第21話 修の誕生日


夏休みの最中、修の誕生日がやってきた。


「凄い豪邸よねー。」


「アイツお坊ちゃまなんだなって今思い出した俺」


赤いドレスを着た茜と、タキシード姿の海斗が修の誕生パーティーのロビーでそんな話をしていると、アイリスが少し遅れてその場にやって来た。


「まぁロボ子さん!可愛いわ!」


「見違えたなぁ」


二人がそう褒めると、白いドレス姿のアイリスは静かに笑った。


「みんな!来てくれてサンキューな!」


修がタキシード姿でやって来てそう言うと、アイリスのドレス姿に見惚れた。


「…オサ、何か変でしょうか?」


「…え?いや!似合ってるよ凄く!」


「そうですか、ありがとうございます」


そんな会話をした時だった。

梶原家の執事が、修を呼びに来たのは。


「坊ちゃま、奥様がお呼びです」


「そうか…じゃあ皆、後でな!」


修がそう言って奥に下がって行った少し後、パーティー会場が暗くなり、2階のロビーにスポットライトと共に、黒いドレスを着た節子と一緒に修が現れた。


「皆様、今日は私の息子のためにお集まり頂きありがとうございます」


節子が感謝の気持ちを話している最中、アイリスはすぐ後ろで先程の執事と話す運転手の萩原の話を聞いた。


「いいんですかね。坊ちゃまが狙われているのにこんな誕生パーティーなんかして」


「それが奥様がこれだけはやってやりたいとのことで、我々の意見を聞いてはくださらなかったのですよ。お坊ちゃまの方は誕生パーティーなんて恥ずかしいとおっしゃられる始末で…。奥様も浮かばれませんな」


そう話すと、執事は忙しいのかスタスタと奥へ消えていった。

それを見てアイリスに話しかける者がいた。


「先輩の家、上手くいってないみたいですね姉さん」


それは転校して来た頃に出会った青山哲士だった。


「…貴方も来ていたのですね、最初誰だかわかりませんでしたよ、見違えましたね」


「お久しぶりです!流石にいつもの特攻服では来れないので…。でもキツイなちょっと」


哲士はそう言ってネクタイを緩めながら、アイリスに向き直った。


「やっぱり誰かに狙われてるんですね先輩、一体どこの誰がそんな事を…。」


「…ここでは誰かに聞かれるかもしれません。場所を変えましょう」


そう言って哲士の手を取り、アイリスはバルコニーへと人混みを抜けて行った。

その様子を修が、ロビーの上から見つめていた。


***


少し薄暗いバルコニーで、哲士に向き合うと、アイリスは話し始めた。


「ここでいいでしょう。何かオサが狙われているという事で知っている事はありますか?」


「そうですね…先輩の事と関連があるかまではわかりませんが、仲間から最近妙に物騒な連中が街を彷徨いているという情報なら…。」


…暗殺部隊のことですね。


アイリスはそう思い、遠くを見ながら言った。


「他には?」


「うーん…先輩の家の近くで銃声のような音を聞いたと…。」


…暗殺部隊と対峙した時のことでしょうか?


アイリスは考え込みながら次の情報を催促した。


「他ですか…あとは、フードを被った怪しい男が、使われていない工場にバイクで入って行ったというのくらいですかね」


…!?それはまさかコードネーム、レオとかいったあの男では!?


「どこの工場です!?」


食い入るようにアイリスが尋ねると、哲士はのけぞりながら答えた。


「ここから南下したところです、行けばわかると思うっす」


「…南下」


アイリスがまた考え込むと、哲士はその様子を覗き見て言った。


「姉さんってちょっと普通の人と雰囲気違いますよね。独特の雰囲気があるって言うか、俺達ヤンキーと同じか、それ以上の…。」


「…余り詮索はしない事です。貴方や周りの人のためですよ」


アイリスがピシリとそう言うと、哲士は蛇に睨まれたカエルの様に縮こまった。


「アイリス!」


修が人混みを潜り抜けて歩いて来ると、哲士はアイリスに一礼して去って行った。


「…ではまた」


「はい、情報恩に切ります」


哲士が修にも一礼して行くと、修は少し怒ったようにアイリスの腕を掴み言った。


「哲ちゃんと何を話してたんだ?こんな暗いところで、しかも二人っきりで…!」


「…世間話ですよ」


「嘘だ!」


アイリスが少しシュンとしてプレゼントを隠そうとすると、修はすぐに動いた。


「それは何?何を隠してる?」


「いえ…これは…。」


オサへと書いてあるプレゼントを修はアイリスから受け取ると、暫く沈黙した。


「オサ…?ガッカリされたでしょう?そんな物しか贈れませんが、よかったら…。」


修はプレゼント袋を開けてボールペンを手に取ると言った。


「そんな物なんてとんでもない!大事にするよ!…あと、変に突っかかってごめん…。」


「…いえ、いいんです」


修はバルコニーに手を添えているアイリスの手を取り言った。


「あのさアイリス。俺、こんなんだからまた勘違いとか早とちりを繰り返すと思う!それでもよければ俺と…!」


そんな話をしている途中で、花火が上がった。


「わぁ…!」


アイリスは目を輝かせながら笑った。


「花火師に頼んでおいたのよ、よかったわ間に合って」


節子はそう言って笑っていた。

完全にタイミングを逃した修は、少し悔やみながら、それを見ていた。

















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