第29話 妻と娘の正体
アイリスの問いかけに、昭子が微笑していると、バタバタとまたアジトに入って来た者達がいた。
インターポールの福地と荒井だ。
「お嬢ちゃん!彼女は違うんだ!」
「早まらないで下さい!その方は!」
バタバタと息を切らして入って来た二人を見ると、修が堪えられず声を上げた。
「今度は何!?アイリス!この人達誰!?」
「オサ…落ち着いて」
アイリスが深呼吸を修に促すと、修は何とか落ち着いた。
息を切らしていた福地と荒井も息を整えられた様子で落ち着いて話始めた。
「落ち着いて聞いてほしい、この方はインターポールと協力関係にあるFBIの副長官、萩原昭子さんだ」
「インターポールに…FBI!?」
「…オサ、少し静かにしていてください」
アイリスは足を組んで椅子に座った昭子を見ながら、全てが腑に落ちた様子で言った。
「なるほど、FBIですか。娘さんにスパイ行為なんてさせていいのですか?」
「…えぇ、私の力になりたいとあの子から言った事ですからね」
アイリスが持っていた銃を下ろすと、福地と荒井はホッと胸を撫で下ろした。
「萩原さんが行方不明との事ですが、ここ以外だと心当たりはあと一つしか無いですよね?」
アイリスがそう言うと、昭子はめまいがしたのか顔をおさえた。
「…やはり暗殺部隊の仕業か!?子供のクセになんていう事を!」
「副長官!お気を確かに!」
昭子を荒井が介抱すると、福地も頭を抱えた。
「奴らの寝床はわかってるが、簡単には手を出せない。そもそもなぜ旦那さんが捕らえられたのか、どこまで彼らが情報を掴んでいるかわからない…。」
「真衣の正体はまだ暗殺部隊は知らないと思いますよ」
頭を抱える大人達にアイリスがさらりとそう言うと、皆アイリスに注目した。
「なぜそう思うのかね、お嬢さん?」
昭子がそう尋ねるとアイリスは人数分コーヒーを入れて出しながら答えた。
「姿を消したのは萩原さんだけで真衣が無事ならそうかと思いまして…。仲間に裏切り者がいたらすぐに報復するのが当たり前ですからね。
でも真衣が疑われているのは確かだと思います。今日ずっと真衣が接触して来ていた時、視線を感じましたから」
「…そっか、今日なんだか真衣がやたらと絡んで来てたのって、真衣も見張られてたからなんだ」
修がそう言うと、アイリスが頷き続けた。
「妙な小瓶を隠し持っていたのを見ると、毒薬でも持たされたのでしょうね。危険だと思ったのですり替えさせてもらいましたが、案の定危険な薬品でした」
アイリスが小瓶をテーブルに置くと、修がしげしげとそれを見つめた。
「怖っ…やだな俺、真衣みたいなのに殺されるの…。」
「みたいなのって…一応私の娘なのですがね」
「あぁ、すみません!」
「いえ…まぁ、あの子に問題があるのは私もわかってはいるので」
そう言って昭子は、深くため息をついた。
「なぜ萩原さんが捕らえられたかまではわかりませんが…とりあえず、今は萩原さんの救出方法を考えましょう。昭子さん、真衣をここに呼べますか?」
「えぇ、可能ですが…。」
少し困惑した様子で、昭子がそう言うと、アイリスは不適な顔をして言った。
「今回は貴女の娘さんに一肌脱いでいただく事になりそうですよ、もちろん皆さんにも!」
そう言うアイリスを見て、修は鳥肌が立つのを感じた。
作戦の説明をするアイリスはイキイキとしていてとても美しかった。
***
「あっ、ホテル出たよヴィルゴ…。」
「オッケー、じゃあ尾行しようか…。」
アクアリウスとレオがそう言って真衣を追うと、タウルスもめんどくさそうに重い腰を上げた。
「こんな時間にどこに行くんだ?やっぱりアイツ何かあるのか?」
「シー…タウルス静かに。気持ち良さそうに寝てるんだから」
車に乗って真衣を追いかける3人とは別に、萩原が縛られたまま後ろの席でぐっすり眠っていた。
「まぁ確かに、起きて騒がれたら困るな」
タウルスは静かにそう言うと、少しづつ車を動かした。
***
少し時間が過ぎた頃、港の方にやって来た真衣を尾行するレオ達が一瞬目を離すと、真衣が忽然と消えた。
「えっ!?どこに行ったの!?」
「落ち着けアクアリウス、そう遠くへは行ってないはず…。」
実はアイリスの自宅兼アジトは、港の倉庫の地下空間にある。
そこそこ広く、発見し難い場所なので、入り方を知らないと全く気づかれないため、3人は倉庫を通り過ぎて行ってしまった。
それを監視カメラで見ていたアイリスは、敵の接近も冷静に見つめながら、入って来た真衣に言った。
「いらっしゃい。FBIのスパイだそうですね。よくその性格で務まったものです」
「ちょっとご挨拶じゃない…私もやれば出来るのよ!てゆーかもうバレちゃったの!?」
真衣がプリプリ怒ると、昭子もアイリスも深くため息をついた。
「そんな事より、お父さんが危ないわ。貴女も監視されているし、手を打たないと。幸いこのお嬢さんが協力してくれるらしいわよ」
「えぇ!?ママ本気!?」
真衣がそう言うと、やはり心配でめまいがするのか、昭子は顔を片手でおさえた。
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