4−1 ロベリアを追う


早朝の空、さっきまで星が輝いていた世界に日の光がうっすらと照らし始める。

朝の澄んだ空気の中で愁が遠くに霞がかった街の景色を眠い目で眺めていると、アリアと、あれからエイ市支部にいるサリィがやって来て愁に微笑んだ。


挿絵近況ノートより

https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816700428671690206


「愁くんおはよう。早いのね」


前回エイ支部から出て行った彼らはその必要があったのか、というツッコミは置いといて、ロベリアと怪人には顔を見られている為普段は身を潜めながら別行動をし、こうして合流してロベリアと怪人を倒す事にしていた。


「うん。色々考えてて」


「あの事でしょ?私もそうよ」


「今までのように戦っては勝てないかもしれないから、違う戦法も考えなきゃいけないって、わかってるけど中々考えるのが難しくて‥」


そう言っていると、突然サリィが二人の間に入ってきた。


「私、昨日は一晩中アリアと一緒だったのよ」


そう言ってアリアに抱きつくサリィに、愁が何かを誤魔化すような表情をした。


「へ、へえ。そうなんだ‥」


「ちょっと、その言い方やめてったら。誤解を招くじゃない!」


「まあ、二人だったら安心だしね」


しばらくして三条が現れ、いつの間にか水池もいた。顔を合わせた彼らは話し始めた。


「一番手っ取り早いのは白絹アカナあの女をチェックすることよね」


アリアがスマホからSNSを観ながら呟いた。


「まあ、何もない事に越した事は無いが。奴らが動くまで待っていよう」


そんな彼らを照らす、街の景色が綺麗だった。そして、そんな同じ景色を見ている者が別の場所にもいたのだったー








「素敵‥まるであなたのようだわ」


アカナが高級ホテルの最上階から朝日を浴びながら、街の景色を眺め呟いた。


「それは君の方だよ、アカナ君。君にふさわしいと思って用意したこの場所もやはり君の魅力には劣るよ」


「うれしぃ、しゃちょぉーだーーい好きぃ」


二十代の女に抱きつかれた70過ぎた照屋社長は、鼻を伸ばしながら肩に手を伸ばした。アカナはすぐさまそれをかわし「朝食が冷めちゃいますわ、頂きましょう!」と朝食のならんだテーブルの方へと向かったその時、ノックもせずにドアが開いた音と共に、部屋に誰かが入ってきた。


「見つけたぞ親父、ここにいたのか」


現れた二十代の男は、照屋カンパニー社長の息子の照屋時生だった。


「あら時雄さん、ご一緒に朝食、どぉですかー?」


肩に掛けてあった羽織をブラウスから透けた体に覆うアカナにも、時雄は冷静な目で睨みつける。


「しばらく家にも帰らないと思ったら、社員に手を出した挙句このザマとは」


「あら、奥様には妻の義務を果たさせて頂いてますわ。ちゃぁーんと生存確認もしてるでしょぉ」


「ふざけるな。不要な洗濯物だけ送りつけやがって、お袋は家政婦じゃないぞ!」


そんな息子にも照屋社長は気にも留めず、飄々とした風に話かけた。


「ところで、斗川君に会ったのかね」


「ああ、今のところウィンウィンですよ、表向きは」


「あいつ、私たちに勝てると思ってイクアージョンを売りつけ来るけど、それも今の内よ。照屋社長の念願通り、この街を手に入れる事なんて夢じゃないから」


テーブルに盛られたフルーツの山からイチゴを口にしながら喋るアカナに社長は聞いた。


「どういったプランがあるのかな?」


「そりゃもう、後ろ盾があるんですよぉ」


そう言いながら部屋の奥に目を移しながら目を細めるアカナに、時生は失笑しながら背を向けて言った。


「それじゃあやってみたまえ」









「早速 彼女アカナのSNSが更新されている」


そう言って見た彼女のSNSの画像には、ホテルから見える景色と広い遊園地を背景に映っていた。


『昨夜は素敵な景色を眺めながら最高の時間を楽しんだわ。今日はここを手に入れようかしら』


「完全に匂わせてるわね」


アリアは呟くと三条が言った。


「とりあえず行くぞ」






彼らはエイ市にある遊園地に向かった。大きな観覧車にジェットコースター、園内を歩き回る着ぐるみのキャラクターにはしゃぐ大勢の人。辺りを見回しながら愁達のテンションが高くなった。


