6 篁と葉也の再会
篁は自分と沙葉との間に生まれた息子の
二人は父と子でありながら、母である沙葉が亡くなってからは一緒に住んでいなかった。
砂葉が事故に会い動けなくなってからは、まだ乳児だった葉也を会わせるのは控えていた。だが、沙葉は時々イクアージョンの力で僅かながら体が動く事が出来た時に、咲の時同様葉也の為に唄を作りそれを篁が幼子に歌いそんな日々が続いていた。
その後沙葉が亡くなった事が篁の不注意だと思い怒った斗川は篁から葉也を引き離して斗川の親族に預けたのだった。
葉也は本来の親では無い人達と暮らしながらも何不自由なく過ごしていたが、やはり実の親では無い事からどこか寂しさを感じていた。彼は幼稚園には一人で行くと言い張り、たまに会いに来る斗川との幼稚園の帰りに、ふと言葉を漏らした。
「ねえ、僕にはパパがいるんでしょ、パパは来ないの?」
斗川にこの話をすると、それまで優しい表情をしていた彼はいつも感情を押し殺したような厳しい顔に変わる。
「葉也のママはあいつの不注意でいなくなった。あいつがあの時、あんなふうにしなければ‥‥」
そう言われ葉也は自分の親の話をするのは諦めた。
そんなある日、葉也が幼稚園の帰り道、街で何処かの不埒な輩がディサミナージョン になり、その近くに居た葉也が怪人になってしまったのだ。
さっき迄自分と同じように歩いていた人たちが急に姿を変えて目の前で戦い出すのを見て「怪人イボーグ」となった葉也は怯えて泣き出しそうになったが、そんな彼を見てディサミナージョンや怪人達が襲いかかってきた。
「なんで、僕をやっつけるの!!」
掴みかかり奇怪な顔で噛み付く怪人や正義の鉄拳のように撃ちかかるディサミナージョンにイボーグは恐ろしさのあまり無我夢中で叫ぶと、自分の肩から突出した部分からビームを放ち、次々と裂断していった。
ディサミナージョンや怪人が襲ってくる光景が焼き付けられた彼の脳裏はトラウマ状態になっていた。小さく息を切らしながら我に帰ると、彼らは人間の姿に戻り倒れている。そして建物の窓ガラスに写った自分の姿を見て彼は驚いた。
『これ、僕なの!?』
そんな怪人イボーグの姿をした葉也を見て、偶然近くにいたアカナは目を付けた。
「君、強いね」
突然話しかけてきたアカナにイボーグはおどおどしながら言った。
「‥僕、知らない人には話しかけちゃ駄目って言われてるから」
「でも、そのままお家に帰るつもり?そんな顔じゃ、みんなびっくりして怖がるわよ」
アカナにそう言われてイボーグはガラスに映った自分を見ながら不安になった。
「僕、ずっとお化けのままなの?」
「大丈夫。私は葉也くんを助けたいから話しかけたのよ」
「‥‥ほんと?」
そう言って見つめる怪人にアカナは微笑んだ。
「君、これからは悪いやつをやっつけるんだよ。お姉さんが君をもっと強くしてあげるから、ついてらっしゃい」
葉也はこうして時々家を抜け出してアカナに利用された。彼自身は誰にも頼らずに自立したいという気持ちと、脳裏に焼きついた恐怖心を消すために戦おうと思った事だった。
醜い自分の姿もアカナ達の事も最初は気味が悪かったけど、怪人になった事で自分の体が大きくなって更に強くなれた事が楽しくなっていた。
だがそんな事を繰り返すのち、葉也の顔は気づかないうちにどこか闇を持ったように変化した。それまで親切にしてくれた周りの人達とは孤立していきますますアカナの元へ行って怪人の姿に変わるのだった。
アノメイオスとイボーグが衝突した爆破があった後、イクアージョン達は吹き飛ばされ離れ離れになっていた。
アノメイオスの姿をしていた斗川はゲージがまだ残っていたお陰でかろうじて無事だった。彼は変華を解除し元の姿に戻ると、声がした。
「湊」
「弘也、お前来たのか!?」
斗川は突然現れた篁の顔を見てはっとすると、叫んだ。
「大変だ、葉也が怪人になっていた!」
「知っている。だからここに来た」
全てを知っていると理解した斗川は、篁に詫びるような顔で言った。
「すまない、俺はあの子の為を想ってやった事が裏目に出てしまった
‥‥あいつが怪人になったのは俺のせいだ」
「いや、お前が葉也を連れて行った時に、自分が責任を追うという気持ちを貫き通さなかった自分が悪いんだ。俺は沙葉が亡くなった後ろめたさで今まで戦うのを怖れていた。
だが、今は葉也を救わないといけない」
「待て、俺も行く」
「お前のゲージは残り僅かだ。柿谷(サリィ)を呼んだから待っていてくれ」
そう言って篁は立ち去ると、イボーグの後を追って行った。
「ご苦労だったわ、イボーグ君」
イボーグが戻って来た場所は時雄がアナザーホールで創り出したたアジトだった。空に向かって立っていたイボーグの目前が大きな扉のように開き、アカナは笑顔で出迎えるた。
「どう?
