第36話 信頼関係
「来ませんね、ロボ子さん達」
茜はそう言うと、コーヒーカップをテーブルに置いた。
茜、真衣、海斗の3人は、人が意外と多い山小屋の茶屋にいた。
わざと真衣によってそうさせたのだが、いい知らせを待っていた真衣は少し苛立っていた。
…あんな腕力だけの奴にいつまでかかってるのよ!まさかこの二人が思っている様に本当にあの二人イチャイチャしてるんじゃ!?
「この私を待たせるなんて!許せないわ!」
「一部のモブが言う様な事言うなよ。山小屋に行こうって言ったのお前だろ?」
海斗はそう言いながら、優雅にコーヒーを飲んだ。
「それはそうだけど、一部のモブって何よ何!?喧嘩売ってんの!?」
「まぁまぁ落ち着いてモブ子さん」
「ちょっと!モブ子さんって何よ何!?ふざけんじゃないわよ!」
真衣が騒ぐので、山小屋の中でかなり注目されてしまった3人は、ついに山小屋の茶屋の店主に話かけられた。
「君達、あんまりうるさいと他のお客さんに迷惑だから放り出すぞ、特にピンク頭」
「申し訳ありません…。」
冗談だとギリギリわかるニュアンスだったが、3人は少し反省し、黙食した。
…全く、ろくな事ないわね…大丈夫かしらあの二人は?
真衣はそう思いながら窓の外を見た。先程までは快晴だった空が、徐々に泣き始めていた。
***
その頃、アイリスと修は、カプリコルヌスが次にどう出るか慎重に見極めていた。
カプリコルヌスも、アイリスが銃を持っていると言う事で、出方を探っている様だった。
「…。」
膠着状態が続き、修は腰にある銃を握った手が、汗で湿るのを感じていた。
そしてお互いに間合いをとりながら、先に仕掛けたのはカプリコルヌスだった。
「レディーファーストといこうか!」
そう言ってカプリコルヌスがアイリスに向かって行くと、アイリスはカプリコルヌスの脇腹を撃った。
だが、吹き飛んだカプリコルヌスはそのまま足を地につき踏み止まると、服の下からある物を見せて言った。
「宣言通り頭を撃てばよかったのにな!防弾チョッキさ!」
そう言いながらカプリコルヌスは上に着ていた服を破り捨てると、また楽しそうにアイリスに向かって行った。
アイリスは一連の流れを見ても顔色一つ変えずに再びカプリコルヌスの胸を撃った。
「…だから、防弾チョッキ!着てるんだってば!」
また吹っ飛ばされたが、そう明るくカプリコルヌスが言い、胸についた弾を取って見せた。
構わずアイリスはまた発砲すると、流石にカプリコルヌスもダメージがあったらしく、脇腹をおさえた。
「いってぇ!」
カプリコルヌスがそう言ってうずくまると、アイリスは少し様子を見ながら近づいた。
その一瞬のスキを、カプリコルヌスへ見逃さなかった。
カプリコルヌスは、アイリスに向かって行きタックルをくらわすと、倒れたアイリスを持ち上げ、締め上げようとした。
「やめろ!」
そこで、修が隠し持っていた銃を向けると、カプリコルヌスと修のかけ引きが始まった。
「銃を捨てろ!」
「彼女を離すのが先だ!」
「銃を捨てろ!」
だいぶ興奮している二人を見て、まずいと思ったアイリスは、カプリコルヌスに対し反撃を試みた。
カプリコルヌスの足を踏み、条件反射したカプリコルヌスの腕から逃れると、くるりと回転して向き合ったアイリスは、カプリコルヌスの股間を蹴り上げた。
「ハッァァァア!」
…痛そう…!
修がそう思い、カプリコルヌスが痛がる様子を見ながら銃を向けていると、アイリスは銃を拾い、カプリコルヌスの首の後を殴って、完全に気絶させた。
「これで大丈夫。オサ、助かりましたよ。彼女を離せなんて言ってもらったのは初めてです。ありがとうございました」
アイリスがそう爽やかに笑うと、修は照れくさそうな顔をした。
「別に、礼を言われる程のことじゃないよ。ただ必死で言っただけさ…。」
雨も上がり、日がさしてくると、どんよりしていてわからなかった紅葉の谷間が見えた。
その光景を二人は少しの間眺めていた。
***
「そうです、結束バンドで縛っておいたので、後で回収しに来て下さい」
アイリスが移動しながらそう言って電話を切ると、修が顔を覗き込んできた。
「今のインターポールの福地さん?」
「そう。協力関係にありますからね。暗殺部隊の誰かしらを捕まえたら連絡する約束なんです」
「アイツあんな所に転がしたままでよかったのかな?風邪ひかない?」
修がそう言うと、アイリスは驚いた様子で言った。
「敵の…貴方の命を狙った相手ですよ?風邪ひかないか心配します?」
「まぁちょっと怖い奴だったけど、あんな所に置き去りはやっぱり可哀想だよ」
「…。」
…私は考えた事もなかったです。懐が広そうだと思ってましたが、ここまでとは…。
アイリスは何だか誇らしくなり、苦笑しながら修を見た。
修はその視線に気づかなかったが、アイリスは構わないと思っていた。
…オサ、信じていますよ。貴方の真心を。
修はスマホが壊れてないか確認している様子だった。
アイリスは森を風がぬけて行くのを感じながら、皆が待つ山小屋に向かった。
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