−2(続き)

ディスペラージョンとマグマの塊はディメンションの異次元から解除され、照屋時生の異次元の世界から現実の世界へと放たれると空気中に一気に熱を感じた。


「このままでは街が危ない。愁は水池を全力で守れ!」


レイとストロークは僕にそう言うと飛び立った。元の姿に戻った水池先輩の盾になるように前に立ち辺りを見渡すと、ストロークが街中に落ちようとするマグマの前に追いつき反転し、それを防ぐように阻むや轟音が空に響いた。


グォアアアア!!

ストロークが腕を震い放った一撃は台風のような威力を発し、吹き荒れる風は大きなマグマを包み込んだ。

マグマは吹き上がるように回転したままストロークの放った風の中で真空状に封じ込めた。寸止めしたマグマは熱を冷ましていくとストロークは激しい拳の連打で打ち消した。



その頃、アリアはディスペラージョンが街に降り立ったのを目にしラナンキュラスに変華した。彼女は遠方から銃を撃つと、弾を体に受けたディスペラージョンはそれをものともせずにラナンキュラスの方を向いた。すると奴から自分が受けた弾より更に威力の強い砲弾が発射された。


ラナンキュラスが大きく逸れたその時、その一直線状にあった建物を一瞬で吹き飛ばし破壊される。恐れを感じたラナンキュラスにアノメイオスが声をかけた。


「奴は何としてでも破壊する。アリア、俺を信じて撃て」

「はい!」


アノメイオスにそう言われ彼の後を追いながら気力を取り戻したラナンキュラスは銃を連射させた。

ディスペラージョンは再び自分の銃より威力のある砲弾を発するとアノメイオスは鳴り響く擬音と共に気流を作り出して一気に飛ばした。ラナンキュラスの弾はその軌道に沿ってアノメイオスの威力と合わさり、気流の弾ショットエアブローが発動した。かまいたちのような気流で砲弾を切り刻みながらその一部がディスペラージョンの頬にあたった。


僅でも傷が付けられディスペラージョンは怒りを覚えたのか怒号を上げた。すると瞬時に現れたレイが光の拳を打った。奴は更に強い拳を打ち返し、レイは押されながら後退していく。するとディスペラージョンは背後に攻撃を受けた。

レイはもう一人の自分を作り攻撃させていたのだった。

ディスペラージョンの体が赤くなった時、本体のレイが高速の速さで動いた。再びマグマを放とうとするディスペラージョンの前で宙に跳び、回転しながら放射線状に光の攻撃を放った。

光は剣となり、ディスペラージョンを斬り裂いた。


斬られたディスペラージョンはわずかながらも動いている。


「俺にやらせろ。人外に一切の容赦はしない」


そう言ったアノメイオスから旋風を吹き付けられたディスペラージョンは全身細かく砕かれていき、とどめを刺された。



そんな光景を目にしながらも照屋時生は余裕の表情で空を仰いだ。


「たがが一体倒したくらいでいい気になるな。全てにおいて貴様らを超える力と化したディスペラージョンが私の異次元と一体化したイボーグによって無数に作り出される。

さあ、目を覚ませ!!」


だがディスペラージョンの核となったイボーグは微動だにしない。皆が見守る中、水池が淡々と言った。


「彼は72時間のスリープ機能で停止しています。その間、動く事はありません」


「時間稼ぎか?まあいい。清浄の日はまたの日にする。その時は貴様らをまとめて排除しよう」


時生はそう言うと笑いながら引き下がった。


その光景を僕は羨望の眼差しで見ている。その後、修羅場が待っている事に誰もが気づかずに‥




黙々とスマホを見ている水池先輩の隣に座った僕は浮かない顔で俯いていた。さっきの戦いでの皆の戦いぶりを思い出し、自分の不甲斐なさに落ち込み‥


篁社長のストロークや三条先輩のレイはもとより、ラナンキュラスとアノメイオス‥僕は斗川さんにも嫉妬していた。しかも大口叩いて一人でイボーグ君を何とかするとか言って、現れたディスペラージョンに手足も出なかったなんて‥


水池先輩は一人で悶々としている僕をじっと見ていた。本来なら自分が心配されそうな立ち位置の筈なのに、これでは逆ではないか?そう思ったように水池先輩がぼそっと言った。


