7−2 昨日の味方は今日は敵(下)

三条がアカナに捕らえられてから数日経ったある日、彼は彼女の謀反に手を貸す事にした。


照屋社長の愛人から手下しもべとなって怪人を使いイクアージョン達を翻弄させてきたディサミナージョン ロベリアこと絹白朱奈。一転して照屋社長と手を切りたいだけで無く、照屋カンパニーとアクセレカンパニー二つのマウントを取りたいとまで言い出した。

そんな反旗を翻そうとするアカナから協力して欲しいと白羽が立たれた三条が敵であるにも関わらず手を貸す行為に及んだ訳はアカナに弱みをつけ込まれたせいもあるが、その他にもう一つあった。


「貴方がやっと私の理解者になってくれて本当に嬉しいわぁ。これからは仲良くやりましょう」


両手を縛られたままの三条に近づきながら、ロベリアの姿をしたアカナは嬉しそうだった。


「うちの会社は別として、そっちの社長を倒すという行為は正直なところ感服した。君のその行動力のみは目を見張るものだ。出来れば手っ取り早く片付けて早く終わらせたい」


「そうでしょ、こんな優秀な人材を無下にするなんて有り得ないわよぉ」


ロベリアは三条の手の縄をほどきながら続けて言った。


「今日照屋社長に会うわ。そこで罠に嵌めるから、そこで倒してくれたら彼は役立たずになる。行きましょう」


ある程度の説明を聞きながら三条は体が自由になった、と今まで拘束されていた手首を動かした。


「俺は最初から一緒に居ないほうが彼らに疑われないだろう。君は先に行ってくれ。後から行くから」


「そうよね」


ロベリアはそう言うなり三条の首筋に人差し指を突き立てた。

彼女の唐突な行為にロベリアに手を伸ばそうとしたがもう遅い、僅かな痛みから意識が壊されたような感覚に陥った。


「‥ぬかりは無いな、俺を操るつもりか‥‥」


三条は呻きながら迂闊だったと後悔した。やはりこの女は俺を道具にしか思ってなかったと。ロベリアは刺した指先を口元に、よろめきながら自分を睨みつける三条を見つめた。


「今から謀反を起こすのよ。イボーグぼうやの力、生身のままだからほんの少しだけ与えて強くしてあげたわ。それとあなたに途中で裏切られたらたまったもんじゃ無いからね。

いい?今日から貴方は私のしもべよ」







「三条先輩、どこに行ったんだろ」


先日の爆発から数日経った今、三条以外の仲間はとっくに合流していたが、いつまでも連絡の無い彼を愁はアリアと水池と共に探す事にした。愁はサリィから貰った三条のイクアージョンを手に海のように広い砂の上を歩いていた。


「水池君、何か解った?」


水池が三条を見つける手がかりを探っていると、彼は顔を傾げた。


「おかしい。三条さんの足取りを見ると彼だけ違う方向に行っている。しかもそこから何かに消されて見つけられない。‥ひょっとして、彼らに捕まったのかもしれない」


「そうだとしたら‥針原君の件もあったし油断は出来ないわ」


「でもあの先輩が捕まるなんて。何か事情があるのかもしれないし、僅かでも足どりがあるのなら行ってみようよ」


そう言った愁に彼らはその周遍を探ることにした。

歩きながらアリアは猫のような目で愁を見つめるとふと言った。


「愁君ってホント三条さん好きよね」


「そう?僕は先輩の事、尊敬してるから‥」


「そう言って忠誠心みたいなのは見えないし、二人を見てると時々妬けるわ。同じ子弟関係でも水池くんは違うでしよ」


話を振られた水池は顔の表情を変えずに目を光らせて言った。


「‥三条さんはいい時はすごく良いけど悪い時はとことん最悪だ。彼を一言で言うなら光の悪魔だよ。そもそも、僕のこの性格は彼によって形成されたようなものだから」


「それ、元からじゃない!でも一度三条さんと戦った事があるけど、それはあるわね」


そう言っていると、遠くに異次元が歪んだのが見え、その中から誰かが出て来た。


「あれ、アカナって人だ!」


三人は一瞬で緊張が走った。


「‥すると此処が本拠地なのか?」


彼らが身を潜めながら小声で言っているとロベリアの姿は消え、それを追うとしていた時だった。入れ替わりに異次元の歪みから一人の男が現れると、それを見た愁達の表情が更に驚いた。


「あれは、三条さん!」


三条は自分を呼ぶ愁達に気付いて視線を変えた。

しかしいつもと雰囲気が明らかに違う事に愁達は気付いた。普段は柔らかい表情で笑っている時の面影は無く、冷たい目で一点を見据えたまま自分たちを見ている。そんな顔を見るのは初めてだった‥


