第33話 迫る魔の手


「アンタ達!早く来なさいよこっちこっち!」


テンション高めの真衣がそう言うと、そのすぐ後ろを歩いていた茜と海斗がボソボソと話し始めた。


「行く気無さそうだったのに、一番はしゃいでるよねやっぱり…。」


「ピンク頭だし、琵琶湖を何周もしそうな程元気だよな…。」


「…あんたそれゆ⚪︎キャンの事なら怒るよまた私」


海斗が悟りを開いたように笑うと、茜が海斗の首を軽く締め始めた。


「ちょっとアンタ達!イチャイチャしないで早く来なさいってば!」


「…あっ、あれいい色だな」


「…本当だ、きれいきれい」


真衣にそう言われ、二人は離れると、何事もなかったかのように紅葉を指差して眺めた。


「ちょっと!アタシも混ぜなさいよ!どこよ!どこ!?」


真衣がそう言って駆け寄り二人の肩に手を回すと、二人が見ていた方を眺めた。

そうこうしているのを見ていた修は苦笑すると、アイリスの方を見た。

アイリスは双眼鏡を覗きながら谷間から吊り橋の方向へ行く道中で鳥と紅葉を見ているようだった。


…話しかけてみようかな。


他のみんなが見ていないのを確認しながらそう思うと、修はゆっくりアイリスに近づき、言った。


「どう?日本の紅葉のコントラストは?」


「…そうですね、素晴らしいですがそれよりさっきから気になる男がいます。私達は尾行されているようです」


「え!?」


修が思わず辺りをキョロキョロしそうになると、アイリスは修の顔を両手で押さえ、自分に近づけて言った。


「向こうに私達が気づいたのがわかってしまいます。あまりキョロキョロしないようお願いします」


「そっか…ごめんアイリス」


アイリスが手を離すと、修は顔を赤らめたまま名残り惜しそうな顔をした。


「どうかしましたか?」


「いや、別に…。」


アイリスが首を傾げると、修は赤らめた頬のまま何でもないと言わんばかりに、斜め上を見て誤魔化した。


***


暫く他の皆には気づかれない様に警戒しながら、アイリスと修は歩いていた。


「すぐに俺を殺しに来ないのは何でなんだろ?」


修の疑問にアイリスは少し考えた後、答えた。


「鏡で確認したら、初めて見る顔でした。おそらく暗殺部隊のメンバーでしょう。もしかしたら、ことごとく他のメンバーが暗殺を失敗しているので、向こうも警戒しているのかもしれません」


「慎重な奴だな…暗殺者って一言で言っても個性的なんだなー…。」


修がそう言っていると、アイリスが不思議そうな顔をして修を見た。


「個性的…まるで暗殺者達を知っているような口ぶりですね?」


「うん、テルマが今まで集めた暗殺部隊のメンバーの資料を見せてくれたんだ」


…テルマ、また勝手にそんな事を。


アイリスは仲良くなっていく修とテルマに少し危機感を覚えながら修がスマホに写した資料を見た。


「ゲミニって双子はもう捕まってるらしいからいいけど、レオって奴はやっぱり要注意だな、俺もコイツに捕まった事あるし…。あとは誕生日のパーティーに紛れ込んでたタウルスや、萩原が捕まった時にレオとタウルスと一緒だったアクアリウス。この二人は何故か脅威に感じないんだよな…何でだろ?」


…オサも成長して力をつけているからですよ。


アイリスはそう言いかけたが、そうは言わずに一度目を閉じて口を開いた。


「いけませんよ、危機感を持たなければ。貴方は常に狙われているんです。今、現在も」


「…そっか、そうだよな!」


心を鬼にして出たアイリスの言葉に、修は苦笑しながらも少し寂しそうだった。


…いつか貴方が危険な状況から解放される日が来たら…。


アイリスがそんな事を思いながら修を見つめたが、修はハラハラと落ちて来る紅葉を見ていて、その視線に気づかなかった。

そして一瞬おいて、修が我に帰ると、アイリスに言った。


「俺も尾行してる奴見てもいいか?ちょっとだけ!バレないようにするから!」


「…いいでしょう。この鏡を使ってください」


アイリスが手渡した鏡を修が持つと、修は前髪を気にするフリをして、後方の男を見た。

そこにいたのはヒップホップダンサーの様な格好をした男だった。

恰幅のいい男は修よりかなり背が高く、よく見るとナックルダスターをしており、次の瞬間、それを見せつける様に差し出すと、鏡越しで男は笑った。

その修の真っ青な顔と、男の様子を見てアイリスは危機感を感じ、修の手を取り走った。


「ちょっと!どこ行くのよ!」


「みんな申し訳ないですが先に行っていてください!後から合流します!」


そう言って、真衣はともかく、茜や海斗を巻き込まないように、アイリスは修を連れて斜面を下って行った。

するとそれを追う男を真衣は見ると、少し顔をこわばらせた。


…カプリコルヌス、来てたのね。


「どうしたのでしょう、ロボ子さん?」


「さぁ、二人っきりにしてやった方がいいのかもな」


そう呑気に言う二人の肩に手を置き、真衣は言った。


「じゃあ、私らはこの先の山小屋でお茶でも飲んでいましょ!ほら!行くわよ!」


「えぇ〜…。」


少し嫌そうな顔をした二人を連れて、真衣はアイリス達の危機に後ろ髪を引かれながら山小屋に向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る