第26話 萩原家


萩原は若い頃、タクシー運転手をしていた。

その頃、偶然乗せたアメリカ人の女性と恋に落ち、真衣を授かったが、奥さんは真衣を連れてアメリカに帰国してしまった。


「離れて暮らしてた期間が長かったので、もう何が好きなのかわからなくて…、こんど嫁と一緒に会う予定なんですが、今時の子はどんな場所なら喜びますかね?」


帰りの車でそう尋ねられて、修とアイリスは顔を見合うと少し考えてから答えた。


「私は銃の手入れが出来る所なら、どこでもいい方ですが…。」


「ちょっ!特殊すぎるよアイリス!そうだな…積もる話もあるだろうし、ファミレスとかの方がいいんじゃないかな?」


「…なるほど、ありがとうございます坊ちゃま!」


萩原は優しく笑うと、運転に集中した。

そんな萩原に気づかれないようにアイリスは修に顔を近づけて小声で話した。


「オサ…萩原の娘の真衣ですが、貴方を狙っている黄道十二宮隊の一人です」


「はぁ!?」


修が思わず声を出すと、萩原がチラッと後ろを気にし、話しかけてきた。


「どうかなさいましたか?」


「いや!何でもない!気にしないでくれ…!」


「そうですか?」


萩原が再び運転に集中すると、またアイリスが修に話し始めた。


「コードネームはヴィルゴだと電話で話していました。おそらく萩原さんは何も知らないでしょう。そこで萩原さんを尾行し、彼女の情報を集めて見てはどうかと…。」


「俺も行っていいって事?やるやる!俺は何をすればいい?」


「オサには安全なアジトに居て欲しいのです。それまけでテルマのドローンの性能も上がりますし、私も尾行に集中出来ます」


「何だそんな事か…。いいけど俺にも情報共有させて欲しいな」


「もちろん、アジトのモニターから見守っていて下さい」


コソコソそんな話をしていると、萩原がチラッと後ろを見て言った。


「何か内緒話ですか?」


「いや!大した事じゃないんだ!悪い萩原!」


「構いませんよ、お二人共、お年頃ですからね」


萩原がそう笑うと、少し申し訳なさそうに修は下を向いた。

アイリスは顎に手を当てながら、真剣に真衣の事を考えていた。


***


そして萩原が家族と会う日が来た。

その日は学校は休みで、空も晴れ、尾行するにもコンディションのいい日だった。


「テルマ、準備はいいですね?」


「はいアイリス、いつでもドローンを飛ばせます」


「いよいよか!何かワクワクするなこう言うの!」


「…オサ、遊びではないのですよ。そこのところは間違えないよう」


「はーい!」


アジトのモニターの前に座りながら修が元気よく答えると、アイリスはため息をついた。

そして、公園で待ち合わせをしている萩原を木の影から見つめた。

萩原は噴水の前で時間を気にし、姿を見せた妻と娘に手を振った。


「昭子!真衣もよく来たな!」


妻の萩原昭子(ハギワラ・アキコ)は控えめに、真衣は面倒くさそうに手を振ると、萩原は満面の笑みで二人を迎えた。


「今ですテルマ!」


アイリスの合図でテルマがドローンを飛ばすと、萩原夫妻と真衣の姿がアイリスの液晶画面とアジトのモニターに映し出され、アイリスは目視と画面両方を確認しながら萩原家を追った。


「丁度いい時間だし、ファミレスに入るのはどうかな?真衣は何を食べたい?」


「…ドリアかな」


「そうかそうか!いいお店があるから案内するよ!」


萩原が必死に真衣や昭子と話そうとするが、昭子は仕事に行くようなキャリアウーマンとすぐわかる姿で、終始黙っていた。

真衣はそこまで嫌がってはいないが、かなり面倒くさい様子が目立った。


「萩原…大丈夫かな?先が思いやられるなこれは…。」


「萩原さんには是非とも頑張っていただかなければ…情報が少しはほしいところなので…。」


そしてアイリスはサングラスをかけて尾行を始めた。

修は飲み物を飲みながら、ある事を思いつきテルマにこっそり言った。


「ねぇテルマ、アイリスもモニターで見れないかな?」


「はい修。まだドローンがあるので可能です」


「じゃあそうしてくれる?」


「…了解しました」


アイリスに内緒でテルマがドローンをアイリスにつけると、モニターに映るアイリスに修はご満悦だった。


***


萩原家族がファミレスに到着すると、アイリスも中に入ってそれを見守った。

幸い萩原一家が座ったのは窓際だったので、ドローンでの撮影も簡単だった。


「二人共、今ホテルにいるんだろう?家に帰って来てくれて構わないんだぞ?」


「…いえ、日本にそんなに長くいないと思うので…。」


やっと口を開いた昭子がそう冷たい感じで言うと、萩原は苦笑しながらも落ち込んだ様子で言った。


「そうか…また行っちゃうんだな向こうに」


明らかに寂しそうな萩原を見て、修も何かしてやりたいと思っていたが、危険人物である可能性が高い萩原家の女性陣を見て、修は頭を悩ませていた。

アイリスはコーヒーを飲みながら見守っていたが、鏡越しに昭子と一瞬目が合った気がした。


…尾行に気づかれている…!?


しかしそう思った直後、何事もなかったように話す家族の姿を見て、アイリスは思った。


…尾行に気づきながら何故?あの家族の女性陣には何かわけがあるのでしょうか?


尾行を中断することも考えたが、何もしてこない様子を見て、アイリスはそのまま尾行を続行した。

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