第23話 お見舞い


修はその日、少し緊張していた。

アイリスと訓練以外で二人で外出はほぼなかったからだ。

と言っても、彼女の父、ジョージのお見舞いの付き添いなので、デートというわけではないと思われるのだが。


***


前日、アジトでアイリスによる訓練を受けていたのだが、アイリスの様子が少しおかしいのに気づき、Tシャツで汗を拭きながら声をかけた。


「アイリス、何か元気無いじゃん。どうした?」


「…。」


アイリスは見つめていたタブレットを修に見せた。

修はそれを見て全てを察した。


「お父さん、まだ目が覚めないんだ…。」


そこに映っていたのは、ジョージの病室に置いてきた、見守りカメラから送られてくる病室の様子だった。


「…お見舞いは行ってるの?」


「…いえ、護衛をしなければなりませんので、私にはそんな時間は…。」


「…え!?もしかして俺のせい!?」


修がわたわたと慌てだすと、アイリスは苦笑しながら言った。


「いいのですよ。父上には任務の方が最優先と教わってきたので、目が覚めた時、私がいなくてもわかってくれるはずです」


「…。」


修が難しい顔をして少し怒ったように腕を組むと、アイリスに言った。


「アイリスとお父さんの仕事に対する姿勢はわかったけど、親子なのにお見舞いも行かないのはダメだよ!」


「…ですが、護衛も訓練もありますし…。」


「なら俺と一緒に行けばいいじゃん!言ってくれればいくらだって付き合うよ!」


「…ですが…。」


修は迷っているアイリスを黙らせると、怒りながら言った。


「迷う事じゃないだろ!明日、朝早くに行くよ!これは決定事項です!」


修の言葉に押し切られて、アイリスは少し戸惑っているようだったが、最後は了承した。


***


それで、二人で病院まで、バスに揺られながら来たのはいいものの、まるでデートのような状況に、修は緊張し始めてしまったのだった。


…誘ったのは俺だって言うのに情けない。


修は片手で顔を覆いながらそう思うと、まるで気にしていない様子で、お人形のように座っているアイリスを見た。


…今何を考えてるんだろう?


そう思ってアイリスをまじまじと見つめた。

表情はいつも通りあまり表には出さないので、本当にお人形のようだ。

ただ花を抱えるその手を見ると、少し握りすぎのような気もする。


…もしかして、アイリスも緊張してる?


そう思うと、アイリスの側に立った気で考えてみた。

今日は久しぶりに父親の様子を見に行く、それまで放っておいた手前、少し後ろめたい事もあり、緊張しているのかもしれない。


「大丈夫だよ…。」


「はい?」


「いや!何でもない、着いたね!」


修とアイリスは病院前でバスを降りると、ジョージが眠っている病室へ向かった。


***


ジョージの病室に着くと、話し声がした。

二人はそっと扉をスライドさせると、そこにはインターポールの福地と荒井がいた。


「珍しいお客様ですね…。」


「お嬢さん!貴女は無事でしたか!ブラウン氏と連絡が取れなかったので調べたら入院されてると聞いて来てしまいました!」


「お嬢さんが無事でよかったです。そちらの方は彼氏かしら?」


福地と荒井が順番にそう言うと、修は顔を赤くした。

だがアイリスは冷静に答えた。


「いえ、彼は警護対象者です」


はっきりそう言われ、修は露骨にがっくりと肩を落とした。

その様子で福地と荒井は何かを察したのか、苦笑しながら暫く沈黙が流れた。

そして、アイリスが花を飾ると、福地と荒井は雰囲気を変え、真面目な顔をして言った。


「ブラウン氏に共有しようと思っていた情報があるんだけど、君の耳にも入れておこうか…。」


「黄道十二宮隊のメンバーの一部が日本にいるのはわかっていた事なのですが、最近他のメンバーも日本入りしているらしいのです」


福地と荒井が順番にそう言うと、修は少し混乱しながら言った。


「…え?それって前アイリスが言ってた暗殺部隊だよね?俺を暗殺するために集まってるって事!?」


「オサ…。」


思わずへたり込んだ修の背中をさすりながら、アイリスは福地と荒井を見た。

福地と荒井も驚いた様子で、修を見つめた。


「なぜ黄道十二宮隊の他のメンバーがここに来て日本入りしたのか謎でしたが、ゲミニが捕まったので敵討にブラウン氏を病院送りにし、任務を全力で遂行しようとしているなら頷けるかもしれません」


「我々もインターポールのはしくれです。暗殺部隊の好きにはさせません。そういう事ならブラウン氏の分も我々が護衛を…。」


荒井がそう言おうとした時、アイリスが手を上げそれを静止した。


「私は彼の母である梶原節子氏に直々に護衛を頼まれています。勝手な事をされると私も父上も困ります」


アイリスが強くそう言うと、荒井は背筋が凍りそうなほどゾクっとした。


「…わかりました、では我々はすべき事をします。もし目覚められたらお父様によろしくお伝えください」


福地がそう言うと、荒井も頭を下げて病室を出て行った。

そして病院を出てタバコをふかしながら、福地が言った。


「暗殺部隊もそうだが、あんな子供にビビらされるとはな。最近は将来が末恐ろしい子ばかりだ」


「…はい」


荒井はその後、カバンを抱えながら福地に着いて行った。


…なぜそこまでするのか…暗殺部隊の事もう少し調べた方が良さそうだな。


福地はやる気が出て来たのか前髪をかきあげて気合いを入れていた。






















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