2−1 咲の謎
この日は日が射さず、広大に広がる空は灰色に覆われていた。見下ろす小さな世界は不穏な空気が広がっていて、かつては穏やかだった街に異変が起きている。
イクアージョンと怪人が暴れ、暴徒と化していたからである。
街に
彼らは互いに攻撃し合い、どちらも争奪や破壊などの悪意の限りをふるったのである。
「斗川さん、ディサミナージョンです」
デイ市支部の斗川、佐幸、針原は目の前に異種のイクアージョンと怪人を目にし、対峙した。彼らは街に幾度と現れるディサミナージョンと怪人を見つけては対処するのが仕事だった。
これが斗川本人がやった事だと言う事は篁と三条の一部の人間しか知られていないのだが‥斗川は髪を風に靡かせながら笑みを浮かべた。
「心の中の悪を根絶しよう。」
今から戦おうとする彼らの表情はそれぞれ違い、斗川は悪を討伐する為だと称し、佐幸は任務を遂行する兵士のような面持ち、針原はまるで今からゲームを楽しむような表情だ。
佐幸と針原は斗川の言葉に頷くと、イクアージョン アノメイオス、キャプチャー、グリットに変華した。
「いぇいっ!」というグリットの声と共に彼らは次々と怪人を倒し、バラバラに散らばっていたディサミナージョンを取り囲むように一まとめにしていく。彼らは単独だと自己的だったが、アノメイオスがいると忠実な部下となって動く。数人ものディサミナージョンはアノメイオスの前に率いられると、突如劈くような音を発した。
デストーションのリフがアノメイオスから発せられ風の音と共に斬られていく。
『大丈夫、俺はこの姿でいるからやられても無傷だ』
そう思っていたディサミナージョンは音と共に自身の体が裂けていくのに気がついた。凶器は見えないが、彼が奏でる狂気のような音と共に徐々に深傷を負いながら体や足の痛烈な痛みで断末魔を上げた。
それを見ていたグリットは笑っていたが、キャプチャーは今までとは違うアノメイオスに心の動揺を隠すのが必死だった。
すでに砕けた鎧と化した、身動きが出来ないディサミナージョンがとどめを刺されようとする直前、声がした。
「そこまでだ!」
突如彼らの前に現れたイクアージョン レイはアノメイオスの手前にいるキャプチャーとグリットに穏やかに言った。
「君たち、すまないが彼と話がしたいんだ」
「ぇえ?急に現れて何の用だ!?」
水をさされたようで面食らったキャプチャーとグリットがレイに攻撃をしかけようとしたその時、二人の頭上に跳んだレイは空中くるりと一回転しながらすり抜けると、アノメイオスの目前に出た。
「二人とも、このあとは君たちに任せる。行きなさい」
アノメイオスにそう伝えられたキャプチャーとグリットは納得すると二人を置いて街の中へと消えて行った。
レイと二人になったアノメイオスはそれまでの態度は変えず憮然と言った。
「何のようだ」
「お前が裏で仕組んだ悪事、これ以上汚す事は許されない。ついでに長年根に持っていた事を解消させる」
「何だと?」
「咲さんのことだ」
「妹がどうかしたか」
「お前の手を介さずに暗示を取り除く方法が無いかと。そこで俺は考えた」
その頃アクセレカンパニーエイ市支部では、愁と水池とアリアが話していた。
「ここ最近ディサミナージョンと呼ばれている偽のイクアージョンが出回っていると言うことで、注意を払って欲しいと言われているんだ。‥‥ここもいつ狙われるか解らない」
水池が謎の表情を浮かべると、愁は危機感を募らせるように言った。
「篁社長と三条先輩が居ない時とか‥特に咲さんが一人の時が一番危険だよね」
そうすると、ふいにアリアが言った。
「実は私‥三条さんに変なことを頼まれてるの」
アリアは向こうの机に向かって仕事をしている咲を遠目で見ながら神妙な顔で二人に言った。
「もし、この場所で何かあったら、これを使って欲しいって」
そう言って手にラナンキュラスがいつも使っているのとは違う仕様の銃弾を見せた。
「‥‥アリアにだけなんて、どういう意味なんだろう?」
「君たち知っているかい?」
水池は突然目を光らせて言った。
「もしここが襲われて咲さんに何かあっても、彼女に近づいたらダメだよ」
「更に意味がわからない。普通、立場的に咲さんが一番危険なのに、逆に近寄るなって‥」
彼らがそう首を傾げていると、「お疲れ様でーす!」と通るような声が響き渡った。
「わざわざ来てくれてありがとう。サリィちゃんにまでこっち手伝ってもらっちゃって」
やってきたのはデイ市支部から応援に来たサリィ。彼女は忙しいからと言っていた咲の手伝いをしに来たのだった。しかし‥‥
「‥斗川さんに言われてこっちに来たけど、何で私がこんな事しなきゃならないの?咲さん、ちょっと年上だからって‥」
彼女はここには嫌々来たらしく、小声でぶつぶつ言いながら事務作業をしていた。そんなサリィに、アリアはほくそ笑みながら言った。
「あら?そんな事言っていいの?」
「どういう意味?」
実は‥とサリィの耳に顔を近づけてアリアが囁いた。その言葉で向上心がアップしたサリィは急にバリバリ仕事をやりだし、声色を変えて咲に声をかけた。
「咲さん終わりましたー!!次どんどんお仕事言って下さいね!!
私、咲さんの事大好きなんです!今度、お家に遊びに行っていいですかぁー!!!」
「そういや柿谷さん、最近ダンスやってるんだってね」
そんなサリィに愁が話しかけると彼女はニコニコと話し出した。
「そうなんです!私、ダンス練習するようになってから、強くなったみたいで、いつでも現場に戻れますよ!」
「じゃあアリアと一緒に出れるかもしれないね」
「アリア!?」
ふと出た愁の言葉にサリィはギンッと目を向いた。
「‥‥ふーん、この前までは七星さんって呼んでたのに、今ではアリアって呼んでるんですね」
「そ、そんなに深い意味は無いよ‥」
「だったら私のこともサリィって呼んでよ!!」
ドスの効いた声で念を押すと、良いタイミングでアリアがやって来た。
「愁くん、そろそろ水池君と向こうに行くんでしょ」
「う、うん。アリアとサ、サリィはここに二人で居なきゃならないから留守番は頼んだよ‥」
そう言った愁の言葉でアリアの目つきが変わった。
「二人とも、ずいぶん短い間に仲良くなったのね」
「え、別に‥そう言われただけで‥」
明らかにキョどっている愁に、明らかにやきもちを焼いているアリアはすっとぼけた表情のサリィを睨むと、二人の言い合いが始まった。
「サリィって、いっっつも斗川さん斗川さんって言ってるくせに、何なの!?」
「何言ってるの。私はただ平等に扱って欲しいだけよ!」
「やめてよ!!」
二人の言い合いが収まった後、会社には何事もなく時間が過ぎていったが、昼下がりになると突然異変が起きた。
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