「あの絶叫マシーン乗りたいなぁー、人気あるんですよ!愁さん一緒に乗りませんか?」


「遠慮するよ。僕はああいうの苦手なんだ」


「愁くん、変華した時は速いの平気なのに、こういうのはダメなの?」


「運転と同じで自分が操作しないとね‥」


愁が苦笑いをしたその時、突然悲鳴が沸き起こった。広い園内は怪人達に囲まれ、中央広場にはディサミナージョン  ロベリアが怪人を従えて立っていた。


「うっふっふっ、死にたくなければ私に従いなさい。歯向かう者は、命の保証は無いから!」


「あの女、一応身バレはしたくないようだ」


そう大きな声で叫ぶ彼らに恐れ慄く物もいたが、これはショーなのか?と思う物も少なくなく一人の客がロベリアに怒鳴りつけた。


「どういうつもり、こんな演出。子供が泣いているでしょ、不愉快よ!!」


「うるさいわね、私に歯向かうなんて許せないわ」


「待て!!」


愁達はイクアージョンに変華した!

突如現れた彼らにロベリアはふふふっと笑った。


「思った通り釣れたわねー。だが、ここはとっくに私が占領したの。君たち、ここからどうするつもり?」


「こうしかないだろう!」


そう叫んだレイがロベリアに向けて走り、光の拳を放った!

すると、彼女の目前で立ちはだかり巨体の怪人がレイの攻撃を受けた者がいた。

その状態のまま、間に入ったロベリアはゆっくりと、レイに近づき顔の前で甘い息を吐くように囁いた。


「あなた達の事も従わせる事だってできるのよ。どう?私のアクセサリーにならない?」


「断る」


「あっそ、残念。じゃ、あとはお願いね」


そう吐き捨ててロベリアは姿を消すと、取り残された巨体の怪人は笑いながら言った。


「ふぅっふっふぅ、俺は怪人 増加オーグメント!お前らはここで終わるだぁ!!」


レイの攻撃を受けた怪人オーグメントはそう言うと、大きな蒟蒻ゼリーのような透明な体が光り輝き、レイの放った技と同じものを放出させた!


「まずい!」


このままでは周りまで巻き込む事を察知したレイは飛びずさりながら光を放って飛んできた自分の技を消滅させた。


「どっへぇええーー、いくらでもかかってきなぁ!!」


「あいつ、俺の攻撃を増幅させて跳ね返してきた!」


「だったら、物理攻撃だぁ!!!」


そう叫びながらスラッシュはオーグメント目掛けて渾身の一蹴りを放った!


「お、おらにもっと力をー!!!」


スラッシュの蹴りをまたもや体で受け止めたオーグメントは、手を伸ばすとスラッシュの体を掴み、ロケットが発射したように飛び放った。


「や、やめてくれぇえーーー!!」


巨体のオーグメントと共に高速の速さで園内を駆け回るスラッシュは、まるでジェットコースターに乗ったようなスピードと遠心力で吐きそうだった。必死で堪えながら進行方向に目をやると、目の前には子連れの家族がいた!


「このままじゃぶつかる!!」


スラッシュはオーグメントの軌道を力任せにそらすと、手から炎輪を発した!掌に炎を感じたオーグメントは思わず手を振り払い、スラッシュは彼から離れる事に成功した。

進路が変わったオーグメントは暴走したまま体から突っ込んで、建物の壁に砂煙をたてて突撃したのだった。

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