第52話 暗殺の依頼人


「そうですか…やはり父上の方にも来ましたか。こちらは大丈夫なので父上は休んでいて下さい」


タブレットの画面ごしに、テルマの出したジョージの映像を見ながらアイリスは話していた。

まだ本調子でないジョージの心配をしながらアイリスがそう言うと、ジョージは声高らかに笑いながら言った。


「もう充分休ませてもらったぞ?これ以上休んでたらベッドに根でもはっちまうかもしれんぞ?適度に体を動かすように医者に言われてるくらいだ、心配には及ばんよ!」


「ですが医師の言う適度な運動と、父上の激しい運動は全く別物では?傷口が開いても知りませんよ?」


「おっ?暫く俺のあずかり知らんとこで生意気になったじゃないか。大丈夫だ、無理はせんよ。医者に許可ももらった。武器を持ってそっちに行くから待ってろ。もちろん先にドンパチ始めててもいいぞ?軽く相手してやれアイリス」


「…了解です」


アイリスの目が据わったのを見たあと、ジョージは通話を切った。


「ちょっと見ない間に、頼もしくなったな…。お前もそう思うだろ?」


ジョージはロケットに入れていたアイリスの母の写真を見た。

そしてタクシーに乗り込み、アジトに一度帰って行った。


***


「お父さん具合どう?何かあったの?」


梶原邸の修の部屋で修にそう尋ねられると、アイリスはタブレットを置いて振り返り、修に強い口調で言った。


「いいですか?今日はもうこの部屋から一歩も出てはいけませんよ!テルマにもやってもらう事があります、そのため勝手にテルマと同期するのもダメです!いいですね!」


「えー!俺も戦うよ!何のために訓練したかわからないじゃないか!」


「護身術を教えただけです。複数の相手が予想される実践は、もっと強化訓練を重ねる必要がありますが、そんな悠長な事は言ってられません。それに狙われているのは貴方です!自覚して下さい!」


そうきっぱり言われ、修は少し肩を落とした。


「はーい…でもアイリスが危なくなったら俺も…。」


「ダメです!」


「…わかったよ」


修は更に落胆しながらベッドに倒れ込んだ。

それを見てアイリスは少し笑みを浮かべるが、修に見られてはいけないと、すぐ真顔になった。


「では…他の方にも避難して頂きましょう」


そう言って修の部屋を出ると、アイリスは火災報知器に火を近づけて、スプリンクラーを作動させた。


「火事だ!逃げろ!」


執事の西村の声がよく響くと、使用人達は一斉に逃げて行った。

それより早く、真っ先に梶原節子がSPに連れられて邸を出ると、中にはアイリスと修だけが残ったと思われた。

しかしアイリスが廊下を歩いていると、反対側から歩いて来る者がいた。


「やはり貴方でしたか…秘書の野沢武彦さん」


アイリスがそう言うと、野沢は薄く笑った。


***


「梶原節子の秘書が暗殺の依頼人!?なぜ!?」


福地がピスケスとスコルピウスを施設に移送中にそう叫ぶと、電話の相手の荒井が答えた。


「ブラウン親子が言うには、梶原邸にいつでも入れて、親子の同行を知り得て、怪しまれる事がほとんどないのは彼だけだと言えるとおっしゃってましたよ」


「待ってくれ…秘書がなんで修君を殺したい?よくわからないんだが…。」


「私も詳しい事はわかりませんよ。捕まえて直接聞いたらどうです?」


荒井にそう言われ、福地はため息を深くつくと、眠っている暗殺部隊の子供達を見てスピードを上げた。


***


場面は戻って梶原邸の廊下。

そこで向かい合いながら、野沢は親しげに話しかけて来た。


「やはりとはどういう意味でしょう?僕はただスプリンクラーが誤作動したのではと思い、誰も見ていない火元の確認をしようとしただけですが?」


「そんな事は消防の人が確認するのでは?なぜ危険をおかしてまで貴方がする必要が?」


アイリスがそう言うと、野沢から笑みが消えた。

そして無表情でまた口を開いた。


「何をおっしゃりたいのです?」


「人がいないこの好奇に、オサを消そうとしておられるのでは?」


「まさか…と言いたいところですが、その通りです。なぜわかりました?」


無表情でそう言う野沢に、アイリスは冷たい視線を送りながら答えた。


「今回の任務において、父は情報の管理を徹底していました。にも関わらず、暗殺者も暗殺の依頼人は我々の動きを知っていて、驚かされたものです。そこで暗殺の依頼人は我々の依頼人の梶原節子に親しい者、例えば使用人や恋人などかとも思いましたが、うってつけの秘書という立場に貴方がいた、それだけの事です。貴方は父の事もスキを狙って撃ってもいる。許しがたいです」


「…本当に君は、邪魔ばかりする子だ」


野沢は小型の銃を懐から取り出し、アイリスに向けた。

アイリスも銃を取り出し、野沢に向けた。

そして睨み合ったまま、アイリスは言った。


「なぜオサを狙うのですか?梶原の家には家族同様に接してもらっていたのでは?」


アイリスの問いに、野沢は顔をおさえてクツクツと笑った。

そしてなぜ修の命を狙うのかを、語り始めようとしていた。









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