挿絵(近況ノートより)

https://kakuyomu.jp/users/mira_3300/news/16816927859779686552


「先輩、此処って奴らの‥」


愁が声をかけると三条は重い表情で「そうだ」と口を開いた。


「俺はこれから一人でやる事にした。何時迄もグダグダやっているお前等よりこっちの方が早いからな」


「だったら僕たちも行きます。これ、先輩のイクアージョンです」


「結構だ」


そう言った三条は自制心が効かない自分を睨みつけるように姿を変えると、危機を感じた愁たちも変華した。



「‥‥あれ、レイなの?どうして!」


いつもと違う姿、ディサミナージョン レイに変わった三条に三人は信じられないという顔をした。


「‥‥ひょっとして先輩も‥ディサミナージョンに ?‥‥そんな!」


「やりたくは無いけどやるしかないわ」


針原もディサミナージョンに変わった佐幸と戦った事を思い出し、意を決するとレイが構えた。


「邪魔をするならお前たちを先にやる」


自制心を失い更にイボーグの力で強くなったディサミナージョン レイは煌めきながら戦闘体制に入ると、鶫、ラナンキュラス、ディメンションの三人は彼の事情は知らず、ただ「レイを倒す」という一心で動いた。



先ずはディメンションがレイを自分の世界に入れようとし彼を次元に捕らえる。しかしレイは全身から色とりどりの光を発するとステンドグラスのような世界が彼らを逆に取り囲んだ。それが万華鏡のように輝き、そこに居る者達の姿を交差させると、レイが映し出されていた破片の中から実体が現れ三人はそれぞれ対峙した。

ディメンションがレイのゲージを下げようとする隙を与えずに攻撃を与えてくる。彼の攻撃を次元に飛ばす壁に加え、現実の世界でもダメージを与えられる次元外の攻撃をレイに放った。


ラナンキュラスは向かってくるレイに渾身の蹴りを放ち、拳を打ち付けるもガードされ、高速の動きで難なく躱される。

肉弾戦を交わしながら一閃で出来たリボンでレイとの距離をとり、銃で狙った。


スラッシュは炎輪を放ちながらレイが大きく振りかざした腕から発する光と攻防を続けていた。

彼は地を蹴り、加速をつけて自身を回転させながら繰り出した炎の嘴を雨のようにレイに降らせた。



(ラナンキュラス)「あの時レイは映像リフェクションを使っていたけど本体は一人だった。けど今は私たち同時に攻撃してくる」


ストロークやアノメイオスだったなら彼と対等だったかもしれないが鶫、ラナンキュラス、ディメンションの三人が最大限に発揮する実力値は僅差で、しかしそれを超えるレイの力には及ばず圧倒的に押されていった。


鶫はそれぞれのレイと戦っているラナンキュラスとディメンションに言った。


「アリアは水池先輩を守って。そうすればこの状況から抜け出せる方法が見つかるかもしれない」


(ディメンション)「これはディサミナージョン  レイが特殊な力で作り出した世界らしい。やはり全てを倒さないと無理みたいだ」


「それなら僕が戦うから」


そう言って鶫は目の前のレイに言った。


「全員僕が相手だ」


「そうか、ならば行くぞ!」


今までバラバラにいた複数のレイは鶫に集中しとびかかった。それぞれのレイが高速の光を放ち、光を駆使した拳や蹴りをぶつけ総攻撃を受けながら鶫は懇願するように言った。


「先輩、お願いです。元に戻ってください」


「お前は何時迄も俺を頼って甘えているな」


突き放すレイに鶫は自分の気持ちを話すように真っ直ぐに見たのだった。


「三条先輩は何も出来なかった僕の事を見放さず強くなれるように教えてくれました。僕がこうしていられるのは先輩のお陰なんです‥これからも三条さんを目標に‥‥だから絶対に止めます!」


そう叫んだ鶫はレイを見据えると、全身炎の粉が舞い散るように吹き出た。レイは一旦鶫の近くから離れた。


先ずは攻撃してくるレイを止めないといつ迄経っても勝てないと思った鶫は、空間の中を反射するように飛び交う幾つもの光線を躍動的に動きながらかわし、それを放ってくるレイの動きを読んだ。


『ー今だけでもいいんだ、三条さんを超える力を!』


舞い上がる鶫の炎は渦となってレイの空間の中を大きく動いた。小さな鳥の大群のように飛び回る紅い炎が複数のレイを包み込み、鶫はそれぞれのレイに一撃ずつ拳を放ちながら、



レイが鶫の攻撃を受けたあと、万華鏡のような世界は消えた。元の砂だけの場所に立っているレイは鶫を見ながら静かに口を開いた。


「それでいいんだ」


そう鶫に言ったあと、彼は後ろを向いた。


「しかし俺は行くところがある」


そう言って踵を返したディサミナージョン レイはその場を去っていなくなった。

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