第28話
バニラに遅れること数分、ジャンボがドアノブに手をかけると鍵はかかっていなかった。
玄関前に立ったバニラは顔を出したジャンボの胸ぐらを掴み、その眼前に紅い腕章を突きつけた。
「なんだこれは」
バニラの声は普段の穏やかな声とは別人のようで、地の底から響くような唸り声だった。
「どこで見つけた……」
「物置の中の箱の前に落ちてた。アンタが絶対に開けるなと言い続けたあの箱だ!」
バニラはジャンボの胸ぐらを掴んだまま中へ引きずった。
この四合院に越してきた頃から封をし、一度も開けたことのない箱が、誰かの手によってひっくり返されていた。
バニラもジャンボも分かっている。きっとチョコの仕業だと。
「家中チョコを探したけどどこにもいないんだ!
どうしてこんなものを後生大事にとっておいた!アンタ、チョコの過去を聞いたんだろ!?
いつだって処分できたはずだ!答えろ!!」
ジャンボは胸ぐらを掴まれたまま、黙って立ち尽くしていた。
するとバニラは狂気の混じった声で笑い出す。
「はは……分かった。アンタ革命の英雄ってやつだ。そうなんだろ?
ははは!俺たちを拾って偉そうに名前なんかつけて、家族ごっこは楽しかったかよ!ははは!なぁ!?」
バニラは怒り狂い、笑いながらジャンボを殴った。
ジャンボは顔をおさえ、すぐに立ち上がり呟く。
「俺はチョコに話さないといけないことがあるんだ」
「うるせぇ!!」
バニラはジャンボを蹴り飛ばした。
腹にモロに一撃が入り、しばらく動けなくなる。
その様子を見て、バニラはまた笑った。
バラバラになりそうな心をやっとの思いでつなぎとめているような、乾いた笑い声だった。
「馬鹿なこと言うなよ。アンタは紅衛兵の功績と一緒にいつまでもここでのうのうと生きてりゃいい。チョコは俺が見つけて、二人でここを出ていく。
まるで喜劇だよなぁ、ははは!全部、全て、偽りだったんだ……。
アンタは家族なんかじゃない。二度と俺たちに関わるな」
バニラは捨て台詞を吐き捨て、雨の中へと飛び出していった。
このままもしも本当に、二人だけで家を出たとしても、彼らなら暮らしていけるだろう。
9歳の時だってそうしていたんだ。
けれど、そんなつもりはジャンボにはなかった。
ふらふらと立ち上がり、四合院の外へ出る。
ずっと封をしてきた箱の中には京劇の冊子や小道具や、仲間たちで撮った写真なども入っていた。
全て、今日まで開けることすら出来なかった箱だ。
今日で全部終わらせる。
雨は次第に本格的に降りだし、バニラにもジャンボにも平等に降り注いだ。
恐らくチョコにもそうなのだろう。
ふらふらと人のいない街を歩くジャンボの後ろで、刃物だけが鈍く輝いていた。
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