1−2
彼らの仕事は終わり、怪人から取り除かれた幾つものイクアージョンを回収し会社を出た後、針原は佐幸を横目で見ながら呟いた。
「あーぁあ、お前達が足引っ張らなければもっと早く片付いたのに」
「何だと?」
「ちゃんとやってくれれば俺はもっと上手くやれたのにさー」
アリアは佐幸と針原のやりとりを聞きながら、彼は昔からこうで仲間内から「ハイテンションKY(空気読めない)」と呼ばれていたのを思い出し、そんな彼と一緒にいる佐幸は大変だろうと思った。
「ところで、サリィは?」
「ん?見て解かんないかなー」
針原は目を明後日の方に向けて得意げに言った。
「柿谷がイクアージョンとして出来る事って広告用のポスターに出るとかのタレント活動だけじゃん。ひょっとして今頃、コスプレしながら斗川と会ってんじゃない?」
(愁)『えっ‥?』
「あんなの斗川さんの女じゃないと、現場なんて無理っしょ!」
それを聞いたアリアはげっ、というドン引きした顔と共に怒りの顔に変わった。
「ちょっと、確かにサリィはあんな感じだけど、そんな娘じゃないわよ!」
アリアは更にボーッとしている愁の方を睨みつけて叫んだ。
「ちょっと愁くん!!想像してるんじゃないわよ!!!」
「そうだお前、俺と勝負しない?」
針原は今度はそんな愁に突っかかってきた。
「エイ市支部で大した訓練もせずにイクアージョンになれた奴だともっぱら噂の花園君。おい佐幸、こいつをやっちまおうぜ」
「愁の実力はもう知っているから俺はいい」
そう言って横目で睨む佐幸の態度にため息をついた針原にアリアは言った。
「愁くん、彼はマウントを取って勝ち誇りたいだけよ。放っとけばいいわ」
「いや、僕はやるよ」
「だろ?アリアも向こうへ言った身だし、イクアージョンを返してもらおうか!」
「解ったわ。二人がかりで大丈夫なの?」
「そんなの余裕っショ!!」
そう言って愁は針原を睨み、イコールするとイクアージョン スラッシュとイクアージョン ラナンキュラス、イクアージョン グリットに変華した!
グリットは「イェイ!」と触手のような武器を振り回し攻撃してきた。スラッシュはそれをかわし後方へ飛びながら、足先に炎を溜めると一気にグリット目掛けて一撃の蹴りを入れた。
攻撃を受けたグリットは怒り心頭で叫んだ。
「許さねぇい!」
グリットの周りを砂塵が吹き荒れるとそれを受けたスラッシュは足元を取られ滑り込むように砂の中に入っていった。
「愁君!」
砂の中に落ちていくスラッシュを見てラナンキュラスは砂塵のグリットを狙い銃を撃った。グリットの姿は身を隠すように砂の中で消え、その後ラナンキュラスに砂が襲った。
「きゃあ!!」
砂嵐にラナンキュラスも足場を失い、二人は滑り落ちながら触手の様な武器で待ち構えるグリットの懐に入ろうとした。
「二人とも、キャントゥセィグッ、バァアイ!!!」
グリットが確信を持って叫んだその時、彼は異変に気づいた。
二人は砂の中で
「悪い子はいないかなぁあ」
グリットの砂塵から離れた場所からボーッと像のように立った、まるで不審者のようにディメンションが現れた。
「水池君、どこ行っていたの!」
「不穏な空気を感じ、ずっと隠れて‥君のこと‥こっそり裏で見ていたんだ‥」
「キモい、キモいぞお前、後から来たくせにズルいぞ!!」
そう叫びながら砂の中から砂塵を飛ばしたが、飛んできた砂はディメンションの周囲に貼られた防護壁の中で二次元に変換し、まるでテレビ画面の砂嵐となって散っていった。
「僕は手は出さないよ。愁君、砂に風とか吹いてやればいいんじゃない」
「ノォ!!」
グリットは再び砂の中に隠れてスラッシュに砂を浴びせた。
「はいはいはい避ける避ける!!」
スラッシュは飛んできた砂攻撃を避けながらジャンプをし、空中で空を蹴って出来上がった炎輪を砂塵に向けて放った。炎輪は回転したまま砂塵の真上で停滞し、吹き上げる熱風で砂の中から飛び出した。
「あっっちぃい!!!」
浮かび上がって来たグリットにラナンキュラスは銃で撃ち放った。
「Oh!」
叫び声を上げたグリットにディメンションは不気味な異次元を背景に言った。
「君、三対一で後がないけど余裕かな?それともこっちの世界に来るかい?」
「嫌だ、俺はお前の世界には入らない!」
「だったら終了だね!」
その頃、エイ市支部に戻って来た三条は篁に言った。
「さっき電話で報告した通りだ。湊にも話があるとここへ呼んでおいたが」
篁が「もう来ているぞ」と奥から斗川が現れると、三条は神妙な顔で斗川に言った。
「納谷さんから最近お前が不穏な動きをしていると聞いた。集めたイクアージョンを改造してある組織にバラまいているのはお前か」
「そうだが」
「なんて事をするんだ!!」
「これは悪を滅ぼすための手段だ。それに魅了されて手にした者が当然の報いを受けたとしても、それは本人の自己責任だからな」
「勝手な事をして、取り返しのつかない事が起きたらどうする」
声を荒げた三条の声を聞いて咲が飛んで来た。斗川は咲の顔を見ると何事もなかったような表情で言った。
「咲、ここに居ては危険だ。
咲は少し考えてから「今は忙しいから、無理ね」と言うと、彼らの重くなった雰囲気に気づいて子供をあやすように言った。
挿絵(近況ノートより)
https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816700427140334050
「どうしたの?皆んな、もっと仲良くしてよ」
笑う咲に斗川は優しく言った。
「咲よ。あの時辛かったのはお前だったんだぞ」
咲は目を見開いたまま一点を見つめた。それを見て三条と篁は斗川にちょっと来い、と促すと、彼らは会社の屋上へと場所を移した。
「咲さんを混乱させるような事を言うな」
三条は斗川を睨みながら続けた。
「お前は沙葉が亡くなった後、あの
「黙れ、お前達は沙葉だけでなく咲までも奪うつもりか」
「そんなに俺が信用出来ないか。そもそもがお門違い、お前が大人しくしていれば彼女は平和に過ごせる筈だというのに」
篁も言った。
「湊。このまま問題視すれば、俺たちはお前も放っておくわけにはいかない」
「上等だ。いいか、あいつに万が一何かあれば、二人とも八つ裂きにしてやるからな」
篁と三条と離れて立っていた斗川はそう言い放つと去っていった。
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