第38話 動き出す暗殺者達


「カプリコルヌスが捕まったですって!?」


暗殺部隊の集まりで、そう声を荒らげたのは、ある少女だった。


「落ち着けよアリエス。死んだわけじゃないんだから」


「レオは黙ってて!」


「おー怖!」


レオはそう言うと、アリエスと呼ばれた少女は情報を持って来たまとめ役の男に突っかかった。


「だからアリエス…捕まったのは間違いない。途中まで移動するのを発信機で見ていたが、急に発信機が機能しなくなったのもゲミニの時と同じだ。奴らは諸君ら全員を捕まえるつもりかもしれん」


男の話を聞くと、アリエスはブロンドのストレートの髪を後ろに流しながら言った。


「上等じゃない!受けて立つわ!私を怒らせた事を後悔させてやるんだから!」


アリエスはそう言うと、椅子にドカンと座り、黙った。


「おー怖い怖い」


レオがそう言うと、アリエスが睨みつけたが、レオはそれを面白がっているようだった。


…カプリコルヌス、あの子を舐めてかかるからこうなるんだ。にしてもアリエス、そんなにアイツが好きだったのか。また面白い事になりそうだ。


レオはそう思いながら、飴を噛み潰した。


***


アイリスが梶原邸に着くと、萩原が車を洗車していた。

萩原がアイリスに気づくと、手を振ってむかえてくれた。


「萩原さん、あれからお加減いかがですか?」


「大丈夫ですよ!自分は覚えていませんが、助けて頂いたようで、その節はありがとうございました!」


「いえ、無事でよかったです」


アイリスがそう言うと、萩原はほのぼのした笑顔で返した。

そして何か思い出したような顔をすると、アイリスに何か手渡した。


「いやね、妻から渡すよう頼まれた物がありまして、つまらない物ですがと…。」


「昭子さんから?」


アイリスは紙袋を手渡されると、中身を見て仰天した。


「猫ですか!?」


「はい、正しくは猫のロボットです」


アイリスは本物の猫ではない事に安堵しながら、袋の中身を取り出した。

無言で白い猫のロボットを見ているアイリスに、萩原はまた思い出したように言った。


「そうそう、何の事か私にはわからなかったのですが、その中にテルマちゃんを入れるといいって言ってましたよ」


「テルマを?…なるほど、かなりの精密機器のようですね。ありがたくちょうだいします」


アイリスがそう言うと、萩原はまたほのぼのと笑った。


「坊ちゃまも貴女が来たとわかれば喜ぶでしょう。さあさ!中へどうぞ!」


「ありがとうございます」


萩原が中に通そうとすると、アイリスは扉の先にいた人物と目があった。


「こんにちは、アイリス・ブラウンさんでしたね確か。病院以来でしたね会うのは」


「はい、貴方は節子さんの秘書をされている方でしたよね」


「そうです、野沢武彦といいます。あの時は失礼しました」


アイリスはこの野沢に注意された記憶しかなかったため、少し体がこわばったが、すぐにいつも通りの無表情に戻った。


「修君のお見舞いですか?仲がいいのですね」


「そうだといいのですが…それより、貴方がいるという事は、節子さんも…?」


「いらっしゃいますよ。今は修君のお粥を作ってい…。」


そう話している時、キッチンの方から叫び声がしたため、何事かと皆、節子がいるキッチンへ走った。


「節子さん!大丈夫ですか!?」


「先生!どうなさいました!?」


アイリスと野沢が同時にそう叫びながらキッチンに入ると、何をどうすればこうなるのか、わからないほど黒くなった粥を落としてしまった様子の節子が恥ずかしそうに手を動かした。


「ちっ…違うのよ!ちょっと手が滑っただけなのよ!こんなはずじゃないの!」


そう言う節子に、アイリスと野沢は目を点にしながら言葉を失った。


「今の叫び声何!?…てか母さんにアイリス!?」


部屋から修が出て来て驚きながらそう言うと、もう節子は穴があったら入りたいと言う程恥ずかしそうにしていた。


***


「カプリコルヌス…。」


アリエスがそう言いながら、首から下げているロケットの中の写真を見ていると、真衣が隣に座った。


「何よヴィルゴ。アンタもレオと同じ様に死んだわけじゃないんだからとか言うわけ?」


「違うよアリエス。私も、もしレオが得体の知れない奴に捕まったらとり乱すもの」


「…レオのどこがいいのよ」


「その言葉、そっくりそのまま返す!」


目も合わせず、お互い気だるく話すと、深くため息をついた。


「アリエス…貴女まさか復讐する気なの?梶原修とそのボディーガードに」


「そうよ!そして居場所を聞き出してカプリコルヌスを取り戻してみせるわ!」


そう意気込むアリエスをどうにか出来ないかと、真衣は悩みながらアリエスを見た。

そんな真衣の気持ちも知らずに、アリエスは言った。


「だって許せないでしょ!?暗殺者なのに、あんなに穏やかで笑顔の絶えない人を捕まえるなんて…!」


…あんまりにも穏やか過ぎて逆に不気味だと思うけど。


真衣はそう思いながら、アリエスを見つめた。

そんな真衣にアリエスは言った。


「ヴィルゴ、気持ちがわかるなら力をかしなさいよ!必ずカプリコルヌスを捕えた報いを受けさせるわ!」


…やっぱりそうくるか、まいったなこりゃ。


真衣はそう思いながら、アリエスを見ていた。



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