街を守る戦い4−1
目を覚ましたイボーグは《核》の中で身震いしながら動き出すと異次元の殻を引き破り、大気が響くような雄叫びを上げた。
「ウゥウウゥォオオオーー!!」
それまで怪人だった自身の体は一つ目と手足だったものが肥大化していく。巨大な眼球へと姿を変えたイボーグに、伸びた手足が爪の型(プロング)となって四方に取り囲み、さらに背後から左右両肩に銃砲が取り付けられていた。
「少年よ、奴らに裁きを与える時が来た!」
その声でイボーグの両肩部分の銃口から稲妻のような光が輝き、照屋時生を囲んでいたイクアージョン達は上空から降り注ぐビーム連射で散らばった。
(レイ)「葉也をただ捕まえるだけなんて無理なようだ」
「その前に叩っ斬る!」
アノメイオスがイボーグに切り裂く風を放つと、イボーグの四つの
アノメイオスの風が己に巻き付かれてしまい、そこにストロークが波動を放つ。
異次元の台風は空中で乱気流となり、そこへイボーグがビームを乱攻撃した。レイが光のシールドを貼って塞ぐがそのつど破壊され、次から次へとくる異次元の台風とビーム攻撃に彼らは身動きが取れなかった。
「僕たちがあれを何とかしないと!」
三人の攻防を見ながら鶫がそう言った時、
「君たち」
ディメンションに乗っ取られた屍ディスペラージョンが言葉を放った。
「イクアージョンは彼らへの攻撃が有効になるように改良してある。あの目玉もゲージさえ奪えば元に戻る筈、僕も可能な限り彼のゲージを下げていくから」
そう言うや否や、イボーグから異次元のハリケーンが吹き荒れディスペラージョンに取り憑いたデイメンションはそれに巻き込まれながら宙を舞い、照射されたビームに撃たれ破壊された。
「あいつ、
不安な顔で言ったジニアとディメンジョン、アイリスが遠くからその模様を見守っていた‥
「目ん玉が相手なんて初めての事だが、今のうちやっちまおう」
そう言ったウルフに鶫は言った。
「うん。先輩達が抑えているうちに」
とにかく、勝てる気がしないけど僅かでもダメージを与えられれば‥鶫がそう思っているうちに
「オメェらに悪いが俺は先に行く。後は頼んだぜ!」
単独でイボーグに向かったイクアージョンウルフは先陣を切って飛び出した。
イボーグの前に躍り出たウルフは牙の如く引っ裂くように腕を振り上げ、一閃した。
一つ目の
「納矢さん!」
ビームを撃たれたウルフは弾け、そのまま落ちていった。
「冗談じゃない。あんなのが相手なんて聞いていねぇし!」
それを見て、恐れを抱いたグリッドが不平を言い出した。
「俺にとって戦いは只のゲームだ!それを必死になるなんて俺はそんな事はしねぇ!!」
「針原君、こんな時に何言っているのよ」
ラナンキュラスがそんなグリッドにドン引きしていると、
「確かに、お前の言う事は尤もだ」
とキャプチャーが言った。
「そう言ってお前は俺に甘えていただけなんだろう。まあどうでもいいが」
そう言われて黙っているグリッドを後にした鶫、キャプチャー、ラナンキュラスはイボーグの元へ行き対峙した。
「お前!!」
唖然としたキャプチャーを尻目にグリッドは砂の中で競り上がりながらイボーグの二つ目の
「イェーェイ!!」
破壊しながらそれを引き揚げた瞬間、銃砲から照射されたビームに射抜かれたグリッドはそのまま落ちていくと、すかさずキャプチャーは斧を奮った。
「はぁああ!」
斧を取り付けた
イボーグの周囲をレーザーが飛び交う中、鶫がかわしながら飛んでいく。
「いけぇ!」
キャプチャーの反対側からイボーグを狙って放った炎輪が四つ目の
「ぅぎゃあああー!!」
四つの
異次元を発する
「それで終焉にさせるつもりか?俺は納得していない!」
「ぅっぐぁあああーー!!!」
照屋時生の力で異次元に縛られていくイボーグは叫びながらキャプチャーを射抜くと、撃たれたキャプチャーは倒れたウルフ、グリッドと共に気絶したまま元の姿に戻った。
暴走するイボーグをラナンキュラスが銃を撃つ。
被弾していくイボーグから発せられた異次元の竜巻がラナンキュラスを襲い、彼女を取り囲んだ。
