第6話 娘の変化
「何で盗聴器や発信機があるってわかったんだ?君はやっぱり…。」
カフェテリアでそう話す修に、アイリスは真実を隠せないと悟り、全てを話そうとした。
だが、次に帰って来たのは意外なものだった。
「特殊警察か何かか?頭いいしもしかして飛び級してライセンスとか持ってるとか?」
真剣な顔でそう言う修に、アイリスの目は点になった。
「いや、違うぞ修!バーロー真実はいつも一つなんだ!きっと体がアポトキシンで若返ってるんだぜ!」
「…名探偵⚪︎ナンな、海斗は黙っててくれないか?」
修にそう言われ、肩を落とすと、海斗は元いた席に座った。
「どうなんだアイリス…君はその…何か特別な組織か何かの…?」
「この国の平和さがよくわかった。…でもこの国の平和な高校生の考え方が世界水準になるべきなのだろう…私はそう思う」
どこか悲しそうにアイリスがそう言うと、修は港の倉庫での会話を思い出していた。
「君は俺を守ってくれると言った。でももし何かあった時、君は誰が守るんだ?」
…誰も守ってはくれない使えなくなった傭兵は最後死ぬだけだ。父上はそう私に教えた。
そう言おうとしてアイリスは言葉を飲み込んだ。
だが、その様子から何か読み取った修が、胸に手を当て言った。
「君は強いし特殊警察かもしれないが女の子だ。だからもしもの時は俺が守ってやろうか…?」
「守る…私をですか?」
アイリスは目を丸くすると、少しだけ笑みを浮かべた。
それを見て修は静かに微笑み返した。
…彼が私を守れるとら到底思えない。だがこの安心感はなんだろう。彼はただの警備対象者だ…しかし。
アイリスがそう思っていると、コーヒーカップを持ち修が言った。
「なぁアイリス、乾杯しないか?」
「乾杯…コーヒーで、ですか?」
修がにっこり笑うと、アイリスもつられて少し笑い、コーヒーカップどうしをチリンと鳴らした。
***
「また明日なアイリス」
下校時、大人しく迎えに来た車に乗り込む際にそう言い、修は帰って行った。
その後にアイリスも、待っていたジョージの車に乗り込んだ。
「アイリス、今日はどうだった?」
ジョージがそう尋ねると、アイリスは少し答え難そうに言った。
「父上、彼はその…不思議です。昨日襲われて今日、発信機と盗聴器か見つかったのに平気な顔で、また明日だなんて…。」
「ほぉ…総理大臣の息子だからな、肝が据わってるんじゃないか?」
「そう…なのでしょうか?」
…しかし何だな…ウチのアイリスが手榴弾や機関銃じゃなく人に興味を示すとは。
そう思いながら、車のエンジンをつけると、車に内蔵されたAIが話しかけて来た。
「ご機嫌ようジョージ、アイリス」
「ようテルマ、どうした?何かあったか?」
「はい、任務遂行にはとても危機的状況です」
テルマと呼ばれたAIはそう言うと、衛星カメラにアクセスし、モニターに梶原家を映すと、そこには車を降りて家に入ろうとした途端に連れ去られる修が映っていた。
「テルマ!これはいつの事!?」
アイリスが身を乗り出してそう尋ねると、テルマは検索を始め言った。
「5分前の事ですアイリス」
「…父上、行かなければ!」
アイリスがそう血相を変えて言うと、ジョージは少し手厳しく言った。
「アイリス、慌てるのは早い。もし相手が修少年を殺すつもりの予告状の人物なら帰って来た時に殺せたはずだ。そうしないのは修少年にまだ梶原節子に対しての要求などに使い道があるか、全く違うグループの犯行だ。それくらいわかるだう?しっかりしなさい」
「…父上、すみません」
アイリスが謝ると、ジョージは目を細めて思った。
…判断まで鈍るとは、これは本当に普段と違うな。こんな状態の娘を連れて行くべきか…。
そうジョージの頭に過ったが、行く気まんまんのアイリスに来るなとは言えなかった。
「…ウチの子頑固だからなぁ、誰に似たんだ?」
「何ですか父上?」
「何でもありませーん」
そう言っているうちに、テルマが敵のアジトを調べ上げ、ルートを示した。
「よしありがとうテルマ、ナビよろしく!」
「ジョージ、安全運転でお願いします」
「いや、出来るだけ早く行く。掴まってろよアイリス!」
そう言ってジョージがエンジンをふかすと、アイリスは思っていた。
…待っててくださいね修!
***
「くしゅん!」
修は一人でくしゃみをすると、閉じ込められた部屋でどうするか考えを巡らせていた。
「まさかアイツらに捕まるとはな…。」
そう、修が捕まったのは予告状の犯人とは関係ない、青山哲士が総長のグループ、イーグルから分裂したブラックボーンというグループだった。
「これで青山の奴を叩きのめせる!お前らよくやった!」
そう言ったのは中村秀樹(ナカムラ・ヒデキ)、ブラックボーンの総長だ。
そんな声が聞こえてくると、修は黙って音を立ない様にし、不良達の話を聞いた。
「しかし凄い家に住んでますねアイツ。青山が一目置いているようですが何者なんでしょうか?」
「知るか、ただのボンボンだろ」
中村達の事は、哲士から聞いて修も知っていた。
そしてこの後どう逃げ出すか、修は考え込みながら座った。
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