第11話 暗殺組織の子供達


汚れた制服を持ってジャージで出て来たアイリスを、ジョージは笑いながら車に乗せアジトへ帰った。


「父上、わけを聞かないのですか?」


「避けられなかったんだろ?誰かに庇われて」


「はい…。」


「いいから風呂に入って来い、話はそれからだ」


ジョージにそう言われ、アイリスはアジトのお風呂に直行した。


***


アイリスが迷彩柄のパジャマを着て出て来ると、ジョージはウイスキーを飲みながら、写真をならべていた。

そしてアイリスが出て来たのを確認すると、目の前に座らせて言った。


「これは全部、梶原修を狙っている容疑者だ。絞り込んだつもりだが、まだこれだけの人数いる。だが問題はそこじゃない。アイリス、お前は黄道十二宮隊を知ってるか?」


「はい父上、風の噂で少し…確か暗殺組織が作った殺人を生業とする子供で作られた部隊で、星座の名前をコードネームにしているとか…でも本当かどうかは定かでないと…。」


「そうなんだよ、俺も本当にあるとは思わなかった。だがどうやら本当に部隊があって、そこに依頼した奴がいたらしいんだ。確かな情報屋の話だから間違いないだろう。そしてその星座の名前の子供達と、お前が戦う事になるかもしれない。子供と言ってもお前くらいだし暗殺部隊なだけあって、容赦は無いだろう。血も涙もない、気をつけろよ。俺は引き続き容疑者をしぼる作業を続ける」


そう言うとジョージはあくびをしながら自分の部屋へ消えた。


「黄道十二宮隊…やっかいですね」


アイリスはそう言うと、銃の手入れをし、来るべき戦闘の準備を始めていた。


***


次の日、アイリスはジョージの車でまた送ってもらうと、修も運転手の萩原達志に送られて来たところだった。


「おはようアイリス!毎日送ってくれるなんて、優しいお父さんなんだね」


「…えぇ…まぁ」


アイリスは修の話をあまり聞かずに辺りを見回し警戒していた。

暗殺部隊がどこから狙ってくるかわからないからだ。

相手は同じくらいの少年少女という事は、もう学園に乗り込んで来ていてもおかしくない。

そう思うと道行く人皆、怪しく見えてしまう。

アイリスの様子がおかしい事に気づいた修は、アイリスの額に手を当て、自分の額と比較した。


「なっ…なんです?」


「熱は無いみたいだけど、一応保健室行くか」


そう言って修に手を引かれながら、アイリスは保健室まで連行された。

その間もアイリスは警戒を怠る事はなかった。


***


「だからですね…私は平気です」


「そう?顔色悪い気がするけどな」


「青白い顔なら生まれつきです」


保健室で座らされてそんな話をしていると、アイリスは深くため息をついた。


…人の心配をしている場合じゃないというのに、この人は…。


まだ知り合ったばかりだが、こんなところが修らしいとアイリスは思った。

そしてどの様な理由かは知らないが、暗殺を目論んでいる犯人を許せなかった。


…私が守りきらなければ、どんな相手が来たとしても。


そう思っていると、修にまた額の表面温度を機械で計られ少し驚いた。


「微熱があるな、昨日バケツの水かぶったからじゃないか?」


修はそう言うと、アイリスをベッドに寝かせようとした。


「だから私は何ともないです!」


「いや、寝た方がいい!風邪はひき始めが肝心なんだから!」


アイリスと修で寝る寝ないの攻防が続いた。

そんな時、何も知らない茜と海斗が、保健室に入って来た。


「ロボ子さん!風邪ですって!?昨日濡れた髪にジャージで帰られてましたものね…え?」


「修、看病はいいけど授業始まる…は?」


入って来た二人は目の前でベットに押し倒している人と押し倒されている人の構図に言葉を失った。


「ごっ…ごめんなさい!邪魔しちゃって!海斗教室に戻るわよ!」


「いや、でもよぉ!ここは止めた方が…!」


「戻るわよ!海斗!」


「はい…。」


そう言って出て行こうとする二人を修と一緒に腕を掴んで止めて、アイリスは暫く誤解を解くのに時間を使った。


***


「何だそうだったの、てっきり私は…。」


「チガイマス、そうじゃないデス…。」


普段より更に片言の日本語を話し、アイリスは本当にロボットのように、表情も固かった。


「でもやっぱさ、そう見えちゃうような事はしちゃダメだろ?俺らだったからよかったけど」


「わかった、気をつけるよ海斗。なっ、アイリス!」


修がそう言って笑うと、アイリスも少しだけ笑った。


***


「あららー。アイリスの奴、警護する対象を好きになる事は無いと思ってたけどマジかー。」


望遠鏡と、アイリスに忍ばせた盗聴器で様子を伺っていたジョージはそう言うと、忍ばせていたドーナツをかじった。


「まぁ、別に不都合がなければいいけどな。ウチは放任主義だし」


そんな事を言っていると、保健室の窓に映った、ジョージとは違う角度からの光を、ジョージは見逃さなかった。


「おっ!暗殺部隊さんのお出ましか?」


ジョージは望遠鏡をしまうとライフルを取り出し、今いる高台から光った方向へ向けて移動した。












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