8 二つの華−1

「三条がディサミナージョン レイになって襲ってきただと?」


愁達は仲間が集まるアジトへ戻り、その後何処かへ行った三条の事を報告した。


「あいつがそんな事になるとは信じがたい、一体祐卦ゆうかに何があったんだ」


事の成り行きも解らない彼らは三条が謀反を企てているアカナに加担している事とも知らず、疑問を投げていると水池は小さく手を上げ進言した。


「三条さんの弱点は咲さんだ。恐らく、彼女をダシにして彼らに脅されたのだと思います」


「あいつの事だからそれは大いにあり得るな。

要は、咲が無事だと言うことさえ解らせれば良いのだろう?」


それを聞いた斗川は内心、相変わらず変なところで生温い奴だと苦々しい顔で舌打ちした。


「まあ確かに、会社に一人で居る咲さんの事も心配だ。二手に分かれよう。祐卦を探しつつ、俺は愁が言っていたアジトへ向かい葉也を探す、湊達は咲の周辺を操作してくれ」


篁は愁、アリア、斗川の方は佐幸、針原で分かれた。


「僕は両方の異次元を探り遠隔操作で対処します。多少のアナザーのホールとやらさえどうにかなれば解決すると思うから」


水池がそう言った後、サリィがふと思い出したように呟いた。


「そう言えば私、咲さんから三条さんに渡す物があったんだ。咲さんの『イリュージョン』よ、無いと思ったらこんな所にあったってやつ」


「何を?彼女のうっかりが伝染するやつ?」


「花の幻影よ。愁くんの炎の技がアリアの銃にも使えるのと同じ感じの、特殊なカプセルに入った物よ‥鞄に入れたつもりだったけど‥あれ?無い」


サリィがカバンの中を探ってると愁が自分のズボンの中に何か入っているのに気づいた。


「これって、今言ったやつだよね?」


空のカプセルを取り出しながら顔面蒼白になった。


「僕‥‥いつの間に使っていたんだ」







その頃、アカナは数人の子分を連れ照屋社長と待ち合わせしていた。

場所は誰にも見られない土肌が広がる場所で、目の前に大きなクレーターのような大きな穴が開いている。この場所に一人で来るように言われた照屋社長はロベリアを見るなり嬉しそうに飛びついた。


