第37話 後始末と風邪っぴき
森の中、夕暮れ時に福地と荒井が、アイリスに言われた通りの場所に、カプリコルヌスを回収しに来ていた。
「…まさか、親父さん無しで捕まえちまうとはな」
福地がそう言ってタバコの煙を吐き出すと、荒井は気絶していて結束バンドで縛られたカプリコルヌスを車に乗せながら言った。
「子供と思って甘く見ているとダメだと思います。この子も、アイリスちゃんも」
荒井がカプリコルヌスを乗せたのを確認すると、福地はタバコの火を消し、車を走らせた。
「甘く見ていたわけじゃないんだ。ただ暗殺部隊のコイツとあの子が想像を超えていた、それだけだ…。」
福地がそう言うと、荒井はテルマから送られて来ていたカプリコルヌスとアイリスが戦う姿をタブレットで再確認した。
「この子、この歳で義手なんて…信じられない」
荒井はそう言って、縛られているカプリコルヌスを見た。
そこには確かに義手をつけたカプリコルヌスがいた。
「子供に殺されるなんて有り得ないと思っていたが、どうやらその考えは古いらしい。銃や武器を持っていれば子供も大人も関係ないからな。嫌な世の中になったよ」
福地がそう言うと、荒井はやるせなさそうに俯き、カプリコルヌスを見た。
「この子達に救いはあるのでしょうか…?」
福地は後ろに乗る二人をミラーで見ると、静かに言った。
「子供達を更生させるのは我々の仕事ではないが、きっと生き直してくれると信じようじゃないか」
「…はい」
荒井がか細くそう答えると、福地は首を縦に振った。
そしてコードネーム、ゲミニの双子も預けた施設へと向かった。
***
その後、びしょ濡れで茜、海斗、真衣と合流したアイリスと修は、怒られながら体を拭き、また体を温めた。
そしてその次の日、学校に修の姿は無かった。
「あれ?ロボ子さん一人?修は?」
アイリスと修はいつも一緒に登校していたので、茜が不思議そうにそう言うと、アイリスは少し申し訳なさそうな顔で言った。
「オサは今日休んだ。私のせいかもしれない…。」
「あんだけ体冷やせばねー。」
真衣が二人の間を通りながらそう言うと、アイリスは深刻な表情の顔を片手で抑えた。
「なんだ…修は風邪か?」
海斗がそう言ってひょっこり顔を出すと、アイリスはガックリ肩を落とした。
「気にする事ないよ!修はお坊ちゃまだから免疫が無いんでしょ!ロボ子さんはピンピンしてるんだから軟弱なのよアイツ!」
茜が一生懸命にそう言うと、アイリスは少し気を取り直しながら言った。
「…私を一般の人と比べるのはどうかと思いますが、もう気にしないようにします。ありがとう茜」
アイリスの言葉に茜は一瞬、豆鉄砲をくらったような顔をしたが、すぐに嬉しそうに言った。
「ふふ!改まって感謝してもらうと照れるものですね!」
そう言って静かに笑い合うアイリスと茜を見て、真衣はため息をついた。
「ねぇちょっとなんなのあの二人?気持ち悪いったらないわ」
「本当に口が悪いなお前は。実は仲間に入れて欲しかったりしてな」
海斗がボソッと言った言葉に、真衣は目をカッ開いて驚くと、即座に言った。
「別に!そんなんじゃないわよ!なんで私が仲間に入りたがるのよバカ!…やってらんないわ!」
そう言ってブツブツ文句を言いながら真衣が退散すると、海斗はため息をついて、修の席を見た。
…さっさと治して来いよ。じゃなきゃ誰が俺とアニオタトークするんだ。
そう思いながら、海斗は自分の席についた。
***
午後、日課になったジョージのお見舞いを終えると、アイリスはバイクで修の家に向かった。
「テルマ、オサは今寝てますか?」
「はいアイリス、横になられてます」
テルマがドローンで撮影した動画を画面に送ると、アイリスはチラ見しながらバイクを走らせた。
「鍛え始めたとはいえ、まだまだ一般人レベルの体つき、無理はさせてはいけませんね」
「はいアイリス、そもそも身を守るだけなら今のままでも大丈夫かと」
「…いえ、昨日のあのありさまを見て思いました。確かにオサは少し強くなりましたが、精神的にはまだまだです。むしろ自信を無くしたのではないかと心配するくらいです。だから自信を取り戻すためにも、訓練は必要です」
「…。」
アイリスがそう言うと、テルマは少し人の精神的な事を学習しようとしているのか、黙ってしまった。
「テルマ、少し難しかったですか?」
「いいえアイリス、これも勉強になります。もっと思っている事や感じている事を話して欲しいです」
「成長しましたねテルマ、まだ父上がプログラム仕立ての時は、この会話は必要ですか?なんて言っていたのに」
「…変わられたのはアイリスです。前はこんな風に思った事など笑って言ってはくれませんでした」
テルマがそう言うと、アイリスは自分がテルマに笑いかけていた事にやっと気がついた。
…オサがそうしていたので、つい私もテルマに…これは確実にオサのせいですね。
アイリスはクスリと笑うと、バイクをふかしながら修の家に急いで向かった。
…さあて、お見舞いに向かいましょうか!
アイリスがそう思っていると、寝ていた修は何かを感じ、クシュンとくしゃみをした。
「こんな風邪ひくなんて…カッコ悪いよな俺。てか誰か俺の噂してる?」
修はそう言いながら、体温計を取り出して測った体温を見た。
まだまだ熱は下がりそうになかった。
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