2-1初めての戦い

アクセレカンパニーの三条裕卦と水池甫、花園愁は市内のとある公園に来ていた。

木々に囲まれたわりと広い園内。遊具場や広場もあり多くの人が遊んだり運動をしていて、何処からか、ホホッ ホホーホー ホホッ ホホーホーと山鳩の鳴き声が聞こえいた。


「毎度お世話になっておりますーアクセレカンパニーですー」


嘘っぼい営業スマイルを浮かべながら挨拶をした三条裕卦は公園の管理関係者の他に地元の利用者代表であるサカエさんとその一同の婦人達と顔を合わせた。彼らはこの公園付近で最近屯しているという集団を何とかして欲しいという依頼を頼まれたのだった。


「彼ら、子供たちが遊んでいるところをバイクに乗り回してバカ騒ぎして、注意すると突っかかってきてほんっっと迷惑してるんですよ!」


「解りました。彼らが現れるのを待って、見つけ次第対応させて頂きます」


笑顔で対応する三条裕卦にも栄さん一同はキリキリした顔で突っかかって来る。


「早急にお願いします。この公園はほぼこの地区の住民の物なのによそ者に勝手に荒らされて、もし小さい子供が危険な目にあったら、あなたたちのせいですからね!」


「お気持ちはよく解ります、こちらも、皆様の安全を最優視させて見回りを強化しながら犯人の確保に取り組んでいるので、どうかご安心ください」



栄さん達と離れると三条は二人に言った。


「とりあえず俺は向こうを探す。見つけたら連絡してくれ」


「はい」


そう返事した愁は現場に出るのは今日が初めてだった。先輩である水池と二人きりになって内心緊張もし、彼の指示を事細かく聞こうとスマホを触りながら歩いている水池に声をかけた。


「あの、水池先輩。僕、今日が初めてなんです。色々解らないので何か注意点があれば教えてください」


「うん、まあテキトーでいいよ。無理しないでね」


そう言って消えていく水池。自分の意図に反したという思いに愁の顔は一気に重く沈んだ。


『出た、テキトー‥教えたくもない時に出るその言葉‥‥

思えば、今まで何度も真剣に取り組んでバカ真面目扱いされてもっとテキトーにやれば?と言われてきたか。そう言いつつ本当にテキトーにやって後々文句を言われて駄目になる事が幾度もあったんだ‥』


思い込んだら止まらない。愁は更にこの会社の人達の対応に不安に陥った。僕はまだイクアージョンを使った事はまだない。それ故に研修という名の特訓はダメージも疲労も普通に受ける。そんな今までの特訓が脳裏に蘇った。


『いいか。イクアージョンシステムを手にするからには奪われたら大変な目に遭う。ちょっとやそっとの事では負ける事を許されない』


訓練の時の篁は怒ると猛烈に怖いし、先輩の三条は笑ってはいるけど逆に陽気な変態のように攻撃してくるし水池は何を聞いても無関心だし‥‥


愁は子供たちが遊んでいる広場の近くのベンチに座り一人陰鬱な顔で塞ぎ込んでいた。その時、


「君‥‥大丈夫?」


突然自分の顔を覗き込んだ、流れる黒髪のストレートのロングヘア、自分と同じ年齢位の女性が視界に飛び込み一瞬面喰らった。


「大丈夫?物凄い辛そうな顔してたから、つい声かけちゃった。何か悩みでもあるのかなーって?」


女性はそう言うと二つ持っていた片方の缶コーヒーを愁に差し出すと愁はぎこちなく笑った。


「あ、ありがとう。いただきます」


女性が愁の隣に座りカシャ、と二人で缶のプルトップを開ける音。一口飲むと、愁の気持ちが幾度か解れた。


「そんなに辛そうだったかな?仕事がまだ慣れていないだけだったんだけど」


「大変なの?」


「実は‥‥内容は詳しく言えないけど、今日が初めての現場で」


愁は初めて会った女性が隣で親身な顔で話を聞く事に何の違和感も感じず自分の事を打ち明けた。


「社長には怒られるし、だからといって陽気にはなれないし、テキトーって何?って」


「それって」


彼女は缶の紅茶の飲み口を口に触れながら考えると、言葉を出した。


「君に成長して欲しいんじゃないかな?自分で考えて欲しいんだ、って思えば良い方に思えるんじゃないかな」


「‥‥そうだね」


愁は女性のその言葉で少し安堵した。その時、水池から電話がかかってきた。


「花園君、グラウンドで例の連中が集まってるみたいだからすぐに来て」


「本当ですか?今行きます!」


スマホの通話を終えた愁は「あっ、」と声を出し、さっき缶コーヒーをくれた、名前も聞かなかった女性にお礼を言おうと振り向いた。

しかし彼女は話をしている最中に何処かへ行ってしまい、もうここにはいなかった。

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