「アカナ君、君はその姿でも美しいのぉーふぉふぉふぉ」


そう言ってロベリアの胸部を背後から鷲掴みした後に、滑らかな体のラインに沿って手を這う照屋社長の腕をやんわりと拒絶するように、若干強めに掴んで取り押さえた。

そして無理やり正面に向き直らせた照屋社長は後ろに整列していたアカナの手下達から一斉に歓声と拍手喝采を受ける。


「社長、とうとう時が来ました」


皆が照屋社長を称える賞賛の声の中、冷静を取り戻しながらアカナは恭しく頭を下げた。


「貴方こそこの街、いいえ、この星を統一させる唯一の御方、今こそ其の力を覚醒させるのです!」


そう言って持ち上げられる照屋社長はまさに、一種の霊感詐欺に騙されている金持ち高齢者の姿だった。すっかりその気になり神か悪魔に取り憑かれたように彼は言った。


「わしはどうすればいいのかね?」


「先ずはこの奥へお進みください。そして、これはあなた様の為に作られた特別仕様のディサミナージョン 。これで《神》へとお変わりになるのです」


「そうか‥‥これでわしも‥‥!!」


照屋社長は期待で心躍らせながらそのディサミナージョンを受け取ると、ロベリアは大きな穴の底へと進むように導いた。


「どうぞお入りください」


アカナの声と共にぞろぞろと部下達が中に入っていく中、照屋社長はアカナに聞いた。


「君は来ないのかね?」


「私は一旦戻ってこの後の準備を進めさせて頂きます。盛大なパーティーを開く為の、ね‥」


「離れ離れになるのは寂しいが解ったぞよ。楽しみじゃのう」


そう言うと、お供の社員達と共に底の中へと進んでいく。そして照屋社長は彼を囲む社員が見守る中、ディサミナージョンを胸に翳したー


「うぐぅっ!」


照屋社長の持つディサミナージョンの力で周りにいたアカナの手下達は怪人と化し、照屋社長は光に包まれ自身の体の異変に藻掻いた。


「う、ううう‥た・・た、す・・け・・・」


突然の動悸と息切れで苦しみながら助けを乞う照屋社長の声に、ロベリアは地上から声を張り上げた。


「サヨナラ、変身した貴方を倒してしまえば驚異にはならないわっ!時雄も潰して私が天下を取った後、もし会う事があったら‥そうね、バーコードとして扱ってあげる!!!」


その姿を想像しながら愉快に笑っていると、照屋社長の髪は逆立ち、己の身にスーツを纏いながらみるみる豹変していく。


「おお、ワシの体がどんどんみなぎってくる‥こんな事なら、もっと早くやっていれば良かった!!」


老化していた体は若者のように皮膚が輝き筋肉が盛り上がり、雄々しくも恐ろしいディサミナージョン 栄光グローリーとなり、咆哮を上げ暴れ出した。



※※※※※


※から次の※印迄、三条の解説でお送りします。


ロベリアの子分だった怪人をグローリーはいとも簡単になぎ倒している。すると奴は穴の中からありえない跳躍力でジャンプした。穴の中から突然目の前に現れた、黒光る顔に鋭い眼光の元老いぼれ社長と顔が合ったロベリアは思わず恐怖の声を漏らした。


「ひっ‥‥!」



『これじゃ神というより魔人デビルだ。最も人のことは言えないが』


その光景を見ていたディサミナージョン レイこと俺はそう思いつつ、ロベリアを鷲掴みにしようとするグローリーに飛びかかり光の攻撃で再び底に突き落とした。


「無礼者め、わしを愚弄するのか」


クレーターのような穴の底に突き落とされたグローリーは周辺に倒れている怪人達に目を向け、地に拳を撃って威圧的な声で怒鳴り散らした。


「貴様ら、奴を必ず倒せ!でないと下等部下にして一生わしのパトロンにしてやるぞ!!」


上からの脅威の圧力の一声、パワーセクシャルモラハラ砲を浴び、社長の為に死に物狂いで飛びかかってくる部下の怪人達を俺は迎え撃った。


俺はイボーグによって最大出力の力を発揮した。それを自分で抑える事も出来ず不快な意識の状態で怪人を撃ち、また襲いかかる他の怪人と戦いそれを繰り返しながら思った。


『気の持ちようでこんなに違う物なのか』


今まで何人もの怪人等を倒してきた俺はヒーローのように輝いていた筈だったが、不快な感情一つで彼らと同等だと。醜い戦いを繰り広げ、抑制された己の頭に何かが命令するように聞こえてきた。

‥彼らを倒せば不快な感情は消える。


俺は映像リフェクションを使って何人もの自分を創り出した。部下の怪人達は幻影のレイに惑わされつつそれを狙い、空振りのまま背後から俺の攻撃を受けた。

光の蹴りと拳に何度も撃たれとうとう一人残らず倒されると、グローリーとの一騎打ちが始まった。


俺の不快な感情はまだ続いている。

そんな中、自分はイボーグの力の起伏で元の姿に戻るとそれまで消費していた力が一気に奪われると気付いた。更に抑制された事によって起こる不快な感情は元に戻るまでずっとそこに居る者を攻撃するだろう。

グローリーこいつを倒せば俺の心は晴れる、そう信じて俺は言った。


「俺もお前も、あの女に利用されてとんだピエロだな」


「黙れ!あんな女なぞ逆にこの後思う存分利用してやる!

それにわしの輝かしい栄光に比べれば貴様なぞ光の中の埃!

塵となって消えろ!!」


グローリーはあり得ない力で俺を叩きつけてきた。その衝撃で怯んだ俺に近づき、金色に輝く手を垂直に俺の頭上に振り上げた。一閃に引いた「首切り」を放つが、同時に俺は奴に拳を打ち付けた。


体が大きく弾き、一瞬怯んだグローリーに俺が放った光の粒子が集まると奴の胸で大きく弾け飛んだ。

グローリーはやがて力尽き元の照屋社長の姿に戻ると力尽きるように倒れた。


「やったわっ、ついに社長を倒した!!」


照屋社長がやられたのを見届けただろうアカナの声は歓喜に満ち溢れている。彼女はそのまま姿を消した。

しかしこれで終わりでは無かった。


※※※※※




「やっぱりありました」


ディメンションはエイ市支部の上空に小さなアナザーホールの渦を見つけるとそれを取り除いた。


アカナの手下の怪人達は何時でも襲えるようにとその周辺に居たのだった。それをグリッドとキャプチャーが見つけるとあのメイオスの前に連れて行き、捉えられた怪人達は一斉にアノメイオスの餌食になった。


「ぎゃあぁ!!」


アノメイオスから発せられる擬音と共に気流が怪人達を包み込むと、彼らの体の関節がバキッと、音を立てた。まるで傘の骨組みが離れるように全身が折れた手下共は一瞬でやられたのだった。


「これで全部です」


キャプチャーが報告するとアノメイオスは中を確認する為エイ市支部の会社の扉を開けた。


「咲、無事か?」


アノメイオスは自分の机の前に座っている咲を見つけその顔を見る。


彼女は眠っているように動かなかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る