第4話 クライアント


「アイリス…君がやったのか…?」


気絶している男達を見て修がそう言うと、アイリスはコクリと頷いた。


「何でこんな事が出来るんだ…君は一体…?」


修が核心に迫ろうとした所で、ある高級車が倉庫に横付けし、後ろの席から降りて来た眼鏡にセットアップした髪の女性が言った。


「そこまでです。帰りますよ修」


「母さん!?」


…母さん…ではこの人がクライアント。


そう思っていると、ヘリから降りて来たジョージもアイリスの側に駆け寄り言った。


「よく顔を覚えておけよアイリス。女性初の内閣総理大臣でクライアントの梶原節子(カジワラ・セツコ)だ」


「…了解しました父上」


そんな事をこっそり話していると、修が感情的になり大きな声で言った。


「母さん!急に来て邪魔しないでくれよ!俺はアイリスが何者か聞くまで帰らない!」


「いいえ、貴方は帰るのよ。萩原、何してるの?」


節子がそう言うと、達志は申し訳なさそうに修を抱えると、無理矢理車に連れて行った。


「何するんだ!?止めろ萩原!母さん!」


修はなす術も無く車に連れ込まれ、不服そうにしながらもアイリスに言った。


「アイリス!明日必ず、全部話してもらうからな!」


「…。」


アイリスは何も言わずにお辞儀をした節子にジョージと共にお辞儀を返すと、修の乗った車を見送った。


「アイリス…可愛いじゃねーかそれ」


カチューシャのリボンのフリルに触れてそう言うと、ジョージはいい笑顔でアイリスを見た。


「クライアントの息子さんに頂きました。恐縮です、父上」


「そうかい、似合ってるぞぉ!ハッハッハ!」


明るく笑うジョージに、アイリスは目を瞑り少しだけ顔を赤くした。

しかしすぐにいつもの顔に戻り、ジョージに言った。


「父上、そういえば我々の日本のアジトはどこです?」


「おっ?知りたいか?いいとこに作って装備品も揃えてっから心配いらねーぞ?」


チャーターしたヘリへ向かいながら、ジョージそう言うと、アイリスはジョージが投げ込んでくれた武器を担ぎ、キビキビとジョージについて行った。


***


朝、タンクトップに迷彩柄のズボン姿で目を覚ましたアイリスは体を起こし、銃が所狭しに飾られた部屋で不釣り合いなカチューシャに手を伸ばした。


「私にこれが似合うなんて…。」


アイリスはそう言うと、そのままカチューシャをし、制服に着替え部屋を後にした。


***


一方、修は少し緊張した表情でアイリスが来るのを校門で待っていた。


「来ないな転校生、やっぱお前の母親に関係してるんじゃないか?」


そう言ったのは小松海斗(コマツ・カイト)、修の親友だ。

海斗がベンチに寄りかかって漫画を読んでいると、その漫画を奪い、修は言った。


「母さんの関係者なら余計に謎だ!何であんな可愛い顔して何十人もの男達を倒せる!?どんな事情で俺に近づいて来た!?気になるじゃないか…!」


「申し訳ありませんが、その質問にはお答え出来ません」


「ほらな…こんな風な調子だから余計気になっ…て!アイリス!?」


近づいて来る気配に気づかなかった修は、飛び上がって驚き、アイリスを見た。


「今日も可愛い…じゃなくて!なんで俺の質問に答えられないんだ!?君は何者なんだ一体全体!?」


「私には任務があって…その延長線上に貴方がいる…それだけじゃ足りませんか?」


「任務?任務って…なんだよそれ、余計にわからなくなったよ…。」


二人がそんな会話をしていると、海斗が修の後から顔を出し言った。


「どもー!昨日も少し話したけど覚えてないだろうから自己紹介するね!俺は同じクラスの小松海斗、よろしくロボ子…て!今揺れた!?くそー!閉じ師は何をしてるんだー!?そう思わん?」


「…オサ、彼は何を言っているんだ?」


アイリスがそう言って海斗を指差すと、修がすぐに助け船を出した。


「すず⚪︎の戸締りだよって言ってもわからないか…彼はもの凄いアニオタで、よくこんな風な調子でおこった事をアニメにリンクさせたりするんだよ」


「アニオタ…?つまり話が読めなくなる事が頻繁にあるのか?」


「まぁ…そんな感じかなぁ…。」


修がそう言うと、アイリスは少し困惑しながら思っていた。


…話が読めなくなるのは厄介かもしれませんね。要注意人物にしておきましょう。


「おい修!俺がまるでヤバい奴みたいな事言わないでくれないか!」


「ヤバい奴でしょ十分!」


そう言って現れたのは、髪を編み込んだ髪を一つにして流した少女だった。


「クラスメイトの佐藤茜(サトウ・アカネ)です。よろしくねロボ子さん。修も海斗も女の子にしょっちゅうちょっかい出すから気おつけた方がいいですよ!こんな奴らはほっといていきましょ!」


「えっ、いやその…。」


流されるままに手を引かれ、アイリスは修の側を離れてしまった。

アイリスの中で彼女もまた要注意人物にされた瞬間だった。

しかしそれよりも、アイリスは気になる事があった。


「なぜ誰もオサと呼んでいないのです?皆からそう呼ばれてるって…。」


「あー…そう呼んでくれ的な事最初に言われたわね。でも皆、あえて修呼びが定着してるかな」


「Why?(なぜ?)」


さっぱりついていけない修の身辺の様子に、アイリスは疑問符が飛び交うばかりだった。












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