2−3


愁は襲いかかてくる怪人達に立ち向かう事もなく必死に逃げ回っていた。


だって怖い‥怖いんだ‥‥それにこのままやられたらどうするんだよ‥‥



『変身したからにはちょっとやそっとの事では負ける事は許さない』


彼の脳裏には、ずっと篁の言葉がリフレインしている。そのプレッシャーを言い訳に誰にも近付く事が出来ず、身軽だけが取り柄のイクアージョン愁は公園内にある建物の壁や遊具の間を器用に跳び渡ってかわしていき、とにかく逃げ回った。


「こいつ、小鳥みたいにチョコチョコ逃やがって!」


ゴメンドーの一人がバイクに乗って執拗にイクアージョン愁を追ってくると、偶然にも栄さんと取り巻きの婦人達に出くわした。

栄さんは怪人ゴメンドーを見てハッと驚くと、‥‥これは、と声を出した。


「何か見覚えのある‥‥そのバイク‥‥ひょっとして、隆?」


「お、お袋!!」


「‥‥今までどこに言っていたの!?心配かけて!」


栄さんは自分自身がクレームをつけていた連中が自分の息子だったと知り信じられないという思いで溢れ、同時に一緒にいた婦人達の目が急変した。


「‥‥え?栄さんって実は暴走族と絡んでたの?」


「ウソ!子供が散々迷惑かけてたのに本人はあんなわめいたりしてさ、信じらんないわ!」


ヒソヒソと聞こえてくる小声に栄さんはいたたまれず突然アァーー!と泣き叫んだ。


「隆‥‥お前って子は小さい頃から悪さばかりして、いなくなったと思ったらまた迷惑ばかりかけて、隆、どうして、どうして隆!!」


「隆、隆言うな!いっっつも、俺を子供扱いして!!」


「おい、母ちゃんよぉ!オメーがアイツを見捨てたから俺たちが一緒にいてんだろ!」


「どうせ、俺なんていなくなってもいいんだろ?だっったら消えてやるよ!!」


そう叫びながら怪人ゴメンドー隆は周囲の物を蹴散らした。


「そんな事ないわ!!隆は優しいいい子よ!!」


そう言って栄さんは隆の方へと走り出し、怪人隆に抱きついた。


「お袋!!!」


怪人隆に触れた栄さんは全身傷を負ってしまった。隆は思わず栄さんを自分から離すと今度は他の怪人達が倒れた彼女に近づき魔の手が追る。その時、愁の白いままのスーツが熱のように変わった!!


それまで白かった全身は緋色に染まり、顔の中心から後頭部へと4本の白い隈取りが走った。

花園愁は彼らを守らなきゃいけないと言う一心でイクアージョンスラッシュへと変化したのだった!


イクアージョン鶫は栄さんを襲おうとする怪人達に攻撃を何度も撃つ。怪人達はバイクを走らせながら巨大な鉄の棒を振り回すもイクアージョン鶫は大きな鳥から身を守るツグミのように攻撃をかわしながら彼らを追って攻撃する。痛みは感じないもののそのしつこさに怪人達は思わず逃げ、彼らのどんどんゲージが下がっていく。


「なめんなぁ!!」


怪人達は三方向から突進し互いの懐に入った時、囲まれたイクアージョンスラッシュが低姿勢のまま足軸を使って回転し、伸ばした方の足先の摩擦から出来た炎の輪が空を切って怪人達に次々とヒットした!


「お前‥‥お袋を守ってくれたのか」


隆は呻くと、ブザーの音と共に元の姿に戻り動かなくなった。





「やったな愁ちゃん。イクアージョン に変化する事ができて」


三条は優しい目で見ると、愁は照れるように笑った。


「何となく解りました。人を助けようって気持ちが大事なんだって‥‥これからちゃんと、悪いやつを倒せるように頑張ります」


三条は遠くを見ながら呟いた。


「そうだな。それだけじゃないんだが」


帰路についていた彼らのあたりには、既に夕焼けが照らしていた。

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