ロボ的な彼女
雪兎
第1話 出会い
アメリカ、ニューヨークで、機関銃を抱えて、ある少女が暗い港の工業地帯を走っていた。
時刻は夜7時頃、少女は誰かを追い詰めると、威嚇射撃をし、どちらも足を止めた。
「わかった!ブツを渡す!これでいいだろ!?」
「…。」
少女の名はアイリス・ブラウン。
傭兵として育てられた闇の掃除人だ。
ホワイトブロンドのショートの髪に小さいリングのピアスをしている。瞳の色はブルー。
愛らしい見た目とは裏腹に、感情のない目に見つめられ、追い詰められた者は縮みあがってしまっていた。
そしてブツと呼ぶ金のケースに入った物を投げると、アイリスがそれを拾い、機関銃をまた標的に向けた。
「ブツを渡すだけじゃダメだ、お前さんも拘束させてもらう」
一部始終を見ていた、渋くて黒く体を焼いた男性がそう言うと、追い詰められた者を銃で殴り気絶させて、車に放り込んだ。
「乗れアイリス、よくやったな」
「了解しました、父上」
それだけ言うと、アイリスは車に座り、機関銃の手入れを始めた。
そんなアイリスの様子をみながら、父上と呼ばれた男性、ジョージ・ブラウンは言った。
「アイリス…お前にとっておきの任務が舞い込んで来たぞ」
「…どんな任務でしょう、父上」
アイリスは一瞬手を止めそれだけ言うと、再び機関銃の手入れに戻った。
「まぁ、まずは現地に行こう、話はそれからだ」
ジョージはそう言うと、車を走らせ、あるところに男性を放り落として空港へ向かった。
***
「父上、この国は…。」
「そう、日本だアイリス!いいだろう?」
「…趣旨がよくわからないのですが…。」
アイリスがそう言うと、ジョージはカッカッカと笑い、言った。
「お前の新しい任務は、ある少年を守る事だ。依頼があってね、ある人物の息子を殺害すると言う予告状が届いたらしくて、犯人にも息子にもそうと気づかれない様にボディガードをしてほしいらしいんだ」
「嫌です…父上」
「お?」
いつもアイリスは素直に言う事を聞くのだが、この時は無表情ではあるが、明らかにジョージに反抗した。
「なぜだアイリス?言ってみろ」
「私はもっと激しい戦地に出向き、父上の様な立派な傭兵になりたいのです」
「…なるほどな。気持ちは嬉しいが、今回のこれも立派な任務であり実践だ。学べる事も少なくないだろう。それに、年齢の問題で今のお前にしか出来ない仕事だ。やってくれないか?」
ジョージの言葉に、アイリスは少し悩みながらも、静かに答えた。
「クライアントを守って犯人を捕まえればいいんですね…?」
「あぁ、そうだ」
「わかりました。では早速クライアントのところへ…。」
アイリスがそう言いどこかへ向かおうとすると、そんなアイリスの首根っこを掴んで、ジョージが言った。
「まてまて…その格好で行くつもりか?日本の学校には制服という物があるんだ。まずこれを着て来なさい」
そう言われて用意されていた制服に身を包むと、アイリスは同じ様に手渡された鞄の中身も確認した。
そしてジョージの方を見て言った。
「父上…。」
「おう!どうしたアイリス?」
「機関銃も手榴弾もありません」
ガクッとジョージはコケると、アイリスに言った。
「ここは日本だぞ!?向こうでもそうだが、学校に機関銃も手榴弾も持ち込めない!ましてナイフなんて持っていようものなら逮捕されちまうぞ!気をつけろよ!」
「そうですか…心得ました」
…大丈夫か…?
心の中で少し不安になりながら、ジョージはアイリスを車で学校まで送った。
「着いたぞ、依頼人の息子は梶原修(カジワラ・オサム)。大っぴらに守る事は出来ないから学校では目立つんじゃねーぞ」
「了解しました」
アイリスはそう言うとジョージから写真を受け取り、車を降りて鞄を背負った。
すると校舎に向かう生徒達が皆、アイリスの方を見た。
ホワイトブロンドの髪も、程よく引き締まった体の女性らしいラインも、整った顔立ちも、注目を集めるには十分だった。
「初めっから目立っちまって…。」
車からその様子を見ていたジョージは、頭を抱えながら、なおも様子を見守った。
「君転校生?外人さんだよね?」
「すっごくスタイルいいね?日本語わかる?」
ゾロゾロと主に男子生徒が集まって来ると、アイリスを囲んだ。
「日本語はわかります。転校して来たアイリス・ブラウンです。よろしくお願いします」
「堅苦しい挨拶はいいからさ、俺達と遊ばない?」
「遠慮させて頂きます。それでは」
「ちょっ!待って待って!」
アイリスが走り出すと、男子生徒達は追いかけて来た。
しかし、鍛え抜かれたアイリスには全く追いつけなかった。
***
「困りましたね…任務が最優先だというのに…。」
茂みに隠れてそう言いながら、アイリスはバタバタしている生徒達の動向を見守った。
「こっちにはいないぞ!」
「どこ行っちゃったんだあの子…。」
男子生徒達が去ると、今度は女子生徒達が騒がしくし始めた。
「変ね、こっちにもいない…。」
「どこ行っちゃったんだろう?」
女子生徒達も誰かを探しているようだった。
「…?」
誰を探しているのか、気になりつつもアイリスは誰もいなくなったので茂みから出ようとした。
しかし誰かに後ろから抱き寄せられ、それが出来なかった。
「…!?」
「シー…今度は向かい側から来るよ」
反射的に倒そうと身構えたアイリスだったが、抱き寄せた相手の顔を見て止めた。
そして誰もいなくなると、相手はアイリスを離しアイリスが振り返る形で向き合った。
「危なかったね。俺、梶原修。君は?」
アッシュゴールドの髪に黒い瞳の彼がそう言うと、アイリスは見つめられながら胸が少し高鳴るのを感じていた。
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