第9話 弱い奴と強い奴
休み時間の度に修の周りには人がいっぱいいた。
人が多い場所なら守りやすいが、アイリスは少し寂しさを覚えていた。
そんな中で不意に小さい頃、ジョージに言われた事がが頭を過った。
***
それはまだ小さい頃、雪山での事だった。
ジョージが暖炉の前でライフルを磨いていると、そのすぐ側に、アイリスがちょこんと座り、暖炉の火を見ていた。
「アイリス、学校でいじめられたんだって?なぜ手を出さなかった?」
「彼らは私より弱いから、だからあんな風に嫌な事ばかる言うんだ」
ジョージはアイリスの頭を撫でると、銃を置き言った。
「偉いなお前は、強い奴が弱い奴に手を出してはいけない事がわかってる。でも例外もある事を忘れちゃならない」
ジョージはそう言うと、アイリスに銃を持たせた。
「重いだろ、それよりも重いのは人の命だ。弱い奴で命を狙って来る奴には手加減しなくていい、お前の持てる全てで全力を出してもいい。何せ命がかかってるんだ。あと、なめた口をきく奴にも、自分の方が強い事をわからせてやれ」
「命…なめた口…。」
アイリスがジョージの言葉を理解した様子で頷くと、ジョージは言った。
「…アイリス、一人でも生きれるようお前には俺の全てを教えてやる」
アイリスはやる気に満ちた目をしながらジョージの言葉に頷いた。
***
…私は強い、一人になっても大丈夫だ。それより任務を続行しなければ。
アイリスは首を振り、邪念を消し去り修の方を見ると、修は視線に気づき手を振った。
それを見てアイリスはつられて手を振ると、温かい気持ちになった。
だが、それをまた首を振って消し去った。
…ダメだ!また天然たらしに惑わされている!
私は名の知れた掃除屋だぞ!ブレるな!
そんなアイリスを見て、修はキョトンとした様な顔をすると、周りに集まっていた者達をおいて、アイリスの方へとやって来た。
「大丈夫?気分でも悪い?」
「…何でもありません、ほっといて下さい」
いつもより冷たいアイリスに、修は笑いながらそんなアイリスの顔を覗き込んだ。
「また何か怒ってるの?今度は何が気に食わなかった?」
「私の事はあまり話せません、貴方こそどうなんですか?人に殺意を抱かれる心辺りなどは?」
アイリスの問いかけに、修は少し考え込むと、さっぱりわからないというポーズをとった。
「俺は結構愛されキャラだと思うけどな…殺意なんて考えた事もなかったよ。ただ君からは何かさっき殺意を感じたかも」
「私ですか?…何をバカな…。」
そう言うアイリスだったが、確かに殺気の様なものは放っていたかと思い直し、修に言った。
「それは申し訳なかったですね。でも私が尋ねているのは私以外の人物です。心当たりは?」
「うーん、殺意ねぇ…女の子といる時、男子にたまーに殺気を感じるかも。ほら俺モテるから」
今の発言を男子が聞いていたら、間違いなく殺気を飛ばされただろうとアイリスは思い、案外殺人予告を送った者もその類いで、イタズラで送って来た可能性も考えた。
だが、確かに港におびき寄せ殲滅した者達が雇われていた事実もあり、やはり強い殺意を持った者がいると考えを改めた。
「モテるはともかく、例えば殺されてもおかしくない事をしたことはありませんか?」
「ないない!そんな事しないよ!君だってそうだろ?」
「…。」
アイリス自身には恨まれる様な心当たりがかなりあった。
黙ってしまったアイリスを見た修は、慌てて手を振り言った。
「いや、でもさ!自分はそうは思っていても恨まれたり妬まれてる事ってあるよね!かなり恨まれてると思っていても、大した事なくて思い込みだったりして!」
「それは、私を励ましてるんですか?」
「えっと…まぁそうなるかな」
アイリスは黙ってそっぽを向いたが、内心嬉しかったようだった。
そんな様子を遠くから見守っていた茜と海斗は、コソコソと二人について話していた。
「こうしてお互い告らせようとするラブゲームが始まるんだな」
「それはかぐ⚪︎様は告らせたいでしょ?漫画やアニメの世界とごっちゃにしないでちょうだい。…それにしても、あの二人焦ったいわ」
茜はそう言うと、楽しそうに二人をスマホで追いかけ動画と写真を撮った。
「人の恋愛を見ていて何が楽しいのか俺にはわからないね」
「だって素敵じゃない?あら…でもちょっとやな予感…。」
茜と海斗の前を横切り、修とアイリスのところに、女子生徒達が、アイリスに殺気を放ちながら、近づいて来た。
「貴女が最近転校して来たロボ子って人?ちょっと顔貸してもらっていいかしら?」
「…構いませんが」
修が手を振って見送ると、アイリスは無表情のままその女子生徒達について行った。
更にその後ろから、茜と海斗もこっそりついて行った。
***
「あの、何か様ですか?」
体育館裏まで連れて来られたアイリスは、女子生徒達に詰め寄られた。
「貴女、修君が好きだって公言したらしいじゃない?」
「しましたが、それが何か…。」
話が読めないアイリスがそう言うと、女子達は信じられないといった顔で言った。
「いい?修君はみんなのものなの!独り占めなんて許されないのよわかる!?」
「はぁ…。」
女子達に困惑しながらアイリスはそう相槌を打った。
そして、いつ教室に戻れるだろうと考えていた。
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