第34話 二人きりの洞窟


斜面をアイリスは修を連れて走ると、カプリコルヌスが猛追して来た。

その顔はオモチャを見つけた子供の様に、楽しそうに笑みを浮かべていた。


「アイツなんかヤバいよアイリス…!」


修が真っ青な顔でそう言うと、アイリスは鋭い目つきでカプリコルヌスを睨み、それを見たカプリコルヌスは面白そうに笑った。


「いいね!何でも本気でやらないと!楽しみが減るって思わない!?」


カプリコルヌスはそう言うと、走るのに邪魔な木々を、ナックルダスターで粉砕し、ペースを下げずに追いかけて来た。


「何だアイツ!木を手で粉々に!?」


「オサ、落ち着いて」


アイリスは銃を取り出し威嚇射撃をすると、そのまま目の前にあった洞窟に修と共に入って行った。

それにはカプリコルヌスも驚いた表情を見せたが、すぐにニヤリと笑い言った。


「この洞窟の出口、わかるんだよね!待ち伏せしちゃおうかな〜。」


そう楽しそうに洞窟の入り口を見ながら、カプリコルヌスはスマホを一度見て出口を確認すると、急斜面を走って行った。


***


「思わず入っちゃったけど、大丈夫なのかアイリス?」


スマホのライトを頼りに洞窟を進む二人は、手を繋いだままだった。


…お化け屋敷に入ったカップルみたいだな…この場合、怖がってるの俺の方だけど…。


そう冷静に考えられるほど落ち着いてきた修は、この状況の方にドギマギし始めていた。


…手を握ってくれてるのは嬉しいけど、心臓の音アイリスに聞こえないかなぁ…?


そんな事を考えながらアイリスを見ると、アイリスは振り向いて言った。


「オサ…怖い思いをさせてすみません。まだ怖いですか?」


「えっ…?」


「脈拍が尋常じゃありません。あの不気味な笑みと手の破壊力を見れば仕方ないかもしれませんが…。」


…脈拍測られてた!?


修は恥ずかしくなり顔を赤くしながら、絞り出すように言った。


「俺は大丈夫…!脈拍は走ったからだよ多分!」


「…なるほど、急斜面でしたからね」


「そうそう!」


修はそう言うと、何とも情けなくなり苦笑した。

そんな修を見ながら、アイリスは座れそうな場所を見つけ、修を座らせた。


「休憩しましょう。どうやら中まで追って来ないようなので」


「そっか…でも先回りされそうだよな」


「必ずそうして来るでしょう。その時は叩きのめすまでです」


銃に弾をこめながら、アイリスは冷静だった。

そんな様子を見て、少し修は寂しさを感じていた。


…俺とこんな暗い所で二人きりで、何とも思わないんだろーなとは思ってたけど…ちょっと傷つくな…。


そんな視線を感じ、アイリスは振り向いた。


「どうかされましたか?」


「いや…!なんでもないから!気にしないでくれ!」


「そうですか…必ず守り切ります!出口までまだありそうですので行きましょう!」


カシャリと音を立てて銃に弾を装填しながら、アイリスは待ち受けているであろうカプリコルヌスの方を睨んだ。


「アイリス…守ってくれるのはいいけど、無茶はしないでくれよ?」


前のジョージの様になってしまうのではないかと、修は不安だった。

しかしアイリスはそんな修に言った。


「私達はプロです。覚悟はできています。父はよく言っていました、我々は心が折れるその日まで、戦う生き物なのだと」


「…心が折れるまで戦い続けるってこと?」


「はい。必ず言った事はやり遂げます。だから信じて下さいオサ」


アイリスの目を見つめ、修は少ししてから怒り出した。


「アイリスの事は信じてるよ?守ってくれるのもありがたい!でも…アイリスが傷ついて、死んじゃうのは俺…嫌だ!」


駄々っ子のようにそう言いながら、修は立ち上がった。

そして少し驚くアイリスを抱きしめた。


「アイリス…絶対に自分を犠牲にしないって、約束してくれ!頼むよ!」


そう言う修を落ち着かせるように、アイリスは修の背中を軽く叩くと、ゆっくり修はアイリスを解放した。


***


数十分後、暫く二人仲良く座って休んでいると、アイリスが話しかけた。


「少し落ち着きましたか?」


「…うん、ありがとう。さっきはその…いきなり抱きついてごめん…。」


「いいんですよ。こんな状況です、誰でも不安になります」


…情け無いな…俺。


そう思いながら修はアイリスの方を見た。

持って来た武器を見ながら作戦を立てている様子で、修は苦笑した。


…やっぱり俺、意識されてない?


そう思いながらがっくり肩を落とすと、アイリスがまた話しかけてきた。


「オサはなぜ、皆にオサと呼んでほしいのですか?」


アイリスが尋ねると、修は少し驚きながらも、懐かしそうな顔をして言った。


「昔、父さんが居た頃、オサとかオサちゃんって呼ばれてたんだ。その頃は母さんも政界のせの字も無い普通の主婦で、毎日楽しかった思い出があるんだ」


修が昔の事を語り出すと、アイリスは熱心に聞きながら考えていた。

修の死を切望しているのは、どんなやからなのかと。

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