第8話 天然たらしと勘違い

翌日の事。

アイリスは表情をまりで変えていなかったが、明らかに今までと違い、ため息を30分に一度つくようになっていた。


「ロボ子さん、恋のお悩み?」


茜にそう笑顔で尋ねられ、アイリスは無表情のまま、軽く相槌をうった。


「えぇ、まぁ…そんなところです」


「やっぱり!?それでそれで!?二人の間に進展は!?」


身を乗り出して尋ねてくる茜に、流石のアイリスものけぞりながら、話を続けた。


「進展と言いますか…彼が少しわからなくなったと言いますか…とにかく今は彼と話をしたいところですね」


「そうよねぇ!午後は来るかしら修?休むなんて珍しい事もあるものだわ!」


そう言うと、茜は自分の席に戻って行った。

修は午前中ずっと学校を休んでいた。

おそらく母親の梶原節子の仕業だと思うが、修に会えないのがアイリスには長く感じた。

それもこれも、昨日の夜に遡る。


***


「オサ…掴まって!」


手を差し出して、秀樹に発砲し、座っていた修を立たせると、アイリスは誰か来る前に急いで待たせていたジョージの車に乗り込んだ。


「銃声がしたが大丈夫か?アイリスと兄ちゃん!」


「大丈夫です!行って下さい父上!」


「えっ…父上ぇ!?」


アイリスの父のいきなりの登場に、修がそう変な声を出すと、ジョージはニカっと笑った。


「飛ばすぜ!掴まってろよ二人とも!」


絶好調のジョージが車をかっ飛ばすしたため、秀樹の仲間達も何も出来ず、ただ車を目で追う事しか出来なかった。


***


修の家に着くと、梶原節子が飛び出して来て修を抱きしめた。


「修…ケガは無い?」


それを確かめていると、修は節子の手をかわし、言った。


「大丈夫、ケガは無いよ。特殊警察が助けてくれたから…。」


「オサ…。」


アイリスは薄く笑う修に、何か尋ねかけて、呑み込んだ。

修も何か言いたそうだったが、そのまま家の中に節子に促され、それに従った。


「困りますね。いくら助けて下さったとはいえ、修を危険に晒す様な事をされては」


「ちゃんと護衛してましたよ?帰宅した瞬間に襲われるなんて想定外でしたから」


節子とジョージがそう話しお互いに黙ると、妙な空気が流れた。

節子が咳払いをし、その空気を破ると、眼鏡をかけなおした。


「今回は仕方なかった、そういう事にして、お引き取り頂こうかしら?次はない、そう肝に銘じておいて下さいね」


「そう致します!では!」


軽くそう言うと、ジョージはアイリスを乗せ再び車をかっ飛ばしてその場を去った。


***


話す機会がなかったため、今日はしっかり話がしたいアイリスは、じっと修が来るのを待った。


「修来たよ、ロボ子さん!」


茜がそう言うとアイリスは、ぎこちなく笑いながらやって来た修の腕を無表情のまま掴み、つかつかと多目的室に連れて行った。


「何だよ?どうしたアイリス?」


そう言う修を壁に立たせて腕を思いっきりその隣につくと、アイリスはまた片言の日本語で言った。


「オサ…なぜ銃を使える?日本は銃社会の国ではないだろう?」


真面目にアイリスがそう尋ねると、修はいつもの優しい笑顔で言った。


「俺、親とたまに海外行くから、アメリカ行った時に父さんに教えてもらったんだ…アイリスは特殊警察だから当然使えるんだろうけど」


「またそんな事を…特殊警察だなんて本気で思っていない事もわかっている!何故そんな風に突き放す!?」


アイリスは少し怒っている様だった。

そんなアイリスを修は抱きしめると、アイリスは目を丸くした。


「怒らないで…ごめんよアイリス、びっくりさせちゃったんだね。でもあの時、君が俺を守ると言ってくれたように、俺も君を守りたかったんだ。だから思わずあの男を撃ってしまった。突き放そうとしているんじゃないんだ。それはわかってほしい」


「私は怒ってなど…。」


アイリスがそう言うと、修はアイリスから離れて笑った。


「驚いたよ。君は感情が昂ると敬語じゃなくなるんだね。その方が君らしいような気がして好きだよ」


「好き…?」


その言葉に、アイリスは今まで感じた事のない感情に浸っていた。


「俺は先に教室に戻るよ。冷やかされたくないだろう?」


「…。」


修がそう言って出て行った後も、アイリスは固まったままそこを動かなかった。


…私が好き?冷徹な私を?そんな風に言う人は今までいなかった。私は警護するだけ…するべき事はそれだけで…好意をもってもらっていた方が守りやすくはあるが…。


そう思うアイリスの顔は少し赤かった。


***


アイリスも教室に戻ると、茜が待ち構えていた。


「ねぇ!どうだった!?進展あった!?」


「それが…いや、何でもないです」


「ちょっとぉ!言いかけて止めるのは無しよ!聞かせて聞かせて!」


目をキラキラさせてそうはしゃぐ茜に、アイリスもたじろぎながら、修の方を見た。

修は沢山の人に囲まれて何か楽しそうに話していた。

それを見つめるアイリスを見て、海斗が話しかけて来た。


「気おつけた方がいい、アイツは天然たらしだから人がすぐ寄って来るんだ。アンタも口説かれたと思い込んだだろ?」


…思い込まされた?私が?


アイリスはかなりショックを受けたが、それを顔には出さなかった。


「何?何の話?」


はしゃいでいて話を聞いていなかった茜がそう言うと、海斗はため息をついて、席に戻って行った。

修は尚も他の生徒達と、楽しそうに話していた。












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