第35話 過去と交戦
頼りがスマホの灯りだけの洞窟で、アイリスと修は身を寄せ合いながら、昔の話をしていた。
「父さんは大手の企業に勤めてたけど、普通のサラリーマンだった。いつも帰って来たら一緒に勉強したり遊んだりしてくれてたのを覚えてる。海外で銃の扱い方を教えてくれたのも父さんだったし、いい事も悪い事もなんでも父さんに教わった。父さんが交通事故で死んでからだ。母さんが変わったの」
修はそう言うと、悲しそうな顔をしながら、灯りを見つめていた。
アイリスは修を見つめながら、話を聞いていた。
「母さんは最初、交通事故がなくなるように活動し始めて、あっという間に政界に祭り上げられて…母さん自身も世の中を変えるんだって息巻いてた。当然母さんが俺に構ってくれる機会はなくなって…立派な家に住み替えて、使用人までいる様な金持ちにはなったけど、家では俺一人だった」
「…。」
修の話を聞きながら、アイリスも母親が死んだ頃の事が頭をよぎり、目を細めながら修の肩に頭を寄せた。
そんなアイリスを二度見して、少し動揺しながらも、修は話を続けた。
「父さんがいた頃はオサって呼んでくれたけど、母さんはいつの間にか修って呼ぶようになって、それもなんだか寂しかった。あの頃に戻れたらなんて思ったりもして…誰かにまたオサって呼んで欲しくて、全面的にそう呼んでってアピールしたら、逆にみんな呼んでくれなくってな…でもアイリスは呼んでくれた。嬉しかったよ」
そう言って修がアイリスの方を見ると、アイリスは微笑む修に言った。
「そんな事でいいのでしたら、何度でも呼びますよ、オサ…。」
アイリスがそう言うと、修はアイリスを抱きしめた。
これにはアイリスもびっくりし、硬直したが、すぐに修の背中に手を回した。
「アイリス!ありがとう!俺はもしかしたら、君が日本に来るのを待ってたのかもしれない…。」
そう言って修がアイリスを解放すると、アイリスは優しく微笑んだ。
***
カプリコルヌスは日が沈み始めた頃まで、二人が出てくるのを先回りして待っていた。
「そうそう出て来ないかー。出て来たらターゲットの頭を握り潰してやるのに…。」
まるで当然の様にそう言うと、狂気的な笑みを浮かべた。
そこへ、アイリスと修がようやっと出てくると、カプリコルヌスはまるで子供の様に笑い言った。
「お二人さん!待ってたよ!そろそろ俺に殺される心の準備は出来たかな?特に梶原修は?」
そうカプリコルヌスが笑うと、修は息を呑んだ。
それを見てアイリスは、顔には出さなかったが、少し怒った様子で修の前に立ち言った。
「殺されるつもりはありません。そんな事より、貴方の手、生身の手ではありませんね」
「へぇ!よくわかったね!そうだよ、俺の右手!暗殺作戦中に吹っ飛ばされてね!今は義手なんだ!」
見せつける様に皮膚に似せたゴムを取り、義手を見せて来たカプリコルヌスに、アイリスはかなりビビっている修の手を握った。
「その義手で何人の命を奪って来たのです?」
「え!?聞きたい!?一人で殺したのは53人かなー、共同でしとめたのをたすともっといるよ!」
…やっぱりコイツ狂ってる…!
全て楽しそうに話すカプリコルヌスに修は恐怖を隠せず、アイリスの手を握り返した。
そんな修を落ち着かせる様に、アイリスは修の手を更に握ると、修の方を見ずに言った。
「オサ…いきますよ」
アイリスがそう言うと、修はアイリスの方を見た。
修を落ち着かせながら、真剣な顔でカプリコルヌスを睨むアイリスに、修は少し顔を赤らめた。
…大丈夫、俺はアイリスを信じてる。
そう思いながら修は、アイリスの隣りに立った。
「…大人しく殺されてはくれないか。じゃあ俺も本気出しちゃおうかな!」
カプリコルヌスはそう言うと、義手を広げながらアイリス達の方へ飛ぶように駆け寄った。
アイリスと修はそれぞれ別方向に飛ぶと、カプリコルヌスは迷わず修の方へ方向転換した。
「死ね!」
そう笑いながらカプリコルヌスが修の頭を握ろうとすると、アイリスが銃でカプリコルヌスの義手の指先を撃ち抜いた。
これにはカプリコルヌスも驚いた様子で、アイリスを見た。
…やるじゃん。でも一歩間違えれば梶原修に当たってたんじゃ?
そう思いながら修を見ると、アイリスを信じきっているのが見ていてわかった。
「へぇ…凄い信頼関係だね。殺すのが惜しいよ」
そう言いながら、カプリコルヌスは義手のスペアの指をつけようとした。
しかしそれもアイリスに銃撃で阻まれ、今度は少し怒った様子で言った。
「ちょっと待ってくれよ!フェアに行こうぜフェアで!」
「申し訳ないですが、貴方に何かさせる気はありません。またオサの頭に手を伸ばす様なら頭を撃ち抜きますよ」
冷めた目でアイリスがそう言うと、カプリコルヌスはなぜか嬉しそうに笑った。
「いいね!そういうSっ気、嫌いじゃないよ!」
カプリコルヌスがそう言うと、修は腰に隠した小型の銃に触れた。
アイリスに夢中で、カプリコルヌスはそれに全く気づいていない様だった。
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