街を守る戦い−3

三日目、街を仰ぐと靄がかったような空が広がりこれから始まる出来事を予測するかのように不穏な空気を感じていた。

その仄暗い空に照屋時生の異次元で出来た殻の中に閉じ込められた人型の怪人が黒い星のように再び顔を出した。


「少年よ、君は社長の息子として生まれたという所では私とよく似ているよ」


空に大気が呼吸をするかのような音をたて、照屋時生は眠るように動かない、核となったイボーグを小高い丘から眺め、語り出した。


「私はそのせいで付き纏う様々な悪意を目にしてきたよ。金と力で抑制し色と欲で陥れる者。そんな奴らを相手にし苦渋を浮かべる親父の顔を‥

そう、親父が姿を変えられる防御装置、イクアージョンという物を持ってきた時が全ての始まりだ。親父は悪いと思いつつも斗川から譲り受けたそれを改造し創り出したディサミナージョンを会社に忍び寄る悪の為に使った。最初はそれだけの為に使っていたが、これをもっと有効利用出来るのではないかと思うようになり、それを売り捌いて街に広めた。そして我々は君の父親と対立する事になった。


だが彼はこれだけでは飽きたらず、湧き起こる悪の感情に満たされ‥もはや抑制させようとも抑える事ができなかった。


時生の顔は頬骨が尖り凶相であるにも気づかず、確信を得たかのような不気味な笑いに変わっていく。


「私はどの社員やディサミナージョンよりも優れた逸材である君を救う事が出来る唯一の存在だ。私の忠実な部下となれば君を苦しめてきた社会から抜け出せる事が出来るだろう‥共にこの世に運びる力を力で防ぎ、抗う者を抹消しようではないか!」



そう叫んだと共に辺りが輝くと、彼は目を見開いた。

時生が思ったものとは予想外の光景が目前に広がったのである!



靄に幾つもの人影が映し出されると雲海の上に突き出る塔に立つかのように、聳え立つビルの上に無数のイクアージョンが現れたのだ。


イクアージョンストロークを始め、レイ、アノメイオス、スラッシュ、ディメンション、ラナンキュラス、キャプチャー、グリッド、ウルフ、ジニア、アイリス、その他アクセラーカンパニーの研修生達が変華し、ディメンションの能力と融合してイボーグの核の周りから自分たちが立っているビルの頂上までをフィールドにイクアージョンの結界を創り出したのだった。


先頭に立つストロークが照屋時生と仲間に響くように声を発した。


「我らイクアージョンは人外兵器ディスペラージョンと相対し我が子を救う為に此処に集結した。既に俺たちの力を超えたお前達を倒すことは至難の技であろう。しかしそれによって惨劇を及ぼしては何の為のイクアージョンか。我々はそれを回避する力を使い、街を守る戦いを始める」


そんなストロークの戯言を聞いた時生は思わず失笑するかのように言った。


「ふっ、既に核は我が手にある。既に弱体化したお前達にとって変わって我らが兵士ディスペラージョンが葬ってやろう。

これより我が勝利の戦い、破壊ディストラクションの始まりだ!」




(ここから愁の語り)

空に浮かぶ黒い核から圧倒されるような気流と照射する光が散乱した。怒号の如き音と共に今居るビルの上から飛び立つと、僕たちはイボーグの核の周辺から雲海までの異次元空間の中での戦いが始まった!



光の数だけ現れたディスペラージョンは揃ってマグマを撃とち放った。

ドゴォアァアー!!


それと同時に彼らに一斉に山のような砂に投げつけられた!

グリッドの砂の塊をぶつけられ砂塗になり、更に己の熱で砂動きが鈍くなったディスペラージョン達に一斉に攻撃が始まった!


僕はディスペラージョンの群れの中を鳥のように飛び、彼らの攻撃をかわしながら去りぎわに炎輪を投げつけ、その後方からラナンキュラスがアノメイオスの能力を封じ込めた弾を使い確実にヒットしていく。

