三章

街を守る戦い・1

(篁の語りでお送りします)



「三条、敵に簡単に捕らえられた挙句奴らに加担するとは。お前の愚行は我が社の末代まで知れ渡るだろう」


祐卦(三条)と共に他の仲間の元に戻って来た俺たちは湊(斗川)と顔を合うとすぐさま彼の召集が始まり、三人会議という名の根性ヤキが始まった。


挿絵(近況ノートより)https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816927860422862785


「その事は悪かったと思っている。しかし照屋社長とアカナという女を倒したんだから結果的には良かったじゃないか」


言い訳がましく笑う祐卦に湊はため息を吐いて首を振った。


「まったく、お前達のような奴らに妹を取られた俺はつくづく不幸な男だ。今後、咲に変わって俺が三条おまえの尻を叩いてやらねばならない」


「勘弁してくれ。仕事に来てまで(まだ結婚もしていないが)小姑と姉婿にいびられるのは御免だ!そもそも俺は葉也あの子を探そうと思ってあの場所に行ったんだ」


その言葉で俺は祐卦の方を向いた。


「あの場所に葉也は居なかったが‥今は時生の所に居るのだろうか?」


「解らん。しかし俺は葉也の力を受けたが、人外を超えた力と共に不快な感情が続いていた。あれはあの子の感情だったのか」


そう言われ俺は葉也が気がかりで心配になった。彼は今どこに居るのか?


『何としても葉也を救い出さなくては‥』




その後俺は一人になると外に出て街の並木道を歩いた。景色を眺めながら上から差し込む木漏れ日を受けるとここは沙葉とよく歩いた場所だったと思い出し、日の光に照らされる彼女の顔を思い浮かべた。


事故に会って寝台の上で過ごす日々を余儀なくされた砂葉は体の痛みと衰えに毎日苦しんでいた。医者の力で持ってしてもどうにかさせようなどと考えるのは駄目な事とは承知しているが、俺は彼女が自由に動き回る事を夢見ているのだと思い様々な最新の医療に縋り検索しようとした。

しかし沙葉はそれを要求せず、俺たちが自分の事で辛くならずただ一緒に居て欲しいと願ったのだった。


そんな沙葉に俺はイクアージョンが効果があるのでは無いかと考えそれを彼女に使った。一時の間でも動く事ができ少しの間、穏やかな時間を過ごした。しかしあの時、イクアージョンを身にしていたと過信していたが為に戦いに出て、彼女から目を離した事が裏目に出た。


たった一度の過ちで彼女の命を落とす結果になったのは俺の責任である。

彼女を失った哀しみはずっと続いていたが、今思えば一緒に笑っていた時間は短い間だったが幸せだった。その気持ちは湊や妹である咲ちゃん達も同じだろう。

あの頃には戻らない、しかし今は葉也がいる。彼を大事にしなければ‥



すると、俺は誰かの視線を感じその方向を向いた。

向こうから俺を見ていたのは沙葉に似た目と口元、それでいて自分と似た面持ちの小さな男の子。


「君は、まさか葉也か!?」


俺は思わず声を上げた。息子の成長と共に自分も歳を取るというが今はそんな感傷に浸っている余裕は無かった。


‥彼は俺の元に帰ってきたのか?そんな親の気持ちも知らず、この幼い息子は残酷な現実を突きつけてきた。


「クソ親父、ぶっころす」


久しぶりに会った葉也は上から目線ですっかり可愛げが無くなっていた。目の前で怪人になると俺も反射的にストロークに姿を変えた。


イボーグとなった葉也は突然俺に跳びかかり片足を上げ、強烈な膝蹴りを受けた。


「待て、葉也!」


イボーグは俺の言う事など聞く耳も持たず肘打ちやアッパー、かかと落とし等次から次へと討ちつけてきた。

こっちは無理して動いただけで体の節々がキツイのにこいつときたら若さに興じて機敏に動き回った挙句、力任せに攻撃をしてくる。そんな彼に俺は上半身を旋回させて大気の畝りを作り、それをイボーグに向けて放つとその気流に呑まれ彼は一気に弾け飛んだ。


「お前、俺の事を息子とか言いながらやっぱり暴力で解決するんだ」


動きを一封されたイボーグは思い通りに事が進まなかった事に対し俺に反感を持つように罵った。


「違う、俺はお前を救う為に倒すんだ」


「うるさい!」


そう言ってイボーグは空を背景に背にしたブースターを吹き下がり空に浮き上がると、再び自分に向けて突っ込んできた。


天井から加速しながら急降下してきたイボーグが俺の頭上に来た時、ビームが光り輝いたと同時に俺は衝撃波動を放った。互いの攻撃が炸裂し大きな衝撃音が響いた後イボーグは再び飛び立ち、広い空を乱飛行した。そして旋回しながら俺を狙い何度もビームを打ち込んでくる。


まるで狂ったようなイボーグの攻撃を避けつつ彼を追いながら俺は言った。


「葉也、頼むから俺と話し合ってくれ」


「黙れ、そんな言葉信じるか‥お前なんか消えちまえ!」


「俺はただ、お前を普通の子に戻したいだけだ」


「そもそもお前があんな物を作らなけりゃこうならなかったんだろが!そうすればあの時さっさと死ねたのによ!」


「そんな事を言うな。俺なんかガタガタで寧ろ何も良い事は無い。それに比べればお前はまだ若いんだぞ」


そう言ったが彼は頭を抱え、振り絞るように言葉を出した。


「俺は‥あの場所に居たって、生きていても辛いんだ」


そうだったんだ。怪人となった葉也は今の彼自身の心の叫びだったんだ。俺はこう言った。


「お前には俺が居る。葉也、今まで悪かった」


そう言って手を差し出そうとすると、湊がやって来た。


「葉也じゃないか!」


驚く湊に俺は言った。


「湊、葉也の事は俺に任せてくれないか」


「お前に任せていたら未来永劫、葉也は戻って来ないぞ!」


そう叫びながら湊は焦るようにアノメイオスに変華するとイボーグの方へと向かった。その時、


「ぐっ!!」


突然俺とアノメイオスは何かの攻撃を受けた。二人とも地に突っ伏したまま何があったのか解らず空を見上げると、天井に異次元の穴を開き、その真下に照屋時生が立っていた。


「親子の再会はそれまでだ」


俺はこの男を睨み据えながらイボーグに言った。


「葉也、お前にやられるつもりだったがそうはいかなくなった」


照屋時生は前に会った時は何処かの会社社長の息子という感じだったが、目の前の彼は一国を制しようとする独裁者のような雰囲気を醸し出していた。彼は俺のことを無視しアノメイオスとなった湊に野望に満ちた目を向けた。


「斗川君、君は同じ志を目指していたじゃないか。以前のように仲間となって共に倒そうではないか?」


「俺は悪意には加担しない。今は貴様らの創ったディサミナージョンをぶっ潰す、ただそれだけだ」


アノメイオスから拒絶の言葉を受けても時生は平然とした顔で笑った。


「別に構わないよ。それ以上の力を手に入れたのだから‥さあ来るんだ」


時生はイボーグに手招きをすると彼は吸い込まれるように向かって行った。


「葉也を連れて行くな!!」


そう叫びながら手を伸ばそうとしたイボーグは、異次元の中に同化した。

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