変華闘記イクアージョン

嬌乃湾子

一章

1−1 イクアージョンとの出会い


空を仰ぐと日差しが強く照りつけたとても暑い日。そんな日に彼は出会った。


ここは現代の地球によく似た異世界だ。聳え立つビルの大きなディスプレイにはこの世界を示すような少女タレントが輝くように踊り、その根元で賑わう人たちは笑いながら過ぎ去っていく。そんな中を赤茶色の髪をした青年が人の流れの中で虚無的な表情で街を歩いていた。


彼の名は花園愁。職業安定所へと足を運び幾度となく会社の面接に向かうも不器用な彼が採用される事もなく気落ちしていた。

彼はたった今コンビニで買った好物のツナマヨパンだけが唯一の心の拠り所だった。それを手に再び街を歩くと耳に入るのは男女平等や企業の不正を唱えるニュースを次々と読み上げる女子アナの声‥


そんなのどこの会社でも同じ事をやってるよ。何年いても上に異を唱えればそこから要らなくなるし、それさえ割り切れればどこでも上手く行くんじゃないか。


‥なのに、それが出来ない。


『‥‥ああ、俺はなんてどうしよーも無いんだ』


そんな事を悶々と考えていた愁に突然事件が起きるなんて、夢にも思っていなかった。



「おい、あいつヤバくない?」


愁は周りの人達が小声で騒ついているのに気付いた。皆が見ていた視線の先には角刈りで目つきの悪い、包丁を手にし道の中心を歩くいかにもガラの悪そうな男‥いわゆる通り魔男に辺りは一気に変な空気に変わった。


「おい、何見てんだよ!!」


突然怒号を上げた通り魔男は掲げた包丁を振り回すと辺りの人だかりは男を中心に一気に空円が広がった。叫び声を上げながら愁の間をすり抜けていく人の中で小さな女の子が遅れをとってつまずいた。悪い男の目にその女の子が留まり駆け寄ろうとすると、愁は思わず持っていた未開封のツナマヨパンを顔に投げつけた。


「こっちへ来て逃げるんだ、早く!」


俊敏な動きで女の子の近くに駆け寄って手を差し出した愁は繋がった手を引っ張りコンビニへの中へと隠れるように促した後、一目散に駆け出した。


「てめぇ待て!!」


包丁を突きつけながら追って来る男に無我夢中で逃げる愁の動悸と焦りがどんどん早くなっていく。


『ヤバイ!追いつかれる‥‥!!』


ああ、なんてついてない人生なんだ。就職も彼女も出来ず、僕はこのままこの男に刺され死ぬんだろうか‥と彼は頭の中で自分の一生の回想を巡らせた。

でも、せめてさっきの女の子が無事なら‥と思ったその時、愁と通り魔の間に立ちはだかる者が現れた。


愁より年上位のブラウンの髪の青年。彼はスマホで何か連絡を取っている。


「社長、見つけました」


そう言いスマホを切った青年は通り魔男に向き合うと笑顔で語りかけた。


「もうすぐ警察がくる。君も大人しくしようじゃないか」


「うっせぇえ、お前が大人しくしろ!!!」


「今なら


手にした包丁を一気に振り上げ突進して来る通り魔にブラウンの髪の青年は目の前の狂気を物ともしない表情で動いた。

手に持っていた何かを胸のあたりに煌めかせ、男と凶悪犯を貫くように一閃すると周囲が異様な光がフラッシュした!

一瞬目が眩む。愁がブラウンの男を再度目にすると、ブラウンの髪の男は胸の辺りから光の花弁のようなものが放出し、それが包まれるように姿を覆った。


挿絵(近況ノートより)

https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816700426070397096


「いっっ!?どういう事」


愁は目を見開いた。ブラウンの髪の男はそこに存在せず、白光に輝くスーツを身に纏った姿、特撮番組に出て来るヒーローのような者が現れ、さらにその向こうの通り魔がいた場所には両手が刀の見た事もない怪人に驚愕した。


「な‥‥なんじゃこりゃあ!?」


怪人は自分の姿に戸惑ったがすぐに辺りを見渡すと片手を振った。その衝撃でアスファルトが剥がれるとギョギョギョォーと声を発した。


「ひょっとして、この状態っていけるんじゃね?」


更に両腕を振り回すと刀に沿って大きく地面が裂けていく。


「それくらいにしてくれないか」


その声に動きを止めた怪人は首を斜め上に傾けると、突如奇声を上げて白光の男に向かった。


「ヒィーーッヒヒ!!!」


怪人は奇声を上げて自身の刀を振り下ろす。目の前で破壊される筈であった白光の男の腕あたりから光が一閃し、同時に凶悪怪人の刃を弾いて連打の攻撃を放つ。

だが、かなりの数の打撃を受けた凶悪犯はキョトンとしたように呟いた。


「痛くなぁい」


「そうだろう、その為にお前をその姿にしたのだから」


「ほざけぇ、効かぬ、効かぬわ。何故なら俺は無敵だからだぁ!!」


怪人は叫びながら刀身を力任せに振るった!白光の男は瞬時に避け、光の輝きと共に一蹴した。


刃物の怪人は微動だにせず立ち尽くしたままだったが、体から警告音が鳴ると元の姿に戻り、倒れた。


白光の男は元の姿に戻ると、凶悪犯の胸の何かを奪い取った。


凶悪犯は身動きが出来ないままやって来た警察に連行されていく。愁が動揺する間もなく呆気に見ていると、ブラウンの髪の男は愁に目が止まった。


「君、大丈夫か」


ブラウンの髪の青年は柔らかい表情で愁を見た。

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