アカナは隣で見ていた時生に言った。
「見てらっしゃい、次は彼らを内側から壊滅させるから」
満面の笑みを浮かべるアカナを横目に見ながら時生は思った。
あの女は好かんが
「ん?」
アカナが目を向けた先に居たのは篁だった。彼は怪人達の中にいるイボーグを見つけると、声を上げた。
「葉也、パパだよ。迎えに来たんだ」
「パパ‥‥!?」
そういうなり、篁は何人もの怪人に囲まれた。
「パパだぁ?オヤジは家に帰って湿布でも貼ってろぉ!!」
「悪いがお前達は湿布だけでは済まないぞ。これから俺は、沙葉の哀悼の意を込めてお前を撃つ!」
篁は怪人達を睨み付けるように見据えるとイクアージョンをかざしストロークに変華すると、八方から向かってくる怪人に拳を向けた。
振り回した両腕から竜巻のような波動を発したと同時に叩きつける雨のように撃ちつける拳で怪人達は次々と倒していった。
一瞬で一網打尽にしたストロークの姿を見て、イボーグは驚いたと同時にみるみる態度を変えると、ロベリアに姿を変えたアカナが口を挟んだ。
「あいつはママを殺した悪い奴よ。悪いイクアージョンは倒さなければいけないわ!」
「パパを殺す!」
悪鬼のように叫んだイボーグはビームを発したが、それをかわしながら、ストロークは淡々と言った。
「その辺で止めようか、葉也」
「お前はママを殺したくせに!」
「確かにママはパパのせいで死んだよ。だがずっと葉也、お前はそんな姿でいちゃいけない」
「黙れぇ、お前を、お前を殺さないと僕は!!」
そう叫んだイボーグの肩から出て空中に浮かんだミラーボールのような球体から全方向ビームが発射した。
だが、同時に硬化したストロークの拳がうねりを発しながら連打を撃つと、イボーグの球体は一瞬で打ち砕かれ破壊した。
イボーグの反抗も物ともしないストロークは優しい声で言った。
「大丈夫、これからはパパが守る。
一緒に帰ろう。ママが葉也の為に作った唄を君に聞かせたいんだ」
「‥ほんと?」
イボーグの心が揺らいだその時、このままでは心変わりをして敵になると思ったロベリアが、イボーグの前に阻むように前に出た。
「葉也くん、騙されちゃだめ。あいつは今まで君に何をしてくれた?
助けたのはこの私だったよね‥
まさか、お姉さんを裏切ったりするの?」
屈みながら目を合わしてくるイベリアにイボーグはべそをかくように下を向いた。
「僕、そんな事しないよ」
「だったら行きなさい。どうにかしてあいつと戦うのよ」
「待て、お前は彼までも駄目にするつもりか」
時生がそう言うと、次元が閉まろうとした。
「待て、葉也!」
ストロークがイボーグのところに向かおうとした時、彼らは壁に塞がれ消えていったのだった。
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