8−1 アクセレカンパニーの過去
やって来た咲は三条の隣のソファに座ると申し訳なさそうな顔で笑った。
「愁ちゃんとアリアちゃん、こんなことになってごめんね」
意味も解らずアリアは首を振って否定した。
「悪いのは私なんです。篁社長のイクアージョンを獲ろうなんて‥それを許してもらおうなんて思ってませんから」
「そもそもは
なんだか展開が意外な方に向いて目を丸くした愁とアリア。三条二人に昔の事を話し出した。
篁、三条、斗川の三人がアクセレカンパニーという会社を立ち上げた頃、彼らは身の危険を防ぎ相手の身柄も無傷で確保させる為、相手と自分、《イコール》した双方が変身できるシステムを造った。名前は《イコール》したどちらか片方が消える事から「方程式」から取り《イクアージョン》と名付けた。といっても当時はまだ試作品のような状態で、掌サイズの変身システムが身を包んで痛みを軽減させるポータブル防具のような物だった。
「どうだ。改良した
「何度も使うには消費が多いので一定のリミットをつけるためゲージも必要だ」
三人はイクアージョンを手にそんな話をしていると、篁はいそいそと帰り支度を済ませながら言った。
「それじゃ俺はもう帰る」
そんな篁に斗川は微笑みながら見送った。
「いつもすまない」
篁の行った場所はとある病院で、ある病室に行くとそこには
紗葉は斗川の妹で咲の姉だった。沙葉は篁の恋人だったが、ある日大きな事故に会い寝たきりの生活を送っていた。それでも篁は沙葉を元気付けようと彼女の為に、花の形をしたイクアージョンを造った。
「沙葉。これは君のために造ったよ」
取り出したイクアージョンを沙葉の胸に翳した。沙葉と篁は体全体を覆い変華するとイクアージョンは彼女の痛みを軽減させ、その時だけは紗葉は起きる事が出来た。そして病室を抜けると、花弁が舞う中、屋上でただ隣同士で座るだけの時間を僅かに過ごしたのだった。
彼は幾度も沙葉を癒す為に病室を訪れイクアージョンを使った。
そんなある日病院に行った篁は声を掛けられた。
「それ、いいですね。僕にもください」
篁の目の前に現れた若者は病院関係者でも患者でもなさそうだったが、話を聞くと彼は若い頃悪さばかりして家族に迷惑ばかりかけていたので孝行しようと思い、それを祖母の介護に使いたいと言ってきた。
それを聞いて共感した篁は彼にイクアージョンを渡した。
しかし数日たったある日の事、病院で沙葉と居た篁にあの若者から話があると呼び出された。
「先日貰ったイクアージョンを盗られました」
篁は驚いた。話を聞くと、自分が祖母と外出中にイクアージョンを使おうとしていた所を昔の悪い知り合いが見てしまい、奪われたのだという。篁は焦るように三条達に連絡した。
「聞いたところによると奴らはイクアージョンを使い強盗等を繰り返しているそうだ。彼らの集まる場所は聞いた。ただちに回収しなければならないので俺も行く」
篁は携帯の通話を切り、屋上に置き去りにしていた沙葉を戻そうと歩き出した時、誰かが横を通った。
それを気に止める事もなく屋上に戻ると、沙葉はイクアージョンを解除されたまま倒れていた。
「沙葉、どうしたんだ!?」
イクアージョンを纏っていた沙葉は、篁が目を離した隙に背後からイクアージョンの姿をした者に攻撃され、イクアージョンを奪われその場で倒れたのだった。
突然の事で気が動転した篁は風前の灯火のような沙葉を病院関係者を呼んで病室に戻すように頼むと、沙葉を置いて飛び出した。
篁が行った空き地にはゴロツキに囲まれたイクアージョンが騒いでいた。
「お前達か。人のイクアージョンを奪って悪用しているのは」
何故俺のささやかな幸せを邪魔をした?そう思いながら聞いた篁に彼らはへらへら笑いながら答えた。
「誰に口を聞いてんだ?ーあ?それが人に物を頼む態度か!?」
「それはそういう事に使う者では無い。返しなさい」
「いやこれは拾ったんだから俺の物だし」
そう言いながらゴロツキイクアージョンは沙葉から奪ったイクアージョンを手にし、篁の前に見せびらかすと叫んだ。
「取り返せるものなら取ってみな!!」
篁は胸にかざしイコールすると、イクアージョン
迎え撃つストロークは体を旋回させると、自分を取り囲んだ怪人達にうねりと共に拳を打ち込んだ。
一撃で数百の打撃を叩き次々と倒していき、最後に残ったイクアージョンを前にストロークは言った。
「人の好意を悪用したお前は許せない」
「しらね。そんなのどうでも良いし‥お前なんか興味無いんだよぉ!!」
そう叫んだイクアージョンは暴走するかのようにパンチとキックを繰り出し向かってくると、ストロークは拳を撃った。旋風の如く相手を覆った風は早打ちの打撃となって打ちのめし、倒れたイクアージョンは元の姿で気絶した。
イクアージョンを取り戻した後、元に戻ろうとしたストロークに声がした。
「弘也」
目の前に鬼の形相の斗川と三条、咲が立っていた。
「沙葉は亡くなった」
「何だと!?」
驚きのあまり声を失い、現実を受け入れる事が出来ない‥‥斗川はそんなストロークのままの篁を問い詰めた。
「お前が沙葉を救ってやればまだ間に合うかもしれなかった。お前のイクアージョンを紗葉に与えれば、こんな事にはならなかった‥‥お前のせいだ」
「言うな、言わないでくれ!!」
篁は叫んだ。彼は、イクアージョンを沙葉に使った事によりこうなってしまった事の自責で苦しんだ。
「沙葉に詫びて持っていけ、お前のイクアージョンを!!!」
斗川は怒りに任せて変華した。
イクアージョン
「止めろ!!!」
このままでは危険が及ぶと感じた三条はイクアージョン レイに変華して天に片手をかざすと、頭上に光を作り出した。
浮かんだ光は高熱をもった強い光の球となって、それを二人に投げつけた。
「正気に戻れ!お前らが争ってどうするんだ?」
「黙れ!」
「辞めて、お兄ちゃん!」
それでも辞めようとしないストロークとアノメイオスの間に突如咲が入ると二人は喧嘩を止めた。
「こんな事をしても沙葉お姉ちゃんは喜ばないでしょ」
「そうだろうか?俺がイクアージョンを増やせば彼女は元に戻った筈だ」
斗川はねじ曲がったまま意志のまま振り向くと、去り際に一言言った。
「俺はお前に勝つ為には、イクアージョンをさらに持たなければならない」
沙葉の葬儀が終わった後、今の会社を出た斗川はもう一つ支部を創りエイ市とデイ市で分裂した。
篁は沙葉の墓の前で三条に話した。
「俺は沙葉と
「イクアージョンを使ってもいずれ彼女はいなくなったのかもしれない。僅かな時間でも、幸せを得られたんじゃないのか?」
「そうか。‥しかしあいつはまた俺のところに来るだろう。それを止める方法は、あると思うか?」
篁の言葉にしばらく考えた三条は「ある」と不敵な笑みを漏らした。
「俺が
こうして対立する篁と斗川その間にいる三条は三竦みの状態でいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます