2−2

何人ものディサミナージョンがエイ市支部の前に現れ、会社が入っているテナントビルの表入り口と、裏口の二手に分かれて音も立てず入っていく。


しかしビルの表玄関から入ったディサミナージョン達は階段を上がるや否や、まるでゴキブリホイホイの中へと吸い込まれるように勝手にイクアージョン ディメンションの異次元の中へと入って行き立体から二次元的な空間へと変換されたのだった。

ディサミナージョン達は森の中にいて二等身になり、同じくディフオルメ化されたイクアージョン スラッシュが現れると、彼らの二次元の中の戦いが始まったのだった!


スラッシュは四方をディサミナージョンに囲まれ槍や巨大な砲弾を投げつけられるとそれを避けながら炎輪を投げていく!

ディサミナージョン達はレベルも低く初歩の微々たる攻撃だったがスラッシュはそんな彼らを尻目にほぼ一撃で倒しゲージを奪っていった。


「おい、何でお前だけ俺たちより攻撃力が上なんだよ」


ふと疑問に思ったディサミナージョンの問いにスラッシュは答えた。


「たまにここに来て、レベルとアイテムを増やしているんだ」


「なんだと?卑怯じゃないか!!」


不平を言い出したディサミナージョン達に、何処からかディメンションの声がした。


「あっじゃあ、向こうにある川で釣りイベントをやってて、最高記録を更新すると最強の武器が貰えるから、君たちやってみる?」


それを聞いてディサミナージョン達は、真顔で言った。


「そんな時間は、無い」


「じゃあ、手っ取り早くその向こう側の崖の上の木に攻撃力が10000上がる隠しアイテムがあるんだ。攻略方本あげるから、やってみたら?」


上からドン!という音と共に降ってきた、塊のような分厚い攻略本を手に取った。

そこには以下の通り記されていた。

[崖の手前に立って向こう側に生えている木を目標に槍を撃ち、その上を飛び乗りさらにジャンプしながら空中で三回転半ねじって木枝の間の箱に攻撃すると、アイテムが出現する。それを取って木を蹴って半回転、更に空中に飛ぶ鳥を蹴って元の場所へと戻る]


「動かすのはいいが自分が動くのは、無理。そんなの実際やったら獲る前に死ぬわ!!!!」


そう言いつつディサミナージョン達は崖の前に行って次々とチャレンジした。実行しつつ次々とやられていき、幾つもの屍を超えてアイテムを勝ち取った最後の一人がスラッシュと対峙した!


最強の攻撃を放つディサミナージョン。されど戦い慣れたスラッシュには勝てず、俊敏に動き回りながら幾つもの炎輪を狙いをつけて飛ばし攻撃すると、ディサミナージョンのゲージは尽きて終わりを遂げた。





一方、裏口の方から入ってきたディサミナージョンはドアから中を覗くと社内で一人動き回る咲を見つけた。


「おい、あいつ一人なら楽勝だぜ」


そう言ってドアを割ってそこに居る咲の方へと向かうと、異変に気付いたアリアとサリィもイクアージョン ラナンキュラスとジニアに変華した。


『あいつら、咲さんのところに‥!』


ラナンキュラスは水池の言葉を思い出して部屋に入るのを躊躇していると、中に入ったディサミナージョン達が咲に襲いかかった。


その時、咲は突然身につけていたイクアージョンが輝きイクアージョン アイリスに変華した!


部屋の中で一瞬の沈黙がしたあと、物凄い音と断末魔が響き渡る。

すると、いたたまれなくなったジニアが咲の居る部屋の中へ飛び込もうとした。


「あっサリィ、行っちゃ駄目!!」


「何言っているの!?咲さんが!!!」


止めるラナンキュラスを振り切ってにジニアは扉を開いた!


部屋の中では色んな家具やディサミナージョン達が浮き上がり、身動きできない状態で宙を回っていたのだった。


「サリィちゃん丁度よかった。床が見えるから掃除しようとおもうの」


そう言ったアイリスの周りで回転していたディサミナージョン達を見ながら、急にぽかんとした顔でジニアは言った。


「‥‥私、何しに来たんだっけ?きゃーーーー!!!!」


ジニアは突然体が宙に浮くと、一緒になってぐるんぐるん回り出した。遠くからそれを見ていたラナンキュラスは三条から貰った秘蔵の弾の入ったマガジンを銃に込めると、アイリスやジニア、ディサミナージョンの居る向こうの部屋へと狙いを定めて、撃った!


