6−2
「おい、彼女と待ち合わせしてんだろ?行かなくていいのか」
深夜、芽絵の家の前に集まった四人の男達はそこに居るヤスシに言うと、彼は口に加えた煙草にライターの火を付けながら言った。
「へっ、あんなわがまま女。あいつの要望に答えるのはもう飽き飽きだ。‥だが、この家の金が入ればこれで終わる」
そして彼らは小声で「行くぞ」と合図すると、芽絵の家に向かった。
暗闇の中、二階の寝室に居た芽絵の母親は異様な物音に気が付いて目を覚ました。彼女は部屋を出て階段を降りると、暗闇の部屋の中で見知らぬ者たちに出会わした。
「だ、誰か!」
芽絵の母親は三人の男達に囲まれ刃物を突きつけられたその時、暗かった部屋に灯りがついて、芽絵の弟がそこに居た。
「前から姉さんに近づいた男が怪しいと思ってたら、やっぱり金目当てに現れたか」
三条と愁、アリアも駆けつけた。三人は《イコール》するように変華すると、イクアージョン レイとラナンキュラス、襲った男達は泥のような怪人へと姿を変えた。
レイはラナンキュラスに言った。
「頼む。安全な場所に連れ出してくれ」
ラナンキュラスが芽絵の母親と弟を移動させると、怪人は叫んだ。
「その通り、あいつはここに金があると聞いて来た。金が無理ならこの家を汚しまくって金目のものを奪い尽くす!!」
「それは困る。請求書がくるから辞めてくれ」
イクアージョン レイは部屋の周囲を光線の囲い《エンクロージャー》を張り、光が飛び交うように攻撃した。怪人はその中で囲いの壁に触れるたびにダメージを受けた。
狭い空間で撃たれた怪人達は次々と家の外に逃げだすと、それ迄隠れていたスラッシュが彼らの前に飛び出した。
「邪魔だ、どけ!!」
怪人は口から吐き出した汚泥で何度も攻撃し、スラッシュを近づけないようにした。それをかわし、ジャンプしながら壁に沿って足を擦った。足先から炎が発生し、蹴り上げると空中で炎が円を描いた炎輪が怪人達に向かってヒットし、次々ととどめを刺していった。
一方、ヤスシは一人こっそりと逃げ出していた。夜の道を走りながら口元に笑みを浮かべていたその時、目の前に芽絵と、その向こうにいるのかいないのか解らない感じでイクアージョン ディメンションが道の端にいた。
「ヤス先輩、一体どう言う事‥‥?」
「芽絵、いたのか。丁度迎えに行くところだったんだ」
「その人って、この人の事?」
そう言って芽絵が見せたスマホには、ヤスシと一緒に別の女性と子供の写真が写っていた。
「先輩‥家族いたの?全部嘘だったの?お母様が病気だって事も」
「違うよ、妻とは別れるつもりだったんだ。信じてくれ‥‥」
そう言い繕いながら後ろに凶器を忍ばせたヤスシ。近づいた芽絵に一気に襲いかかった瞬間、
ディメンションの光が放った。
空は淡い赤紫の空が広がり、幾重ものモンスターが飛び交うダンジョンの中にヤスシはいた。数あるキャラから選択された彼はイケメン剣士。この世界の難解な道を通ればクリア出来る。
「ふん、こんなの楽勝さ。さっさと片付けよう」
ヤスシにとってはゲームは得意中の得意でまさにここは夢の世界である。向かって来た大きな鳥を彼は颯爽と切り裂こうとした。
が、動かない。何故?と思いきや彼の意思とは裏腹に、一歩ずつぎこちなく動き出した。何でだ!?
「あ、これ動かしてるの芽絵さんだから。ちゃんと君が指示してね」
ゲームの世界に閉じ込められた彼は自分の力では動く事が出来ず、操作している芽絵でないと作動しないキャラクターになっていたのだった。それを知ったヤスシは顔面蒼白になった。
「右、右右左よけろ、飛べ、違う違う、違うそうじゃない!」
「こんなの解んない、解んないよ!!」
ダンジョンの美形キャラは芽絵の手によってなりふり構わず剣を縦横に振り回して無造作に敵を倒し、急にスキップしたり匍匐前進したり、しまいには絶壁の細い道を器用に後ろ向きで渡ろうとする!
「芽絵てぇえめぇえ!!真面目にやれぇええ!!」
「ぇえ?なぁあーにぃいいーーーー??」
ヤスシは解っていた。芽絵はワザとやっている。操られるまま四方から来る敵にやられ続けダンジョンを踏み外して何度も落ち、ついにヤスシはゲームオーバーで幕を閉じた。
「よくやった。おつかれさん」
仕事が片付いた彼らは帰ろうとしたその時だった。アリアは斗川の声を聞いた。
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