「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの?アリアの良からぬ妄想でもしているのかい?」


「何を言うんですか先輩は!アリアの事をそんな、やましい気持ちで見てはいけないでしょう!」


焦るように必死になって叫ぶ僕に水池先輩は更に淡々と言った。


「言っておくけど向こうが想定外に強かっただけで僕たちは十分やったから、何も悪く無いよ」


そのメンタル、僕も欲しい。その言葉を口に出さず更に頭を抱えた。

ああ、何で僕は鶫なんだろう。せめて鷲とかだったら、キックした時格好いいのに。それだったら勝てたかもしれない。


「僕は恥さらしだ」


そう言葉を漏らしたその時、突然アリアが現れた。その顔は怒っている。さっき水池先輩が変な事を言ったせいで余計意識したが、彼女は問答無用で僕に向かってイクアージョンを翳すと、アリアはラナンキュラスに変華した。

僕はというと、さっき鷲になりたいとか言ってばちが当たったせいで(?)イクアージョン鶫では無く怪人になってしまっている!


ラナンキュラスは僕に銃を構え攻撃体制に入った。


「愁君、そんなんじゃ街を救えないわ、私と勝負しなさい!」


そう言うなり僕に向かって銃を連射してきた。それを必死でかわし

逃げる僕を彼女は追いながら言う。


「その姿に姿を変えるってことは、やっぱりよこしまな気持ちを持っている証拠よ!」


「さっきも言ったけど、僕はそんな事思ってない!」


僕は踵を返し牙を剥いてラナンキュラスに襲いかかった!


「ましてや、君を抱きたいとかこれっぽっちも!!」


駄目だ。これじゃどうあがいても逆にとられてしまうじゃないか。嗚呼、怪人に姿を変えたせいかさっきから言わなくてもいいことを口に出してしまう!

僕たちの喧嘩、いや、戦いを水池先輩の他、篁社長や三条さん、その向こうに斗川さんとサリィが眺めている。


蹴り上げたラナンキュラスの脚をまともにくらった僕は仰向きで倒れると、彼女は真上から銃を向けて言った。


「さっきから不真面目な事ばっかり言って。前に私を助けた時は真剣に戦ったのに、今はそうでも無いの?」


「君だって斗川さんと一緒に戦っていたじゃない。彼と一緒だったから危険な目にも遭わずに敵を倒せたし、よかったよね」


「責任転換するつもり?」


「解ってる筈だ、本気ですれば痛い目に合うだろ!」


そう叫ぶとラナンキュラスは銃を向けたまま固まった。

すると、篁社長と三条先輩が僕の前にやって来た。僕は三人に囲まれる状態になると、三条先輩が言った。


「愁、この支部に預かっている以上、皆が今のお前に納得していない。葉也イボーグが目を覚ますまでの三日間、あの人外ディスペラージョンとまともに戦えるように猛特訓だ。


「今なら湊のオプションも付けるぞ」


「げっ‥いえ、それはまた今度で‥」


豹のような目で見ている斗川さんのサディステックな攻撃にはまだ耐性がないので耐えられない。その間、音もなく去ろうとしている水池先輩を三条先輩が「待て」と呼び止めると、笑みを浮かべた。


「水池は後でやって貰う事があるからな」


そう言って良からぬ顔で笑っている三条先輩に水池先輩は心の中で叫んだ。

(ヒィィー!)


「それに」


ラナンキュラスは朴訥な口調で言った。


「たとえ斗川さんと一緒に戦ったとしても、私の好きなのは愁くんよ」


え‥‥!?そんな話は初めて聞いた。するとサリィが間に入ってきた。


「ダメよ!愁さんには悪いけどアリアはまだ私のものだから!」


サリィはラナンキュラスに抱きつくと、それを引き離す手が現れた。


「君は私とこっちに来るんだ」


サリィは突然斗川さんに腕を組まれ、向こうに行ってしまった。腕を引かれるままに彼女はふと思った。


『‥斗川さんって、私の気持ちを知っていて弄んでいるのかしら?』



その後三日間、僕は血の滲むような特訓を受けたのだった。そして、最後の戦いが始まろうとしていた。

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