「咲さん、ごめん!!」


ラナンキュラスの撃った弾は光の屈折が入り混じっただけの空砲で、アイリスはその空間の中の眩い光を見て、急に頭を抱えると何かを思い出すように動かなくなった。




咲の脳裏には幼少時代が浮かんでいた。

それは沙葉が事故に会った直後の頃だった。家族に連れられて病院に行くと沙葉は病室で動けぬ状態で、今まで優しく綺麗だった姉の別人のような姿をじっと見た。


沙葉は手術で一命は取り留めたものの痛みと体の不自由を余儀なくされ、周りの大人達は彼女はもうダメだ、終わりだろうと連呼する。


しかし、沙葉といつも一緒にいた篁が時々やって来ては咲に、沙葉が書いたものだと手紙を渡してくれた。その手紙を見て咲は喜んで沙葉に返事を書いた。それを篁に渡して暫く経つと返事を書いてくれて、咲はそんな沙葉とのやりとりがずっと続くと思っていた。



ある日、突然この世に沙葉が居なくなった。


終わると言っていたものがとうとう無くなり、剰え兄達の喧嘩を見て咲の心は酷く沈んでいた。

病院の屋上で一人、泣きじゃくる咲の元に三条がやって来た。


「祐ちゃん。お姉ちゃんは篁お兄ちゃんのせいで居なくなったの?」


斗川に言われてそう言ったんだろう。若い三条は返答に困ったが、空を見上げながら太陽のようににこっと笑って言った。


「そうかもしれないな、でも、篁お兄ちゃんは、お姉ちゃんとずっと居たかったんだ」


「そうなの?」


「それにほら、俺たちは戦うだけじゃ無い。こんな事も出来るんだ」


そう言った三条はイクアージョンレイに姿を変えた。咲は怯えるようだったが、目の前に幾つもの光の花弁が現れて空いっぱいに舞っているのを手を繋いで一緒に見た。


挿絵(近況ノートより)https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816700427683383378


「咲ちゃんが悲しい顔をしてたら沙葉はもっと悲しいだろう。これからは俺たちも兄貴も咲ちゃんの側にいる、だから元気になるんだ」


そう言って咲の頭を撫でると、咲はうん!と笑うと、斗川の所へ走り出した。


「お兄ちゃん」


咲は斗川の方へと走り寄って来ると、斗川は案じながら声をかけた。


「咲、もう大丈夫なのか」


「うん‥もう大丈夫」


咲は照れるように、お兄ちゃん、と続けて言った。


「私、好きな人が出来たの」


咲は無邪気な笑顔を斗川に見せた。


「ほう、いきなりだな」


「私‥‥祐ちゃんが好き!一緒にいてくれるって!」


咲の、そんな幼心に言った言葉が斗川の心を酷く突き刺し、斗川は心の中で叫んだ。



許さん。

斗川は感情を押し殺して咲に微笑むと、自分が持っていたイクアージョンを取り出した。


「咲、これは沙葉も持っていたものだ」


「おねえちゃんも?」


手渡したイクアージョンに念をかけるように咲の目の前でぼうっと淡く輝いた。


「これで嫌な事は忘れる。沙葉はいつもお前も見守っているから‥‥」





当時の過去を振り返りながら、レイはアノメイオスに言った。


「それから咲さんは何事もなかったかのように振る舞うようになったが、俺が彼女に触ろうとしたり身に危機があったりするとイクアージョンが発動するようになった。今までお前に黄色い声を投げてきた女子社員達にも目もくれず、妹にかかりっきりのお前にはもううんざりだ」


「いつも咲の周りをうろちょろしては恨みがましい目で俺を見やがって。そのお陰で俺は夜も眠れなかった!」


「俺はただ四の後の言わず許しを乞いたいだけだ!心配ない、咲はおれに任せろ」



「誰、が、呼び捨てにして良いと言ったぁああー!!」


アノメイオスが叫んで攻撃しようとした直後、曇った空に光が刺し、花弁が舞うのが見えた。

二人は何かを察すると、アノメイオスは言った。


「そこまで言うなら許してやる」


アノメイオスは観念したかのようにレイを睨みながら言った。


「だがこれだけは断言できる。戦いに明け暮れた挙句狙われるお前には咲は守れない」






三条が会社に戻ると愁達はこの日の出来事を報告した。


「そうか、よくやってくれた。ありがとう」


そう言って彼は後ろ姿を向くと、アリアは三条の後ろ姿を見て呟いた。


「三条さん、ひょっとして咲さんを元に戻す為に私をこっちに連れて来たのかしら」


三条は咲の為に彼女のイクアージョンを解除させたが、アノメイオスだった斗川の言葉が重くのしかかり心の手を離したのだった。

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