バン、バンと音を立てながら壊れる音が響き渡る中、照屋時生が僕たちの戦いを見ながら声を上げた。


「足掻くがいい。貴様等は我が兵士を前に、ただの一兵卒として葬られよ!」


「愁、ああ言っているが自分の特性を活かせば勝ち目はある。ただ、決してやられるな」


そう言ってレイは向こうへ行った。


そう、今まで通り戦っては到底勝ち目は無い事は既に承知している。しかし前に戦った時を教訓に攻撃力やダメージを推測しそれに勝てるように僕たちは色々考えたんだ。

三条さん達から特訓を受けたおかげでディスペラージョンの速さに追いつけ、動きを読む事が出来た。



「べらんめえ、すっとこどっこいをとっとと片付けるぜ」


この戦いで久しぶりに会ったイクアージョン ウルフが吐き捨てるように言うと、キャプチャーが背中の斧と保護銃ネットガンを構えた。

ディスペラージョンに戦いを挑んだ二人は共に向こう岸に撃った保護銃で撃った網をビルの頂上に貼り、それを一気に引くとディサミナージョンの横を突っ切った。

ビルとビルの間を一瞬で渡りながら通り過ぎざまに 一線状に走ったウルフの牙と斧がディスペラージョンに直撃した。

そこへ地表から砂が吹き出し、現れたグリッドは掲げた触手をディスペラージョンに突き刺した。


「シャオウト!」


ディスペラージョンのゲージは奪う事は出来なかったが、とどめは刺す事が出来た。

僕とラナンキュラスが先制攻撃をしながらウルフとキャプチャーからダメージを与えていき、それを受けたディスペラージョンはグリッドがトドメを刺していく。すると突然グリッドの横に、さっき自分が倒したディスペラージョンが立ち上がった。


「オワァッ!?」


動き出したディスペラージョンは襲い掛かってきたディスペラージョンに攻撃している!片方は倒され、倒した方のディスペラージョンが死霊のように声を発した。


「僕だよ僕‥彼らの残骸の使えそうなのを乗っ取ったんだ」


「水池君、紛らわしいから解るようにしといてよ!」



それでもまた別のディスペラージョンが現れると僕達は立ち向かった。

僕は次から次へと繰り広げられる戦いに次第にうんざりした。こんな事を言ったらまた三条さんやアリアに甘いと怒られてしょっぱい奴だと思われるかもしれないけど、多分社長だって本当は柔軟に対応したいであろう。けど、相手は必ず勝てると思って強気で打ち負かそうとしてくる。

‥だけど、僕たちもやられたら終わりだ。負けるわけにはいかない!


僕はビルを跳ぶと空中でディスペラージョンと何度も打ち合った。


ディスペラージョンの足が飛んで来ると至近距離で|大きな炎の輪をディスペラージョンに撃ちつけた。


ビルの上に降りた僕にディスペラージョンはマグマを撃ち放つ。僕は見据えると、加速しながら炎嘴ファイヤービーストを降らせ、その中に突込んだ!


「くぁああぁあ!!」


僕はマグマに衝突すると辺りに溶熱が飛び散る。そのまま僕は一直線に直撃するとディスペラージョンは貫かれ、溶熱の中で壊れながら起動を停止した。




「終わったぜぇい!」


辺りに残骸が漂う。

グリッドはディスペラージョンを全て打ち破ったと確認し喜びの声を上げた。


しかしそれも束の間、イボーグの核から再び放射状の光が放たれた。


再びディスペラージョンが現れるとグリッドは頭を抱えて座り込み、一瞬の沈黙の後、呻いた。


「なんだと‥また出て来やがったのか?」


「ああ」


自分の視界にディスペラージョンが居る事に対し、現実が受け入れられないといったグリッドにキャプチャーは子供をあやすように相槌をうっていた。


「‥これで全部だと思ってたのに、終わりじゃないのか‥」


「そうだな、まだだ」


「これからクライマックスまでを正座しながら拝もうと思ってたのに‥出来ないじゃないかよぉお!!」



『うるせぇー』


喚き立てるグリッドにキャプチャーは睨むように見ているようだった。

矢継ぎ早に現れるディスペラージョンを倒しながら、ストロークがレイやアノメイオスに言った。


「このままでは埒が明かない。何とかしなければ」


僕たちは焦った。このままディスペラージョンを全滅させてもまた第三波や四波が来るのでは無いかと危惧したのだ。今はまだ誰も危険な目に遭ってはいないが、数だけで計上して安心し、何度もクリアしていってもいずれは飛び火して誰かに身の粉が降ってくるかもしれない、無事では済まなくなるかもしれないと‥


「こうなったらの処に行くしか無い。愁、行くぞ!」


僕はレイの後について跳び立った。

光を追うように駆け抜けるように飛ぶ僕は体に稲妻を迸らせながら向かってくるディスペラージョンを前に加速しながら炎輪を掠めていく。僅かでもダメージを与えた所でレイが光の剣レーザースォードで縦割りに次々と斬っていった。


そこへストロークの波動に乗って砂を巻き込み舞い上げた。

怒涛のようにその場に居るディスペラージョン全てを撃ち、さらに気流と共にディスペラージョンに向かい彼らの横を通過していったアノメイオスは裂くような攻撃で破壊していき、残骸を築いていった。


レイと僕は照屋時生の居る丘に辿り着き、続いてストロークとアノメイオスも彼を挟んで小高い丘に降り立った。


イクアージョン達に囲まれたアノメイオスが時生に言った。


「次は葉也か、それともお前か何方かを選べ」


「ほざくな、同じ狢の穴のくせに」


時生がそう言い笑うと、異次元の空にイボーグの目が開いた。

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