第2話 贈り物

梶原修が名前を尋ねると、アイリスはハッと我に帰り言った。


「アイリス・ブラウンであります!」


アイリスがそう言って敬礼すると、修は次の瞬間、クスクス笑い言った。


「やっ…ごめんごめん!ツボったわ!マジ面白いね君!日本語上手いね。どこの国の人?」


修がそうアイリスの瞳を覗き込むと、アイリスは少し頬を赤らめながら、しかし瞳は真剣な面持ちで答えた。


「アメリカです、ところで隠れるという事は貴方も誰かに追われているのでしょうか?」


アイリスが任務のために探りを入れようとすると、修は「うーん…。」と少し唸りながら答えた。


「なんかね、女の子に追いかけられちゃって…俺結構モテるからさ」


「モテる…。」


アイリスが不思議がりながら考え込んでいると、修は急に慌て出して言った。


「ごめん!人が来そうだから俺あっち行くね!またねアイリス!」


「あの…。」


アイリスの制止を振り切り、修はそのまま校舎の方へ消えた。


「モテる…。」


尚も首を傾げながら、アイリスはそのまま、職員室へ向かった。


***


「さぁ、こっちが教室ですよ。リラックスしてね」


「はい…。」


女の先生に連れられ、やって来た教室の前に立つと、アイリスは狙撃しやすいところか、爆弾は設置設置可能かなど、そんな事ばかり考えていた。

そして先生がアイリスと共に教室に入ると、生徒達が皆席に着いた。

その中に修がいるのを確認しながら、アイリスは教壇の脇に立った。


「皆さんに転校生を紹介します。アイリス・ブラウンさんです。仲良くしてあげてくださいね」


「アイリス・ブラウンです。よろしくお願い致します」


カタコトの日本語でそう言うと、アイリスは生徒達を見回した。


…武器を隠せそうなところがかなりありますね。父上に報告しなくては。


「じゃあブラウンさん、席へ…。」


そう促されると、アイリスは修の隣に座る事が出来た。

同じ教室に隣の席、これも謎のクライアントの力なのだろう。


…何にしても守りやすい、助かりますね。


アイリスはそう思いながら、鋭い洞察力で周りの様子を伺った。

すると鉛筆など先が尖っている物を所持している者を見て、身構えたりしていると、修に話しかけられた。


「さっきの子だよね?様子おかしいけど、どうしたの?」


「これも任務なのです。お話は後にしてください」


「…?」


アイリスの奇怪な行動は、先生の目にも止まったのだろう。

それからお昼になるまで、アイリスはよく色んな先生に指され、そしてことごとくベストな答えを返した。

更に休み時間は他の生徒達に囲まれ、質問責めにされたが、それをことごとくカタコトの日本語で堅苦しく答えた。

そのため、自然についてしまったあだ名があった。


「なぁロボ子、ここわかる?」


「ロボ子ー!宿題見せて!」


綺麗な顔立ちというのもあり、ロボ子と呼ばれる様になっていた。


「質問や宿題を見せるの構わないが、なぜ皆私をロボ子と呼ぶ?」


そう不思議がるアイリスに、隣の席の修が吹き出すと、言った。


「ごめんごめん…でも自分で気づいてないの?君って相当何をするにも機械的って言うかロボ的だよ?」


「ロボ的…?」


アイリスがまだ不思議そうにしていると、更に修は笑いながら言った。


「ねぇ、放課後付き合ってくれる?君にピッタリの店に連れて行ってあげるよ」


「…ピッタリ?」


アイリスは不思議ではあったが、護衛しやすく好都合だと思い、修や皆に見えないように小さくガッツポーズをした。


***


放課後、アイリスは修と歩いていると、修を迎えに来た高級車の運転手に声をかけられた。


「坊ちゃま、お乗りください!お連れ様と一緒で構いませんから!」


「面倒臭いなぁ…いいよ萩原、すぐ近くだから」


修がそう言うと、運転手の萩原達志(ハギワラ・タツシ)はしゅんとした顔で車を止めた。


「大丈夫ですか?」


アイリスがそう声をかけると、達志は驚きながら柔らかく笑った。


「大丈夫です…いつもの事なんで」


…この人からは敵意を感じない。犯人では無さそうだな。


アイリスがそう思っていると、修が遠くから呼ぶ声が聞こえて来た。


「おーいアイリス!ここだよここ!」


修の方を見ると、見るからにアイリスには縁のない見るからに可愛らしいアクセサリーショップが、視界に入った。


「なっ…なんだ?」


「アイリス!これなんかどう?」


「これ…?」


修がアイリスを店の前に連れて来ると、焦茶色のリボンのついたカチューシャをアイリスにつけた。


「うん、やっぱり着けるとしっくりくるよ。おばちゃんこれちょーだい!」


「主旨がわからないのですが…?」


「君にプレゼントだよ、お近づきの印に!」


思わぬプレゼントに驚きながら鏡の前でカチューシャをつけてみると、ホワイトブロンドの髪に焦茶色のレースが良く合っていた。


「やっぱ可愛いんだしこれくらいしないと、ピアスしてるしオシャレに興味ないわけじゃないでしょ?」


「…これは母の形見で…。」


「…そうなの?じゃあ余計なお世話だったかな?」


「…いえ、ありがたく頂いておきます」


「そっか、よかった!それと俺の事はオサでいいから、俺もアイリスって呼ぶし」


修の言葉に、アイリスは少し首を傾げながら言った。


「オサ…なぜムを抜くんです?」


「何となくだよ!皆そう呼んでるから!」


そんな話を運転手の達志も近くに車を止めて微笑ましく聞いていた。

しかしアイリスはまだ気づいていなかった。

他にも二人の後をつけている人影が複数いた事を。





















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