3−1もう一つのイクアージョン
「最近、この地区の周辺で独居老人が狙われる事件が多発しているそうだ」
アクセレカンパニーの事務所で花園愁は篁社長から業務内容を聞いている所だった。三条と水池は別のところを回っていて今はおらず、社内には愁と篁社長の他に事務員の咲のみが居た。
「先日あった事例で調査したところ、路上の監視カメラなどの情報からある車両が浮上した。裕ちゃんと甫は後から合流するので、先に咲さんと見回りを兼ねて現場に行ってもらいたい」
愁がその写真を見ると、不気味な鴉の絵が描かれていた黒いワンボックスカーが写っている。貰った地図を見ながら愁は緊張気味に思った。先輩達は居ないけど、頑張るしかない。
「解りました」
「独り住まいも危ないが、愁も狙われやすそうだから気をつけろよ」
その言葉に咲さんの方が危ないと思うんだけど、と内心思った愁だった‥‥
「それじゃ愁ちゃん、行きましょ」
咲に促されて愁ははい、と言いながらその後を付いて行く。
二人は「行ってらしゃい」という篁の言葉に見送られて玄関を出た。
愁と咲は市内の閑静な街並みの中にある一人住まいの家を一軒ずつ廻っていった。咲は愁の隣でニコニコ笑っていて、いつもと違う状況に愁は慣れないのか、最初はぎこちない感じだった。
「こんにちはー。お邪魔しますー」
二人はとある家を訪れると居間に一人、電気の入っていない万年コタツに座る
「これ、皆さんに配ってるんです」
ほいちょ、と咲はお守りが入っているというヒモの付いた小袋を吾郎谷さんの首にかけた。
「お一人で大変でしょうけど、気をつけてくださいね」
「あぁあー、どうもありがとーーねー」
コタツに入りながら吾郎谷さんは辿々しく笑うと二人は家を出た。
「愁ちゃん。それじゃね、あとは頼んだわ」
チラシとお守りを配り終えた咲は愁を残し事務所に帰って行く。
「咲さん、気をつけて」
遠くから笑顔で手を振る咲に愁の表情も思わず
彼女を見送った愁は気を取り直そうと振り返った。
「おお、すっごい笑顔」
視界に飛び込んできた顔に、心臓が飛び出るくらい驚いた愁は思わずのけぞり返った。
「きっ、君っ!いつの間に!?」
先日会ったストレートのロングヘアの女性が突然目の前に現れ、愁は思わず叫んだ。
「君こそ何なんだ!?」
自分の表情がそんなにヤバかったのか?必死で平常を装うもまだ動機が止まらない。そんな愁に彼女は凛とした顔で言った。
「私は、只空を眺めていただけよ。そしたら偶然君を見つけて」
「そ、そうなんだ」
そんな偶然あるのか?と思いつつ澄んだ瞳で見つめる彼女に愁は気を取り直しあっ、と思い出すように言った。
「そうだ、君にお礼言おうと思っていたんだ。安いのしか買えないけど‥‥今度は僕が奢るよ」
「え?本当?じゃあアイス食べたい!」
愁が近くの店で買ってきたアイスのコーンを「ありがとう」と受け取ると二人で小さな川の橋のたもとに立った。
「そういや君は、もう大丈夫なの?仕事」
彼女はアイスを口に川を眺めながら聞いてきた。
「なんか、色々大変だけど」
呟くような言葉に愁も同じ方向を見ながら言った。
「僕はなんだかんだ言っても先輩達から面倒見て貰ってる。まだ折れてはいないよ」
「そうなんだ、頑張ってるのね」
そう呟いて群青の空を見上げる彼女を見ると、風で長い髪が靡いて口元だけが愁の目に映った。
愁はそんな光景に見惚れながら思った。彼女は今、何を思っているんだろう?
「じゃ、私そろそろ行くね」
暫くして、愁に背を向けたまま橋を歩き出す彼女に愁は言った。
「今度、君の悩みも聞くよ‥‥あ、名前聞かないと、僕の名は花園愁」
「愁君?って言うんだ」
愁に背を向けていた彼女は振り向いた。
「私は、
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