5−2怪人の猛攻(下)
夜、
『ごめんねサリィ、私のせいでこんな事になって』
サリィの頬と髪を撫でながら思い詰めるような目で彼女を見つめていると、さっきまで三条とどこかに出かけていた愁が帰って来てアリア、とやって来た。
愁はアリアの側に来ると「これ、君にあげる」と銃弾を渡した。
「先輩に作り方を教えて貰ったんだ。これは僕の技が使えるから、いざって時に使ってよ」
アリアは手にした銃弾をまじまじと見つめながら愁の顔を見た。
「女の子にもっとロマンチックな物をくれないの?私にはお似合いだったらしょうがないけど」
「そ、そんなつもりはないけど‥」
「そう‥でもありがとう。嬉しいわ」
そう言って微笑んだアリアに愁は静かに言った。
「これで離れていても守ってあげる事が出来るよ。君と一緒に戦っている事になるだろ」
そう言って自分に無意識に見つめている愁は気づいてはいないが、彼の視線から目をそらしたアリアの鼓動が早くなっていた。
挿絵(近況ノートより)
https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816700429099693048
とあるだだっ広い砂漠のような場所に照屋社長と息子の時生、アカナが立ちその隅の方にはイラガともう一人の怪人がいて、それを遠くから彼らを見ていた三条が呟いた。
照屋社長や息子の時生を見るのは斗川以外は初めてだった。時生は手にしたディサミナージョンで姿を変えると、目の前に広がる砂漠にこの世のものでは無い壁と穴が出来た。
「どういう事だ」
「奴らは俺たちの使うイクアージョンの力を次々と進化させている。あれは奴らが作り出そうとしている
三条の言葉も無視して斗川は、黙ったままそれを見つめている水池に言った。
「本当に実現すれば街を滅ぼす、君のを遥かに超える力だ」
ファンタジーのような穴が空く様を目にしながら照屋社長が「まだ未完成じゃないか」とぼやいた。
「抜かりはありませんよ。最大限に引き出す術はすぐに整う」
「君たち、この世界が本当にわしの物になるのかね?」
「焦らないで。最初に斗川がくれたあの力で私たちは思いのまま、すぐ社長の夢が叶いますわ」
「戯言を。お前が出した不要な人間は私がこの中で消し去っているというのに」
「あら、私の怪人達を使わなければあいつらを野放しだったじゃない」
「二人とも喧嘩は辞めないかね。そうだ、成功した方をわしの右腕にしようじゃないか」
照屋社長の言葉に時生とアカナが互いに睨み合ったその時、斗川が顔を出した。
「遅かったじゃないか斗川くん。ん?」
斗川と一緒に現れた三条は照屋社長に挨拶をした。
「初めまして。アクセレカンパニーの三条と言います。今日は社員一同、皆さんとお会いしたくて伺いました」
三条がそう言うと、アクセレカンパニーの社員達が彼らを囲んだ。
「あらぁ、こんなところで会うとは」
アカナはあからさまに声色を変えたが照屋社長は怪訝な顔をした。
「どういうことかね。君は同じ仲間といえど、彼らとは敵対していると聞いたから我々は安心して心を開いていたのに」
「私はあなた方に譲渡したものをとやかく言う筋合いは無い。
が、悪事に利用すれば黙って見過ごすわけにはいかないのだ」
「ねえ、君の力をちょっと貸してくれない?」
彼らを見てイラガは隣にいた怪人にそう言うと、彼は自分のひび割れた体の皮膚をひとつまみ剥がした。
「しょうがないなぁ、少しだけだよ」
それを受け取って口にしたイラガは突然痙攣して呻きだすと、毛針だらけの今の姿はそのままでさらに進化し、背中に生え始めた褐色の羽から毒粉を撒き散らしながら羽ばたいた。
「そうか。もう君との取引はこれで終わりか」
ディサミナージョンの姿をした時雄はそういうと、手を向けた場所からアナザーホールが発生し、彼らを囲もうとした。
彼らはイクアージョンに変華し、アリアもイクアージョンを手にした、その時。バシッ、と何かが弾いた音がした。
「あっ!」
アリアが手に持っていたイクアージョンはイラガの攻撃でアナザーホールの向こうへと跳んでいき、アナザーホールの中に閉じ込められたアリアはイラガと二人きりになった。
「アリア!!」
「お前、この前俺が一人の時にだけ来るとか言いやがって、今日は皆んな勢揃いだろ。ここでアリアの敗北を見せつけてあいつを悲しませてやるぜ」
