第24話 闇の世界


あれからアイリスは毎日、修とお見舞いに行くようになった。

学校が始まってからは、アイリスはジョージがやっていた修の見守りを一緒に登下校する事で補っていた。

そのため、運転手の萩原ともすっかり仲良くなっていた。

だが修はそれがあまり面白くない様子だった。


「萩原さんはお子さんがいらっしゃるのでしたね、どんな子ですか?」


「いやー私に似ずすごく頭のいい子でして、実は海外留学から日本に帰って来た所なんですよ」


「そうですか、それはよかったですね」


何気ない世間話を車の中でする中でも、アイリスは銃のメンテナンスを欠かさずしていた。

そんな様子が当たり前になってしまい、誰もその状況に反応しなくなっていた。


「アイリス、俺にも護身用に銃を預けてくれないか?」


修が萩原との話のこしをおりそう言うと、アイリスは即答した。


「ダメです。オサにはまだ早すぎます」


「えぇ!?あれだけ訓練したんだからいいじゃないか…前もそう言ってかなり経つよ?」


「私も銃を持つまで父上に厳しく訓練してもらいました。オサは筋はいいですが、銃を常時、持たせるにはやはりまだ早いです」


…じゃあ前に銃を投げ渡してくれたのは何だったんだよ…。


明らかに修がふて腐れるが、アイリスは完全無視で銃のメンテナンスを続けた。

その様子を黙って見ていた萩原は、一瞬修と目が合うが、すぐに運転に集中した。


***


その夕方の事。

帰りの際、アイリスが福地からの電話に出て、何か話し合っている時、修は萩原に相談した。


「なあ萩原、どうしてアイリスは俺に銃を持たせてくれないんだと思う?」


萩原は少し考えて言葉を選びながら答えた。


「あまり彼女の生きる闇の世界に踏み込んで欲しくないのでは?何より危険ですし」


「…お前もそう思うか?」


修はそう言って電話をするアイリスを見つめた。


「…萩原、俺はアイリスのいる世界なら、どこだって構わないと思ってるんだが、お前はどう思う?」


萩原は驚きながら口元をおさえた。


「そこまで彼女の事を!?坊ちゃま、お気持ちを言葉にした事は!?」


「無いけど…何だよ萩原?」


萩原は修の肩をバシバシと両手で叩くと言った。


「そのお気持ち、言葉にして伝えた方がいいですよ!銃うんぬんは後回しです!そうしたらいずれ彼女も、坊ちゃまを信頼して下さるかもしれませんよ!」


「…そう、かな?」


萩原が笑顔でそう頷くと、修も一度頷いた。


「そうかもな…ありがとう萩原、お前にしか相談できなくて…。」


「いいんですよ坊ちゃま。私に出来るのは運転とこれくらいですので」


萩原はそう言うと、修の背中を軽く叩いた。


***


その頃、アイリスは。


「インターポールの方が直接電話など、どうされたのですか?」


アイリスがそう言うと、福地は電話ごしにタバコを吸いながら言った。


「まぁ騙されたと思って聞いてくれ。例の暗殺部隊に暗殺の依頼をしたヤツの情報だ」


そう言うと福地はメモ帳を開き話し始めた。


「コードネーム、ゲミニの二人に口を割らせたら暗殺部隊はお嬢ちゃんとブラウン氏の事も知っていたようだったぞ。もしかしたら梶原節子に近い人物かもしれない。ブラウン氏を撃った謎の男もそいつの可能性が高い」


「…!?確かですかそれは!」


アイリスは苦渋を飲んだあの日から、ジョージを撃った人物の情報を集めていた。

だが、まるで雲の様に掴みどころが無く、用心深い相手の様で、しっぽを掴む事が出来ずにいた。

なので今回の福地からの情報は、棚から牡丹餅の様な願ってもないものだった。


「コードネーム、レオも最近俺たちにまで接近し威嚇射撃をしてくる事件があった。そっちも用心してくれ」


「…わかりました。いい情報をありがとうございました」


アイリスは電話を切ると、修達の所へ戻った。


***


その頃、暗殺部隊のアジトでは。


「何で他のメンバーを集めたりしたんだ!?俺達だけで梶原修をやれる!手助けは不要だ!」


「落ち着けよタウルス、まずは話を聞こうじゃねーの?」


レオが飴をなめながらそう言うと、身を乗り出していたタウルスは黙って座った。

少年少女達を前に司会者の様な男と、スーツ姿の男がマイクを取ると、その場の皆に言った。


「ここに皆を集めたのは心配症の依頼者の要望だ。ボスである俺も、梶原修暗殺の件は失敗続きでゲミニやレオ、タウルスにはがっかりだ。それでもまだ他のメンバーを呼んだ事が不服か?」


司会者みたいな者がそう言うと、レオも飴をなめるのをやめて黙った。


「闇の世界に生きてる限り、やられたりやり返したりは日常茶飯事だが、もう失敗は許されない!我々は例え依頼人が依頼を取り消したいと言っても任務を遂行する!わかったな!」


ボスの演説に皆拍手すると、レオやタウルスは面白くなさそうな顔をし、アジトを出て行った。

依頼人はその場にばつ印のついた修の写真を見つめてニヤリと笑っていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る