4−2

「‥もう、僕には何もできない」


イクアージョンのゲージも切れてしまった今、僕達はこのフィールドの中でこのままフェイドアウトして消えていくのか‥

光を失ったイクアージョンを握りしめ、気を失ったままのアリアの顔を見ながら絶望的な表情でうなだれていた時だった。僕の視界に突然人影が覆われた。


『はっ!』


見上げるとそこにはディサミナージョンが立っている。


『‥‥‥!!!』


思わず息を飲んだ。無気力な僕の顔を見ているのはまぎれもなく照屋時生。亜鉛色をしたディサミナージョンはこの人が纏ったというだけでまるで異様なオーラを醸し出し、自分が怪人になった時よりも圧倒的な恐怖を感じた。

‥‥それでもこの人、こんな姿をしているけど今まで戦っているのは見た事が無いし、ただディサミナージョンという鎧を纏っているだけなのではないか?

イボーグも居なくなった今、彼一人が残ったところで何が出来るのだ?

‥話せば解ってくれるのでは?と微かな期待を抱きつつ、駄目もとで言ってみた。


「もう戦いはおわったんですよね‥だったらもう辞めましょう」


「ん?これからだぞ。今から異次元を立て直すのにやるべき事は山ほどある。今度は私があの少年に変わってより強力な力となる為のな」



解ってた。僕一人で説得してみても絶対無理だって‥更に彼は続ける。


「アクセレカンパニーはもう終わったのだぞ。イクアージョンもあの少年も、闇の戦いで葬り去られた者として消えるのみ。お前にはもう選択肢はない。まずはお前のイクアージョンを出せ。そしてこれからは勝者の為に働くのだ」


聞いていて段々腹が立ってきた。今まで必死に戦っていた仲間やイボーグはこいつの踏み台のように扱われるなんて。討伐されたディスペラージョンですら哀れに感じる‥


「これはあなたのような奴に渡すつもりはないし、動くつもりもありません」


手を伸ばして近づいてくる彼に思わずアリアを庇うように防ぐと、彼は呆れ声に変わった。


「お前も奴らと同じか。上に逆らうものなど必要ない、消えるがいい」


そう言って近づいた時生は僕の手にしていたイクアージョンを奪い、アリアを抱えたまま逃げようとする僕に手を振り上げた。

耳元から大きな衝撃を受け、一瞬で蹴り飛ばされた僕はアリアを抱きしめたまま思いっきり宙に飛んだ。


「わはははは!」


弾き飛ばされた僕はスローモーションの中で思った。普通の少年漫画なら壁に激突しても平気だけど、僕がこのままアスファルトの地面にぶつかったら無茶苦茶痛いだろ‥と、そう思いながらアリア、ごめん‥と心の中で詫びた。

衝撃が走る瞬間、僕達は時生の視界から一瞬だけ消えた。



「愁さん、愁さん‥!」


やんわりとした感触で掴まれ、そのまま地にスライドした僕を見ていたのはジニアだった。


「サ、サリィ!?」


「セーフセーフ、間に合ったわ」


ビルを渡ってやってきた彼女はイクアージョンに変華しているだけに軽い身のこなしで僕とアリアを受け止めると、自分は照屋時生に見つからないように身をかがめた状態で僕にイクアージョンを差し出した。