イラガはアナザーホールの壁の向こうの
「このまま黙って見過ごす訳にはいかない。水池、なんとか出来ないか」
「やってみます」とディメンションが言ったあと、アカナは異次元の壁の中の生身の体のアリアとイラガに残忍な目を向けた。
「負けた方が《アナザーホール》に落ちるのよ。ほら、早くやって頂戴」
彼女は、自分より若いアリアが仲間達に守られている事に嫉妬と妬みを感じていたのだ。
進化したイラガはアナザーホールの空間の中で羽ばたいた。宙を飛んでアリアを狙って毒針と粉を放つと、アリアは片手で口を押さえながら空間の中を漂う浮遊物を盾に避けていく。
イラガは瞬時にアリアのいる方へと飛び回り、移動し続けるアリアに向かって言った。
「俺、アリアに初めて見た時からずっとだよ‥こんな気持ち」
逃げ回るアリアの体力と気力が限界に達していた。
「穴になんて落とさせてたまるかよ。君の亡骸は俺が大事にする。これで一生、俺たちは一緒だ!」
叫んだイラガはアリアに向けて飛んだ。
「グェッ!」
その時、突然飛んできた何かにイラガがダメージを受けた。
「アリア!」
アリアがディメンションの声で向こうを見ると、アナザーホールに僅かに空いた部分からイラガに向けて、ささやかな攻撃とアイテム「イクアージョン」が空間を漂ってきた。
「ありがとう水池君!」
アリアはイクアージョンに向かって跳びながら捕まえると、胸に翳し派手な光と共に変華した。ラナンキュラスは着地する迄に銃を手に、愁のくれた炎の銃弾を込めたマガジンを充填した!
「実は、私もこんな気持ちになったのはあなたが初めて」
ラナンキュラスは落ち着いた声でイラガに狙いを定めると、イラガも言った。
「アリア、君も俺を愛していたのか」
「違うわ、何の
轟音と共に銃口から何発もの炎がイラガを追い、下から脳天まで瞬時にして燃えつかせた。
やられたイラガは元の姿に戻った。負けた彼の足元の地表から真っ黒な穴が開き慌てふためきながら逃げようとすると、バサっと何かが降り落ちた。
「アリア!」
アナザーホールが解かれラナンキュラスはそのまま崩れると、鶫が駆け寄った。
側に来ると無言でしがみついたラナンキュラスに「怖かったんだね」と震える肩を鎮めるように抱きしめた。
キャプチャーの網で捕獲された元イラガは動きを封じられたまま宙に吊るされると、アノメイオスに変華した斗川が言った。
「このまま奴の穴の中で永遠に居続けるか、こっちの世界で永遠のタダ働きをして今まで傷つけた人間を償い続けるか、どちらかを選べ」
「決まっているだろ、どっちも嫌だっての!」
元イラガは身動きが取れないままアカナに助けを乞うように叫んだ。
「おい、助けろよ。お前達の為に色々やってやっただろ!」
「つまんないわ。今まで我慢してたけど、蛾は大嫌い。イボーグ君、もう害虫駆除していいわよ」
「はぁい」
怪人では無くなった元イラガにアカナはそこに居る怪人イボーグにそう言った後、照屋社長に笑うと「社長、もう戻りましょう。ここは冷えますわ」と言い、三人は去っていった。
残された怪人
その状況を見ていたイクアージョン達に怪人イボーグは見た目は醜悪なのにきょとんとしたように呟いた。
「みんな、どうしてそんな顔をするの?ちゃんとお金をもらって働いているだけなのに」
「お前、自分の悪事も解らんのか」
そう言ったアノメイオスに顔を向けたイボーグは続けた。
「僕ね、大きくなって強くなったら誰に頼らなくても自分の力で生きられるし、大嫌いな大人も殺すつもりなんだ」
「それを自分の力と勘違いをするのか。そのねじ曲がった根性、嫌いな奴とやらを抹殺する前に俺がお前を成敗してやろう」
アノメイオスは大音響の擬音を鳴り響かせながらイボーグを切り裂こうとすると、彼は言った。
「だって、そう言ったのはおじさんじゃない。全部パパが悪いんだって」
その言葉に心臓が止まる程驚いたアノメイオスに、イボーグは両肩からビームを放った。
「お前っ、まさか
そう叫び一瞬躊躇したアノメイオスとイボーグの攻撃は二人の間で中和され、大爆発が起こった。
社長室に居た篁は部屋の中に飾ってあった小さな額縁を見た。写真には幸せそうな顔の自分と、赤子を抱いた沙葉の姿が写っている。
彼は、意を決した顔でイクアージョンを手にした。
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