「あぁーっ‥!」
ラナンキュラスは押しつぶそうとする渦の中で踠いた。
「アリア!!」
鶫はラナンキュラスを引き離そうと
渦の中から離れたラナンキュラスを救い出すとイボーグからビームが照射された。
彼女を庇うように背で受けた鶫は地に突っ伏し、元の姿に戻った。
「愁くん‥そんな、目を覚まして!」
ラナンキュラスの声でかろうじて意識を取り戻した愁は身動きが出来なかった。
必死で目を開けると、ラナンキュラスはイボーグの目を相手に銃を向けていた。
『‥アリア、駄目だ!』
ラナンキュラスがビームを狙って撃ったと同時に彼女は撃たれ、愁の前で元の姿に戻ったまま気を失った。
レイ、ストローク、アノメイオスは狂走するイボーグを見ながら言った。
「あいつの異次元を自ら飲み込んで貰う」
「付きあおう」
そう言ったレイが続けて言った。
「しかし男三人が葉也をあやせるか」
「水ちゃん」
アイリスはディメンションと顔を見合わせ、頷くとジニアに言った。
「サリィちゃんは見つからないところに隠れてて」
アイリスの落ち着いた声で言われたジニアは思わず首を振った。
「駄目よ。いくら私が弱いからって、それは出来ない。私もみんなと戦うわ!」
首を振って拒否するジニアにディメンションとアイリスは何かを伝えた。
「見つけたぞ‥お前を先に片付ける!」
そのディメンションを見つけ出したイボーグが上空から近づいて来るとアイリスが前に出た。
「葉ちゃん」
アイリスは優しく言った。
「こっち戻ろう。皆んな待ってるわよ」
「行かない!」
イボーグは駄々をこねるように叫んだ。
「お前達は既に俺の手の中にあるんだ。俺が手を出せば一撃、終わりなんだ!」
「それでその怪人のままでずっと居るのかい」
「黙れ、俺はお前達がやった事と同じようにするだけだ!」
イボーグが異次元を放出した。
そこに居た全員がそれを受けると、同時にモノローグが始まった。
『馴染めない子って居るのね‥』
葉也は怪人になってから自分を育ててくれた親類との間に溝が出来てしまった。
頻繁にアカナの所へ行き怪人になっていた葉也。親類達は幾度となく遅くなって帰って来る彼に、本当はここに帰りたく無いのだと思われてしまい、互いに態度に出るようになってきた。
『何も出来ないくせにそんな生意気な態度。いいか、お前の出方しだいでどうとでも出来るんだ!』
葉也はその都度大人に言われた言葉が突き刺さり、こんな風になってしまった父を憎んだ。
「俺はこれからも一人で生きるんだ。その為に強くなった。だから、僕は‥お前達を倒す!!」
叫んだイボーグへ向けてアイリスが淡い光を放った。
アイリスの光を浴び、自身を取り戻したイボーグが球体の中で頭を抱えながら苦しむ。
しかし自信を操る事が出来なくなってしまった彼は乱攻撃をし始め、ディメンションとアイリスはイボーグの攻撃を受けて元の姿になって倒れた。
「お前の気持ちは解る。が、手を出したら終わりだ」
倒れた咲を目にしレイは怒り泣くように光の攻撃を次々と放った。
最後の銃砲を破壊し、球体のイボーグにトドメを刺した。
球体のイボーグは破壊され、それと同時に異次元が暴発するとそれを受けたレイは落ちていった。
「このまま非道の存在と成り果てるのか!」
崩壊し広がっていく異次元にアノメイオスが擬音を鳴らせて気流を放った。
異次元は彼の狂気の風で己を吸い込み、それと同時にアノメイオスも砕ける。そこへすかさずストロークの一撃で異次元は烈破した。
すかさずストロークは波動の渦の中の幼い子供に向けて飛び込んだ。
「葉也!!!」
異次元の中を突っ切ったストロークは葉也を抱き抱えると、その中で元の姿に戻っていった。
イボーグは倒した。しかし、みんなも動かなくなってしまった。
今まであったものが、こんなに簡単に無くなってしまうなんて‥
でも、今の自分ではもう何も出来ない‥
蹲ったまま、愁の目から涙が止まらなかった。
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