「はい、イクアージョン持って来たわよ」


「そんなもの受け取っても無理だよ‥もう、だれも変華できない」


諦めの顔をする僕に彼女は予想外の言葉を発した。


「咲さんと水池君みずっちが言ってたの。三条さんに言われて姿してあるって。回復するにはちょっとかかるけど‥」


えっ!?イボーグの威力もあったけど、どうりであっけなくやられたと思った‥


「じ、じゃあ」


「あわよくば私が行こうと思っていたんだからね!命運は君にかかっているんだから!アリア達は私に任せて、頼んだわよ!」




そう言われ僕は意を決するように走った。


『僕は‥皆んなと街を守る!』


照屋時生は空に異次元を作り出していた。再び彼の前に立った僕は見据えるように言った。


「待ってください」


「なんだ」


「僕は‥あなたと戦います」


そう言ってイクアージョンを手に握ると、彼の声色が変わった。


「君の持っているそれを頂こう」


「そもそも、あなたはこれで何をするつもりです」


「私の欲しいのは権力。家族と会社の為、全てを意のままにできる力を持つ事だ」


「‥イクアージョンはそういう事に使う物じゃない」


「そうかな?お前の会社に居る斗川も己の悪を倒したいという欲望で俺たちに近づきイクアージョンをばら撒いたのが始まりだ。


更に人を怪人になぞ変えるイクアージョン自体も欲望ではないか。それ以外、何も無い!!」


「いいや、ある」


斗川さんがどうとかなんて今はどうでもいい、そう思いながら僕はイクアージョンを胸に翳し叫んだ。


「お前のような奴を倒す為だ!」


全身に花を身に纏い赤いイクアージョンスラッシュに変華すると時生のディサミナージョンは闇のように変色していく。


「俺と対決するのにまさかのそれか。そんな姿では一生勝てまい。

戦いにも、現実社会にもな!」



亜鉛色だった時生のディサミナージョンは一変してホワイトゴールドの渋い白金の光を放った。


「私の名は時生タイムオブバース。一番最初に葬られる事を名誉と思え!」


僕はディサミナージョン 時生タイムオブバースと全てをかけた戦いを始めた。



僕は炎輪をタイムオブバースに投げると彼は高らかに笑った。


燃え上がった炎から増幅オーグメントさせて竜巻を作ると、数倍返しの力が跳ね返ってきた。

更に熱の中から一本の刀を手に取ると、怯んだ僕を斬りつける。



‥これじゃ初めてディスペラージョンと戦った時と同じじゃないか。

やっぱり僕の力では駄目なのか?


僕はどうにか勝てる方法を必死で考えた。


「むっ!?」


そうだ、皆んなの力をパクった、もとい借りるんだ!そう思い念じると、僕は勢いだけで空を駆けた。


僕の炎から火の粉が砂のように吹き荒れると、タイムオブバースはアリ地獄の渦のような炎の穴に立っている。彼の足場を火炎が舞うと、僕はあがくように叫んだ。


「がぁあぁあ!」


僕は一撃の蹴りを放った!しかし彼は腕を一振るいし、全て吹き飛ばすと猛突進でやって来る!


「こざかしぃい!!」


僕は今度は逃げるように飛びながら追ってくる彼に炎の空間を作り出した。

タイムオブバースもその回廊に突入すると、次元の世界で同じような画面にリフレインし続ける音楽、この中で彷徨う彼に僕は炎の嘴ファイヤービークを形作る。


「無駄だと言っているだろうがぁあ!!」


タイムオブバースは荒れ狂う炎の竜巻ファイヤーストームをぶつけてきた。しかし僕の作り出した嘴は斧のように硬度の破壊力で天井から雨のように降らせた!!


「ぐゎああ!!」


炎の嘴ファイヤービークはタイムオブバースに命中した。

怒り狂いながら構えた刀を振り回す彼と撃ち合った!


「はぁあぁああ!!!」


僕はストロークのパンチ宜しく拳を連打させた!彼は刀も足も出せず、背後から漆黒の闇が広がった。


「これで終われぇ!!」


幾つものアナザーホールが開くとそこから無数の毒針が秒の速度で放たれる。


針が僕にぶつかる直前、僕は光の鳥ようにかわしていきながら飛び回った。

飛行しながらタイムオブバースの目前にくる寸前、待ち受ける彼に僕は言った。



「時生さん‥僕たちは現場で‥貴方達が作り上げた会社の下で働いているんです。辛いけどいつもと同じ毎日を過ごし‥そんな当たり前の日々を壊すお前が許せない!」


「黙れ、只のイチ社員が!救世主セイバーでも無いくせにっ!!」


「だしかにそうです。でも、あなただってそう」


タイムオブバースは刀を振り上げると、僕は叫んだ!


「独裁者では無い筈だ!!」


一刀した刀をかわしながら炎の拳を光の速さで命中させると、時生のディサミナージョンを倒した。




「俺も、必死にやれば報われると思っていた。だがそれが叶わぬと思いこのような事を‥これからは、会社の事もちゃんと考えるつもりだ‥」


息も絶え絶えの時生が吐いた。


「しかし、俺の行為や貴様の所業など誰も知らぬ事だがな‥」


たしかにそうだ。勝っても誰も見ていないが‥


「そんな事はない」


その他に葉也君を抱いた篁社長と斗川さん、水池先輩とアリアとサリィ、佐幸君と針原君と納谷さん‥イクアージョンの仲間が僕達の戦いを見届けていたのだった。

咲さんの隣にいる三条先輩が僕を見て笑った。


「愁、よくやった」

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