第7話 怒らせると怖い人

夜になり梶原邸が見える位置に着いたアイリスとジョージは、人混みと規制で入れなくなっているのを確認した。

そこには運転手の萩原達志が警察に説明している様子も見えた。


「テルマ、当然犯人達の行き先も追跡済みだな?」


ジョージが尋ねるとテルマはすぐに反応した。


「はいジョージ、行き先はわかっております」


「テルマ、複数で連れ去ったようだったけれど数はわかる?」


アイリスの問いかけに、テルマは少し答えに時間をかけると、速やめに答えた。


「はいアイリス、犯人は7人で推定年齢はアイリスと変わらないと思われます」


「若い…?父上、そう言えばオサは青山哲士という不良の総長と知り合いでした。何か関係あるかもしれません」


「ほぅ?でもあの連れ去り方はお友達ではなさそうだな…これは不良グループ同士の抗争に巻き込まれたんじゃねーか?」


ジョージの推理に納得がいったアイリスは、車に積んである武器を確認し、まとめて使うものを厳選して、袋に入れた。

そしてジョージの少し荒めな運転で、人の気配のない場所に来ると、灯りが見えた。


「父上は車で待機していて下さい、私がオサを連れ戻します」


「ガキ相手じゃその方がいいかもな。任せたぞアイリス」


ジョージがそう言うと、アイリスはスモークグレネードや銃を片手にテルマが示した民家に入って行った。


***


「おい、何か音がしなかったか?」


総長の中村秀樹がそう言うと、他の6人は顔を見合わせた。


「自分は気づきませんでしたが?」


「アイツが何かやってるか見て来ましょうか?」


2人がそう言うと、秀樹は前髪をかきあげながら言った。


「いや…いい。気のせいだろう」


「…ならいいっすけど」


秀樹は青山哲士を快く思っていなかった。

前にいたイーグルで総長争いに負けた秀樹は、自分より年下の哲士に従うのを嫌い、グループを分裂させてブラックボーンを作り、その総長になった。

だがイーグルを半ば無理矢理分裂させたため、自分を慕ってくれているのは、その場の6人だけだった。

そんな時に分裂して間も無くグループ同士の抗争が起こった。

無理に分裂させた反動が来たのである。

その事を全て哲士のせいだと思っている秀樹は哲士を総長の座から退けさせようと画策していた。


「奴が慕っているアイツが人質なら奴も言う事を聞くかもしれない。我ながらいい作戦だと思うだろう?」


「そうですね、奴にもう動画を送りました。血相を変えて飛んでくるかもしれません」


その会話を盗み聞きながら、修は閉じ込められた部屋から脱出を試みていた。


…アイツって俺の事だよな…まぁそんな事より、ここは2階らしいから窓からは出れない、かといって扉から堂々と出れるわけないし…窓から助けを呼ぶか?でも助けが来る前に何をされるかわからない…。


修がそう考えていると、何かが隣の部屋で転がる音がした。

アイリスが持って来た、催涙効果のあるスモークグレネードだ。


「なんだこりゃ!目を開けてられねぇ!ゴホ!ゴホッ!」


中村達が咳き込んで外へ逃げて行く中、アイリスはガスマスクをしながら、修を探し、見つけるとすぐにガスマスクを着けてやり、そのまま脱出をしようとした。


「まて!逃がさないぞ!」


窓を開けて換気を全開にした秀樹がアイリスの足を引っかけ、アイリスも予想外の事に足を取られ転倒してしまった。

その衝撃で、銃が入り口近くまで転がりアイリスは丸腰になった。


「やってくれるじゃねーか女!誰だか知らねーが地獄を見せてやるぜ!」


アイリスは秀樹に向き直ると、他の不良グループメンバーが逃げたのを確認して、秀樹を容赦なく二、三発殴った。

しかし秀樹はそれでもアイリスにタックルし、なんてとか勝ちにもち込もうと必死に食らいついてきた。

そこでそれを見ていた修が行動を起こした。


「動くな!撃つぞ!」


その声に、アイリスも秀樹も振り向くと、修が秀樹に向けて銃を構えていた。

動きを止めたが、秀樹はすぐにニヤリと笑い、修に言った。


「汚れ仕事なんてした事もないボンボンが粋がるなよ、どうせ使い方なんてわからねーだろ?」


秀樹はそう言ってヘラヘラ笑いながら修に近づいて行った。

それを見てアイリスは思わず声を上げた。


「いけない!オサ!」


それを秀樹は修を心配しての発言だと思ったが、修の目を見た途端に、その笑みが消えた。


…なんだ?ただのボンボンがこんな目をするか…?


修は意思の強い目で秀樹を捕らえ、銃を持つ手様になっていた。

それに恐れをなした秀樹は、思わず奇声を上げた。


「ちくしょー!なめるな!」


そう言って向かって来る秀樹を、修は髪の毛を一部刈り取る形で撃った。

スレスレを撃たれた秀樹は気を失い、泡を吹いて倒れた。


「オサ…なぜ銃を…。」


使えるのかと聞こうとして、アイリスは言葉を飲み込んだ。

アイリスは銃を下ろして怖い顔をした修をジッと見ていた。

その姿はまるで戦場を駆け抜けるジョージを見ているようだった。







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