏に変わる初夏の朝。涼しい風が吹いていた。

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