第32話 もみじ狩り


「大変だったのよ!タウルスもアクアリウスもあの後荒れて!」


「そうなんだ…。」


真衣が修にそう馴れ馴れしく言うが、修はずっと相槌をうつだけでその目はアイリスを見つめていた。

それに気がついた真衣は修を自分の方に向かせると言った。


「ちょっと聞いてる!?」


「聞いてない…かも?」


真衣は暗殺部隊の面々から監視される事がなくなってから修やアイリスに前よりもよく話しかけるようになった。

アイリスも無害だとわかってからは真衣が修に話しかけてもあまり気にしてない様子だった。

だが、それはそれで修は寂しそうだった。


「あんたいつもあの子見てるけど、そんなに好きなら告れば?」


「…俺達は君と違って繊細なんだ。そう簡単にはいかないさ」


「ふーん…てか今ナチュラルにアタシの事ディスったでしょ!」


そんな会話をしながら、ノートの叩き合いをしている修と真衣を見ると、茜と海斗が話しかけてきた。


「ロボ子さんいいの?なんかあっちでイチャイチャしてるけど?」


「そうだぞ、双子の弟にアタックされるからって本命の双子の兄の事を蔑ろにするなよ?」


「ちょっと海斗!それタ⚪︎チじゃないわよね!?」


「そうだけど?」


茜が真顔でそう言う海斗を叩くと、海斗は何か思いついた様に言った。


「そんな事より、もみじ狩りでも行かないか?そっちでイチャついてる二人も!」


海斗がそう言うと、修と真衣はすぐに反応し言った。


「イチャついてねーよ!」


「そーよ!タイプじゃないわこんな奴!」


真衣が修を指さすと、修も何か言いたげだったが、埒が明かないのでぐっと言葉を胸にしまい込んだ。


「…モミジガリって何です?」


「あれ知らない?野山に出かけて紅葉を見て楽しむのよ。今の時期ロープウェイを登った先とかいいかもね」


「そうですか…。」


…萩原さんの事もあったばかり…私が行かないとかなり危険ですね。


萩原はあのあと一応病院へかつぎ込み、無事を確認した。

昭子は少し涙のあとがあったが、その場の皆何も言わなかった。

そんな事もあって、修はもちろん、その他の皆、拉致されたりする可能性は十分あるので、

アイリスは行かないわけにはいかなかった。


「木や葉っぱなんか見て何が楽しいの?理解に苦しむわ」


「あら?真衣さんにはもみじ狩りの風情や良さがわかりませんか?」


「ちょっ…そういう風に言われるとなんか気になるじゃない!」


真衣がそう言い返すと、少し小馬鹿にした様な笑みを浮かべた茜に、真衣は怒鳴るように言った。


「ふざけんじゃないわよ!アタシにだって行けば風情や良さがわかるわよ!多分ね…。」


「そうですか!じゃあ決まりですね!」


茜がそう嬉しそうに手を叩くと、アイリスはそれを聞いてはしゃいでいる面々を見て不思議な気持ちになった。

そしてそれがなぜかすぐにわかった。


…そうです、私は誰かとこんな風に遊びに行った事がなかった…。


そう気がつき、少し心が温かくなり笑うと、それを見ていた修にカシャリと写真を撮られた。


「オサ…、盗撮ですよ?消してくださいますよね?」


「やだよーだ!」


修がそう言うと、アイリスは変な顔をしてそっぽを向いた。


…嫌がられてもやだよ!待ち受けにするんだから!


修はそう思いにやけながら、今撮ったばかりのものをすぐに待ち受けに設定した。


***


その頃、暗殺部隊のアジトでは。


「そんなにしぶといのか?その梶原修って奴とアイリス・ブラウンってのは?」


ポップダンサーのような格好をした男がそう言うと、レオが反応した。


「そうだね、カプリコルヌス。俺もこんなに手こずるのは初めてさー。」


レオがそう言うと、カプリコルヌスは眉を動かしながら頷いて言った。


「そうかー、レオが言うならマジなんだな。でも大丈夫!俺が来たからには君達に代わって始末してやんよ!」


カプリコルヌスがそう言うと、レオが一瞬真顔になったが、すぐにいつもの様に笑い言った。


「そうかい?じゃあ頼んだよカプリコルヌス」


「あぁ!任せといてくれレオ!」


カプリコルヌスが元気よくそう言って出て行くと、レオはボソリと呟いた。


「ホント、やれるものならね…。」


***


数日後。


「着いたー!わーいい景色ー!」


「…嫌そうにしてたのに一番はしゃいでんじゃん?」


「何よ!いいでしょ別に!」


修が呆れたようにため息をつくと、真衣はリュックで修をど突いた。


「イテッ!何すんだよ!?」


「あら当たっちゃった?ごめんあそばせ?」


真衣のその態度に、またため息を漏らしながら、修はアイリスを見た。


…山ガール姿も可愛いな。


皆アウトドアな印象のパーカーやレギンスにショートパンツ姿で来ていて、キャンプに行く様にも見える格好だった。

中でもアイリスはピンクにベージュのパーカーを着ていて紅葉をバックに見ると一際可愛らしかった。


…よし!今日こそアタックあるのみだぜ!


そう張り切る修にアイリス以外は気づいていたが、何も言わずにいよいよとばかりにもみじ狩りに出発した。

尾行されているとも知らずに。










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