二章

1−1 次章の始まり

アクセレカンパニーの愁と水池、アリアはとある会社の中にハンパない数の怪人がいるという情報を聞いて現場へと向かっている途中だった。


「依頼主は他の同僚達と会社の中で隠れているらしいです。それにしても、どうしてイクアージョンを持っていたんでしょう?」


「何でも紛い物って出回るからね。流行の物も偽物が沢山売られる世の中だし‥最近、ネットで偽のイクアージョンが出回ってて、三条さんも色々探っているんだ」


愁と水池の会話を聞きつつもアリアは上の空で歩きスマホをしていると、ふと難しい表情で呟いた。


「なんかサリィも、最近変なのよ‥」


「柿谷さんが?今日はデイ支部の人たちも来るから、彼女とも会うんだよね」


「彼女、ユーチューブで踊ってて、そのダンスの振り付けの話しかしなくなったし‥‥」


スマホ画面の『私、最近新しい振り付け覚えたの。アリアも踊る?』と書かれていたメールにアリアは思った。

以前は『今日斗川さんと一緒に仕事なの!』とか『今日ピンチになって斗川さん助けてくれた‥やっぱり彼かっこいい!』とか何かと斗川の話ばかりだったのに‥‥


「居るとうっとおしいけれど居ないとなんか気になるのよね‥」


そう呟いた後、水池は何を思ったのか、ふと立ち止まった。


「あ、そう言えば用事を思い出した。向こうの人たちも居るから君たち二人で大丈夫だよね!」


「水池先輩!」


水池は急に居なくなり、そのあと目的地のビルの前に着くと佐幸の他にもう一人男がいた。

痩せ型で長身のせいで細く見える体つき、軽いパーマをかけた短い茶髪、愁達を変な目で見るようなどんよりした目。その男は佐幸とは対照的な針原忠だった。


「二人とも遅いぞ。話してる暇はない、行くぞ」


そう言って会社裏の螺旋階段へと向かう二人を追いながら愁はアリアに尋ねた。


「僕、彼に初めて会った。アリアは彼を知ってるの?」


「彼はデイ支部で一緒だった針原君よ」


と、言う事はサリィは。と思う暇もなく彼らは裏から侵入した。

上階の通路からこっそりエントランスを見下ろすと、辺りには怪人達がウジャウジャいる。

愁はイクアージョン スラッシュ、アリアはイクアージョン ラナンキュラス、佐幸はイクアージョン キャプチャー、針原はイクアージョン砂埃グリットに変華した。


「っっしゃぁあ!!」


グリットは奇声に近い声を上げてキャプチャーの前を阻むように出ると、キャプチャーは怒鳴り声で言った。


「おい、斗川さんが居ないからって勝手に動くな!」


「うるせぇ、お前こそ俺の邪魔をするなよ!!」


イェィ!とエントランス下に降りたグリットを余所にキャプチャーは舌打ちしながら戦闘体制に入ると、保護銃ネットガンを上空から怪人達のいる壁を狙い撃った。


手にした斧を構え、遠くの壁から一線状についた網を使い突っ切ると、その線上にいた怪人達は弾ける様に倒れていく。端から端まで移動しキャプチャーの斧は旋回しながら怪人達を次々と薙ぎ払っていくのだった。


『佐幸君‥前より強くなってる』


キャプチャーの戦いを見ながらスラッシュは焦りを感じた。


一方、怪人達の中に降り立ったグリットは砂塵を撒き散らした。

砂を浴びて視界を失った怪人達は突如バランスを崩したように砂の中で転げ落ちていくと、その先にはサンドベージュのイクアージョン、グリットが蟻地獄の中にいるウスバカゲロウの幼虫のように待ち構えている。砂塵の中に吸い込まれた怪人達はグリットの触手のような武器に掴まれ刺されると、ゲージを吸い尽くされ次々と倒れていった。


「愁君、私たちは隠れている人たちを探そう」


スラッシュとラナンキュラスは走りながら依頼主に聞き出した情報を頼りに社内を探し回ると、オフィスの一室に依頼主のナケタニとカチ、まだ残っていた社員達がいて、茫然自失のハシが横たわっていた。


「ヒロタ‥ヒロタ君が怪人になったんです。どうにかして下さい」


「どうしてこうなったのか経緯を話して下さい」


スラッシュに言われてナケタニは語り出した。


「私はヒロタ君の上司です。彼は会社のいじられキャラで同じ部署内の同僚ハシ君とカチ君の二人によくパシリに使われたりふざけ合ったりしていました。私はまあそんな物だろうと思って見て見ぬ振りをしていました。

ある日カチ君はネットで売っていたイクアージョンを手に入れたと言い、彼は私と同僚のハシ君と一緒にヒロタ君を連れて社内の皆んなの前でふざけてイクアージョンを使ったのです。

私(ナケタニ)とハシ君とカチ君はイクアージョン、ヒロタ君はみるみるうちに怪人に変わりました。しかし、浴び所が悪かったのか私たちを見ていた数十人もの社員達迄怪人の姿に変わってしまったんです。

驚いたハシ君に怪人ヒロタ君がやって来て熊の一撃のように剛腕を振ってきました。イクアージョンでダメージは受けないと言いつつも、狂気の沙汰としか思えない怪人ヒロタ君に怯む私たちに、他の怪人達までが次々やって来る。一切の反撃と制止の言葉も聞かない奴らに殴られ蹴られの一網打尽に襲われハシ君のイクアージョンのゲージも尽きました。私たちもやばいと思い彼を連れて必死に逃げ‥ここに皆んなと避難しているのです。

‥いつもは良い奴なのに、今は後悔しかありません」


「それにしても、どうして何かを失ってから気がつくのかな」


悔やむようなナケタニの姿を目にしアリアが呟くと、彼らのいるオフィスに怪人ヒロタと会社内に残っていた他の怪人達がやって来た。


「ヒロタ君!!」


ヒロタはナケタニ達を見つけると奇声を上げて襲いかかって来た。ラナンキュラス残っていた社員達を守るように銃口を向け、スラッシュは怪人ヒロタに立ち向かった!


『だけどここで動き回ったら危ない』


スラッシュは他の社員達に危害がかかると思って怪人ヒロタに炎の攻撃を当てると動けない様に取り押さえた。


「お前らぁあ、ゆるさねぇえ!!」


歯がいじめにされながらもナケタニ達に噛みつくように叫ぶ怪人ヒロタにスラッシュは言った。


「君‥このまま彼らを傷付けて職場を離れるのとこのまま元に戻るのとどっちがいい?」


「どうせ元に戻ってもまたいじられる毎日に戻るんだ!だったらやってやる!!」


「おい何やってんだ。さっさとあいつを始末しろ」


「カチ君‥元々は私たちがあんな事をしたせいでああなったんだ。彼に謝りましょう」


怪人ヒロタの主張とナケタニの立場上の言葉を聞きながらもカチは本音を吐いた。


「あいつは俺たちを襲った悪い奴だろ。あいつを許す事は出来ない!」


「君‥みんな見てるのよ」


他の社員達は黙ってこっちを見ている。表立って口にはしないが会社で何やってんの、と言わんがばかりの視線を感じた。そんな空気にナケタニとカチの二人は叫んだ。


「ヒロタ、悪かった!また一緒に仕事しよう」


「解った。僕もごめん‥‥」


ナケタニとカツは謝ると怪人ヒロタは元に戻った。その後、彼らは今まで通り仕事を続けたのだった。

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