第20話 訓練
「このアジト、無駄に広くない?」
修が障害物を避けら、へとへとになりながらランニングをしていると、アイリスは情け容赦なく言い放った。
「私語は慎んでください、罰として腕立て100回」
「えっ!?」
嘘だろと言わんばかりに修がリアクションをとると、アイリスは竹刀で床を打ち言った。
「これも任務だと思ってやって下さい!もう100回増やしてもいいんですよ!」
「んなメチャクチャな!」
修はそう文句を言いつつも、アイリスの無表情のままの圧に、仕方なく従った。
***
「はー!生き返る!」
ランニングに腕立て、腹筋背筋その他あらゆる訓練を終、スポーツ飲料をガブ飲みした修は髪から汗をしたらせながら座った。
「アイリスはこんな訓練をずっと受けて来たのか?」
「そうですね、毎日の日課です」
「毎日!?」
涼しい顔をしてさらりと言ったアイリスに、修は信じられないといった様子で天を仰いだ。
正直、アイリスのスパルタ訓練は想像以上に厳しかった。
それも無表情で腕立て伏せなどを平気で100回追加してくるので、まるで鬼のようだった。
それでも修が本気で不満を言わないのは、自分の生き死にも関わっているからでもあるが、実の所、アイリスの可愛い顔をずっと拝んでいられるからかもしれない。
修がアイリスをみつめて笑うと、アイリスは無表情で言った。
「何を笑っているのです?まだ訓練は終わってませんよ?それだけ余裕があるなら腕立て100回追加で」
「えー!それはないよアイリス!」
修がその場に崩れ落ちると、アイリスは少し笑った。
修はそれを見て思った。
…まいっか、頑張ろう…。
修が黙々と腕立て伏せを始めると、アイリス自身も真剣な顔で射撃訓練を始めた。
…まだ父上を撃った者の正体はわかっていない。きっとまた仕掛けてくる。備えなければ。
怖い顔をするアイリスの顔を見て、今度は少し心配しながら、修は訓練という名の体力作りを続けた。
***
「えー!何この量!全部食べていいの!?」
訓練の後、アイリスが修に手料理を出すと、お坊ちゃまの修も見た事ない豪華な料理の山に感涙した。
「この前父上の誕生日だったので腕を振るったのですが、あんな事になってしまったので…一人では食べきれず困ってたんです。よかったらどうぞ」
「そっか…喜んで手伝うよ!そうだ明日もしよければピクニックに持って行って海斗や茜と食べるのはどうかな?みんな喜ぶよ!…もちろん訓練も頑張るからさ!」
「…そうですね、そうしましょうか」
元気のないアイリスを励まそうと修はいつもより更に明るく話ながら料理を食べた。
「そうそう!もうすぐ俺誕生日で家でパーティーするんだ。俺は恥ずかしいからやめてくれって言うんだけど母さんがどうしてもって…ならお偉いさん達だけじゃなくて友達にも来て欲しくて、嫌じゃなければ海斗や茜と来てくれないか?」
突然の誘いにアイリスは目を丸くしたが、すぐに少しだけ微笑み言った。
「わかりました。お邪魔させて頂きます」
…よっしゃ!やりい!
修は思わず心の中でガッツポーズをとった。
…お偉い方達の…。こんなプレゼントじゃ見劣りしてしまうでしょうか?
アイリスはそう思いながら、ジョージのサングラスと一緒に買ったライトになるボールペンを隠した。
***
次の日、アイリスはみんなとピクニックに行った。
「わぁ!凄い!ロボ子さんこれを一人で作られたの!?」
「すげーな、海原雄山もびっくりだ」
茜と海斗がそう言うと、修が含み笑いまじりに言った。
「だから言ったろ?すげー美味いもんが食えるから来いって」
「ちょっと修!作ったのはロボ子さんよ!自分の手柄みたいに言わないの!」
「いいじゃねーか自慢したかったんだから」
「だから何でアンタの自慢になるのよ」
修と茜がそう言うと、アイリスは思わず笑顔になった。
それを見て海斗が安心した様に言った。
「元気そうでよかったよ、オヤジさんが重症だって聞いて茜と一緒に心配してたんだ」
「…え?」
茜も安心した顔で静かに微笑むと、アイリスは思わず感激した。
「…みんな心配してくれてたのですね。ありがとうございます」
「良いのよ、当然の事だから」
茜はそう言って感激し口を覆うアイリスの背中をさすりながら言った。
「辛かったでしょう?食べましょう。せっかくのピクニックですもの」
…父上、私は幸せ者かもしれません。
そう思いながらアイリスは茜を抱きしめた。
アメリカに居た頃は、こんなに親身になってくれる友はいなかった。
アイリスが落ち着くのを待ち、ピクニックを楽しんだ4人は、別れ際に手を振り合った。
「それじゃロボ子さん、近いうちにまた会いましょう!今度はご馳走させてね!」
「どれも美味かったよ、またな」
そう言って帰って行く茜と海斗を見送ると、アイリスは修に言った。
「二人に知らせたのは貴方ですね?罰としてアジトまでランニングですよ」
「えっ!?そりゃないよアイリス!」
崩れ落ちる修を見ながらアイリスは笑うと、涼しい顔でアジトまで一緒に走った。
修はヘロヘロになりながらも幸せそうだった。
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