4−1 イクアージョンとイクアージョンとの戦い

ある日の午後の事だった。この日はアクセレカンパニー・エイ市支部に特に仕事依頼もなく、社内には社員一同が揃っていた。

窓から晴天の日の光が射す爽やかな時間を過ごしていると、一人の男が訪れた。


「どうも、お邪魔するよ」


流れるような長い藍色の髪に人を魅了するような切れ長の目、すらっとしたスーツ姿で現れたその男を目にし愁以外の社員が反応した。彼はそれを気にもせずにツカツカと社長の篁の方へと歩いていく。


「何か用か」


いつもは八方美人で柔らかい笑みを浮かべている三条が、いかにも厄介者が来たと言わんばかりの表情だ。愁は思わず近くにいる咲と小声で囁き合った。


「あの人、知っている人ですか?」


「彼はデイ市支部の斗川トカワミナトさんよ。実は、篁社長と祐ちゃんと彼の三人がこの会社を作ったの。だから二人と同じ位の立ち位置ポジションね」


愁には初耳の話だった。デイ支部といえば、前に会ったイクアージョン キャプチャーもそこのイクアージョンだと言っていたけど‥


いわゆる創業者の一人であるというこの人が、以前襲ってきたイクアージョンと関わりがあるというのか?という事など愁はその時は思いもしなかったが、篁と三条と斗川。三人は同い年位だろうか、揃って並ぶと男の色気を感じる。そんな斗川が口を開いた。


「実は頼みたい事があって来たんだが」


「一体何だ?いつも人の物を横取りするお前の頼みとは」


「そう言うな。俺はやられる事を恐れて社長の座から動こうとしない君とは違いいつも頑張っているのだ」


「喧嘩を売りに来たのか。だったらいつでも買うぞ」


篁の顔と口調は落ち着いていたが、斗川は何かを恐れてか冗談のつもりだったかのように口元に笑みを浮かべながら言った。


「今日はそのつもりはない。うちにきた依頼を引き受けて欲しいから来たのだ。協力を頼む」


「ちっ、そんな事ならしょうがない。詳しく話してくれ」




斗川の頼みで三条は愁と水池を連れて依頼主がいるという学校へと向かった。授業時間はとっくに終わって部活動が繰り広げられ、運動場や体育館から掛け声が飛び交っている。



「実は、彼女がずっとある男に狙われているんです」


依頼者はこの学校のテニスサークルの五人の生徒だった。狙われていると言う見た目は清純な少女アサミがいてその隣にはイケメン男子学生のミチル。その他にはミツ、タツヤ、ナオコのサークルメンバーだった。

ミチルは爽やかな顔で喋り出した。


「僕とアサミは最近付き合い出してさぁ、それをサークル内でおおやけにしてから元カレだったタツキがぱったりと参加しなくなったんだ。それからさ、アサミがサークルの帰りに何者かにつけられたり誹謗中傷のメールが来たりで嫌がらせが続いて、それで先日おたくの会社に頼んだんだ‥」


最初は彼らの依頼をデイ支部で対応していたのだった。しかしストーカー行為をしていたタツキを見つけ捕まえる為に怪人にしたまでは良かったが、イクアージョンに変華したデイ支部の連中が退治しようと戦っている途中で逃げてしまい、タツキは怪人のまま行方を眩ませたという事だった。


愁はその話を聞きながら内心、よくある仲間うちの恋愛のコジれなんて僕にとっては惚気にしか聞こえないし勝手にやってよ、と思ったが‥


「先輩、事情はどうであれ彼はまたここに来るでしょうか」


愁は三条に顔を近づけると彼らに聞こえないように小声で言った。


「まあ、それを見越しても彼は俺たちの姿を見てまた逃げるかもしれないが‥‥」


二人がそう言い合っているとサークル仲間のミツとナオコは不安そうなアサミに優しく声をかけた。


「大丈夫よ。私たちはアサミのそばにいるから安心して」


その光景を目にし三条はふと考えると、ミチルとアサミに話しかけた


「二人にはお願いがあるのですが」




その後彼らはいつも通り部活動をやった。

部活を終えた頃には辺りは既に夕暮れになり、アサミは一人更衣室で着替えた。

彼女が帰宅しようと更衣室を出たその時、自分以外は誰もいない静かな校内からギ、ギギという異音が響いた。


「何‥‥何なの?」


アサミの声で突然夕闇の廊下に映し出された影。それが動き出すと徐々に「怪人タツキ」の姿が現れた。


「きゃあぁあー!」


アサミはその醜怪な姿に思わず叫び声を上げ、手にしたスマホを震える指で動かした。やっとの事で繋がると、その先に必死になって訴えた。


「彼が来たの!助けて!!」


「サワグンジャネェ、サワグンジャネェヨ!!!」


怪人タツキが片言を喋りながらアサミの方に歩いて来る。愁と三条が駆けつけると三条は怪人タツキに言った。


「今この娘に何もしないならそれで済むが、もし傷つけたらこれからの君に暗い影を落とす事になるぞ」


「ダマレ、俺ノ気モ知ラナイデ!」


「いや、君の気持ちは解る」


そう言った三条の言葉も通じず怪人は奇声を上げた。


「ギョェワァアァアーーー!!!」


怪人タツキがアサミに突進しながら襲いかかったその時、アサミの全身が光った!

使い捨てイクアージョンで変華したアサミは怪人の爪で胸を打たれたが無傷で済み、更に駆けつけたミチルがイクアージョンに変華した。


「テメェえ!アサミを傷つけたら承知しねぇぞ!!」


イクアージョン ミチルは怪人タツキに掴みかかり殴る蹴るを繰り返すとタツキは隙を見つけ逃走した。


「待て」


ミチルはタツキを追って校舎を出た。テニスコートもあるグラウンドには部活の仲間と、その先を遮るようにイクアージョン ディメンションが立っていた。


怪人タツキは突然体の自由が効かなくなると一瞬のうちにディメンションの世界へと入りこんだ。



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